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漂う事件の臭い。少女は惹かれて仕方がない。

こっから龍生と神崎のタッグが始まります。

神崎のツッコミをご覧ください。

 制服についた埃を払いのけ、仕方なく教室の中へと入った。


 すると、前列の一番向こうに龍生の姿を捉える。

 向こうも気がついてそっぽを向いてしまった。



 神崎の正義感が怒りに変わるが、そこを抑えてまずはクラスへの自己紹介に集中する。

 教卓の横へと歩いていく。それだけで教室中から歓声が上がった。

 しかし少女が教卓の隣に着く頃には、その端麗な容姿に見とれてあたりの声がなりをひそめていた。



 ミーケが手のひらで指し示しながら紹介を始める。

「ええか? この子が今日からみんなと生活を共にする女の子。神崎慧見かんざきえみさんです。なんでも、あの暁高校からの転入生らしいから、勉強とか教えてもらってもええかもしれへんで、ははは。じゃ、自己紹介を……」



 促されるまま、神崎は胸を軽く張って、生徒の顔を一望する。

「初めまして、神崎慧見と申します。皆さんと楽しく学園生活を送れることを楽しみにしていますので、これからよろしくお願いいたします」


 そう言って軽く頭を下げ、次の展開を待った。

 しかし、その場の皆が静まり返り、次の展開を待っている。



 すると隣から小さな声で「え? それだけ?」


 神崎は驚いて振り返るが、ミーケは慌てて首を横に振っていた。

「い、いやぁ、それが普通なんよな。ありがとう! みんなも拍手しいや!」

 促されるように拍手が起きる。




 ミーケは気を取り直して「じゃあ、何か質問ある人!」

「「「はい!」」」

 溌剌な男子の声と手が三つ上がった。

 ミーケが指を指して、

「じゃ、高杉、杉浦、河合。順にいってみろ」

「彼氏いますか!」飄々として。

「バストはいくつですか!」くもりのない童顔が目を輝かせ。

「結婚してください!」すっきりとした坊主頭がそう申し出た。

 ミーケはスマホを取り出して「通報したぞ」

「「「しちゃったの?」」」

 その瞬間、笑いが起きる。

 神崎はその瞬間にこのクラスに妙な違和感を感じた。




 少しおどけている少女を横目にミーケ先生がさりげなく、

「じゃ、他の質問は?」


 すると高杉が凛として、

「あと百個質問いいですか!」

「あかん、他は?」ミーケが拒否するも、また高杉が、

「あと千個質問いいですか!」

「あかん、次!」

 すると高杉が、

「じゃあ、あとマン——」


 瞬間、ミーケの足が教室の床を強く蹴りつけた。

「それ以上言ったら殺すで?」

 しかし、高杉は思わず「k——」


「ウラアァア!」

 瞬間!

 ドスの効いた声、突然の突風!

 視界に映ったのは腕のフルスイング。遅れて空気の衝突音が響き、ミーケが強烈なスナップを効かせているとわかった。

 手元からは白い線が解き放たれ、高杉の額を弾いて延長線上の壁に軽い穴を空ける。

 飛び散る鮮血。


「「高杉!」」

 杉浦と河合が彼に駆け寄ると、



「だ、だめだぁ! 額から後頭部まで白のチョークが貫通している!」

「馬鹿野郎! 先生の『キルコール』になんで逆らったんだ!」


 すると教室の右側からおしとやかな女の子の声が、

「せんせーい、高杉くんを保健室に連れて行ってもいいですか?」

 ミーケは困った顔で、

「大丈夫や、木工用ボンドかなんかで穴埋め解けばそのうち治るから」



「え? 死んじゃったの……?」と神崎が戸惑いを見せると、ミーケ先生が肩を叩いた。


「とまぁ、こんなクラスやからあんまり気負わんとな、気楽に。あれは死んでないし。席はあそこやから」

「ちょ、待ってください!」



 ミーケは神崎の言葉も聞かずに、龍生の隣の空席を指差して教室から出て行ってしまった。

 高杉の蘇生を試みている生徒たちを放って神崎が着席する頃には、隣の龍生は学ランの内側に頭を引っ込めていた。



「何してんのよ?」

「スペースシャトルの発射準備です」

「どうも、はじめまして!」神崎は龍生の足を強くふんずけ、龍生が学ランの中で揺れてもがく。



「ぐあぁ!」

 すると、学ランの第二ボタンが外れ、中から龍生が目をのぞかせた。



 悲痛な声をにじませた後、奥歯を噛み締めているよいうな標準語が聞こえる。

「何するんだ……!」

「女の子を線路に落とすなんて最低」

「あれは勝手に落ちたんだろ……!」

「嘘言わないで、押したのを見たわ」

 神崎の軽蔑の表情。

 それが龍生には気に食わなかった。



 学ランから飛び出して猛抗議する。

「ブハァ! 何を見たって? 冤罪を招くようなロクでもない観察眼でよくそんなことを言えたな」

「な、なんですって……!」



 神崎は乗り出して睨みつけて、

「あんたがやったことは傷害罪よ! 列車妨害材でもあるわ!」

「目の前の人間が線路に落ちただけでひどいいいようだな」



 龍生の言い草に彼女は冷静さを取り戻し始めると、

「このことは警察に報告させてもらいますから、せいぜい反省することね」





 聞き逃せない発言に今度は龍生が身を乗り出した。

「いいか? あの女子生徒は確実に黒だ。なぜなら、最近流行りの痴漢ビジネシに手を出していたからだ。それくらい見たらわかるだろ?」

「意味わかんなわよ、なんでそう決め付けるの? あの太った男性がやったんじゃなかったら他の乗客がやったに決まっているわ」

「はぁあ?……わかんないやつだなぁ。言ったろ? あの状況であの女に痴漢をする人間はいないんだよ。たとえどれだけ発情期でもな」

「それが理解できないわ。あくまで想像上の話でしょ? それに、もし本当にそうだとしても、誰かの手荷物が擦れて勘違いした可能性だってあるでしょ? なんで痴漢ビジネスになるのよ? それに、あんなとぼけた証言を聞いていて、なんで違うって言い切れるのかしら?」




すると瞬間、龍生は吐き気がした。胸糞の悪そうに胸元を抑える。

「うえぇ」

「ど、どうしたのよ急に……!」

 彼は少し息を落ち着けると、


「なんか違うと思ってたんだよ、その言葉には指摘されてからずっとな」


「どういう意味? あの太った男の人は完全に惚けてたわよね? 本当に冤罪ならもっと動揺するはず」神崎にはやはりそう聞こえているようだ。

 龍生はまた気分が悪そうに「そこなんだよ、そこ。俺はその指摘を受けてから頭の中で何度も反芻したが、全く情動的でなく事務的だとは思わなかったわけだ」



 龍生はそれに首を振って、


「そもそもなぜ、冤罪被害もないお前がそんなことを言い切れるんだ?」



 神崎には心外な発言だった。

「あるわよ、間違われて疑われたことの一つや二つは!」

 龍生はため息をつく。

「いいか? 状況的に考えてあの太った男の人は確実に犯人じゃない。なら、惚けた表現になった理由っての犯人じゃないなりにあるんだよ。よって、セリフの違和感じゃなく、別の部分がおかしいから違和感を感じたのが正しいはずだ」

 そうだな、もっと丁寧に描写すべきだったな。


 続けると、

「第一に、あの男の人は俺が助けに入るまでもなく、あの状況を難なく脱出できていただろうからな」

「一体どういうこと?」


 神崎に尋ねられて、龍生は神妙に、

「まず初めに、とぼけていた理由だが。言ってた通り、普通の人間じゃない。とすれば? 普通じゃないんだろうな、特に性格が。思いつくコトはあるか?」


 神崎は少しためらうと、

「普通じゃないって……サイコパスでもあるまいし」

「その傾向はあるだろうな」

「うそよ……だって、サイコパスは頭がいい傾向にあるはずよ? それならもっと的確に否定わよ……」

 神崎は明確にうろたえていた。目の前にいた人間がその傾向にあるのかどうか、見逃すはずがないと思っていたからだ。


 龍生は首を振って、

「まあ、想像の域は出ないがな」







 気まずい時を数秒こらえて、彼女は話を戻す。

「でも、冤罪とは限らないじゃない……」



 龍生がため息をつくと、

「はぁ、いいか? あの人間は怯えていなかった。それも全くな……。代わりにどんな顔してたと思う?」

「……怯えてたに決まっているわ、きっとそうよ……!」

 話が進まないと判断した龍生はこう提案する「じゃあ、あとで確認しに行くか?」

 

 ふと出た提案に拍子抜けて、

「確認?」

「……あの女にだよ。制服は俺たちと違うが、ここは中高一貫校だ。中学生も通うわけで、その女子はあの制服を着ているんだよ」



 神崎はそれを聞いてリベンジとばかりに受けて立った。

「いいわよ、でも私が正しかったら自首しなさいよ。いいわね?」

 龍生は疲れた顔で「好きにしろ」とだけ言った。

2018年1月のうちにツイッターを始めたいと思います。是非ご覧下さい。


次回!『探偵コンビ始動! スイリヤの推理はお気に召しますか?』

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