出会う二人は最悪の印象。
ここから主役の少女が学校生活を始めます。
でも、同時に男の方の主役は彼女を異次元に巻き込むつもりです。
チャイムの音がする。
この浄然学校のチャイムは中途半端だ。公立の中学校から入ってきたものは皆が口を揃えてこういう。
『最後の一音抜けてるやん!』
それくらい中途半端な音だ。
しかし、それにも二週間で慣れ、話題にも上がらなくなった頃の『普通コース』一年生の教室は、年季の入った黒い木材で作られた独特の香りを漂わせる。
廊下や別棟などは清潔で新築であることを感じさせるが、ここは違った。どうやらそれが売りらしい。
正直うざい。
これが生徒の意見である。
特にこの少年、妙に落ち着いた青年、龍生はこう考える。
『無意味な授業で時間を潰すよりも、自分のやりたいことをやったほうがいいのでは? そもそも、将来設計も立てさせずに勉強を詰め込むのは夏目漱石がエデュケーションを発育ではなく教育と間違って訳したことの弊害ではないのか? とにかく気取った感じのこの学校がうざい』
結局うざいのは変わらないのだが、そんな少年を登校させる理由がこの学校にはあるのだ。
それは少女も生活しているうちに気がつくのだろう。
「おーい、お前ら。もうホームルームが始まるぞぉ。席につけよ。席についたやつから授業の用意やぁ」
学校の先生。担任のミーケが教室のドアから顔を出して声をかける。
ミーケはあだ名で、名前が池野三毛というところに由来している。
先生は気さくさが売りの女性だ。
「ほらあ、さっさと着席しろぉ」
この高校が男子校時代から勤めているらしく、不動の人気を誇る女教師の一人だ。
耳を澄ますとその玲瓏な声がやけに落ち着きを与えていた。
しかし、落ち着くからといっていうことを聞くわけではない。
龍生は先生の掛け声から生徒が皆席につくには五分かかると知っていた。その時間で悠長に階段のトイレへと出かける。
「こら、トイレは済ませておけと言ってるやろ」
「スンマセーン」
だが急ぐ様子はなくトイレに向かって、用を足し、自然と帰ってくる。
先ほど、皆が席につくには五分かかると言っていたが、その最後の一分は彼のトイレタイムである。
しかし、そこに声がかかった。
「早くしなさいよ」
「うん?」
龍生が首を傾げて後ろを振り返ると、そこには表すなら一言で『綺麗』が出てくるようなそんな少女だ。
どうやら、教室に早く入れと言いたいようだが、彼女の姿を見たことがない。
……いや、見たことがある。
こちらがそんな顔をしていると、それは向こうも同じだったようだ。
「あ、あんた!」
駅で会った少女が大きく口を開いて今にも叫び出しそう。しかし、
「こんにちはー……」
龍生は見事にスルー。トイレへと避難する。
「ちょっと待って」目の前を屈んで通り過ぎようとした龍生の方を掴んだ。
「ナナナナンデスカー」思わずらしくないおとぼけ越え。
「あんた今朝駅であったわよね! 女の子線路に落としてタダで済むと思ってんの?」
「シラナイシラナイ」
「嘘つくな!」
すると龍生が掴まれた手を解いて逃げ出そうとしたので、少女が手首を返して逆に関節技を決める。
「あててててて」
「逃げようったって無駄よ」
「ほいっと」
「え?」
一瞬、龍生が痛がったかと思うとすぐさま視界から消え、今度は少女の視界が傾く。
そのままかわいい声をあげて地面に叩きつけられた。
すかさず顔を振り回してあたりを確認したが龍生はいない。逃げられたのだ。
少女は悔しがって少し腕を振る。
そして、次見つけた時にはどうしてやろうかと考えていた時、ミーケの慣れない標準語が聞こえてくる。
「神崎さん、どうぞ入ってください。いまみんな揃いましたから」
「あ……。はい、わかりました」
制服についた埃を払いのけ、仕方なく教室の中へと入った。
よく見ると、この欄って二万文字使えるんですね。めちゃすごくないですか?
次回、『事件の匂い』