異常発達の概念
「いってぇ……おほん、君たちはどう思っているんだ? 異常と言っても、世の中は正常に回っている。ぱっと見ではなんともない街中、これに異常と言える人間は少ないだろう」
薬師は鋭く語った。急に尖った視線、物腰に緊迫感が膨れる。
その最中も彼は龍生の観察を続けるが、数秒ごとに龍生の視線が『見ているのを見ているぞ』と言わんばかりだった。
薬師は冷静に、
「まあ、既に知っているかもしれないが『リ・アクション』というものがあってね。これは科学的にも論理的に説明できるんだが、あまりにも特徴的でね。国際連合によって受動的非公開とされている。だから、この事実を知っても、理論を知っても、何か危害を加えられるということではない。でも、ネットやテレビ、新聞では取り扱わないと決められており、見つけ次第記載を削除しているそうだ」
薬師は机に置いてあったペットボトルの緑茶をてにして一口飲むと、
「でもね、それは逆に知れば松崎さんみたいに狙われる情報もあるということだよ。わかるね?」
神崎は頷いた。それを見て薬師は続ける。
「この関西には知能発達が見られる。それは大きく分けて五つの分野でだが、もっと分類たがるとも最近は言われている。『知識』『推理』『感覚』などがあるんだが……と言っても、正直よく伝わらないかもしれないねぇ。
言うなれば、神崎くん。大阪に来てから君の周りにいた人物を思い出してもらいたい。『想像』と『具現化』の能力を使う人々がいたはずだ』
神崎の心当たり。それは彼女がこの学校に転校してきてからのおもしろいがありえない出来事。
ミーケのチョークを使った銃撃。
意味のわからない体育。
そしていつの間にか手に現れるハリセン。
それもこれも全て『リ・アクション』という能力だと説明されていた。
彼は手を出して「そして、それらの能力には0〜5の段階の区別があるんだ。0は特異的ではない、5は最高レベルの特異能力。なんだか、超能力とかそんな話にな理想だけど……たとえば、僕は『知識』の面で4(フォー)だけど、『リ・アクション』に必要な『具現化』は1(ワン)だからここに通う生徒達みたいにバカ騒ぎできない。みたいに、一つの能力がそれぞれ発達していたりそうじゃなかったりするんだよ」
薬師は松崎の顔を見て、
「松崎さんはレベル何ですか?」
「私は『知能』がレベル2です。あ『知識』は3ですかね」
「と言った具合だ。確か、瑛琳ちゃんは『推理』が5だったよね」
その時、瑛琳が小さく舌打ちを行った。
薬師は補足的に、
「そしてそれらの能力は関西圏内に入った人間に現れる傾向もある。つまり、これらの特殊的な能力は後天的だ。と、そこまでしか言わないけどね。これ以上言ったら本当にやばいから」
すると机に向かって資料の整理を始めた。
「君たちも、いさらぎ先生のことはあきらめたほうがいい。これ以上危険にさらされる必要もないからね」
そして龍生を見て警告のひとこを、
「わかってるね? 探偵屋さん」
瑛琳が実に不愉快そうに小さく呟いた「ふむ……感づかれているなぁ」
そうすると途端に、
「松崎とやら。君にはまだ聞きたいことがあるのだがね、また後日尋ねることにする。神崎、龍生を連れてこい。保健室は私たちにとって部が悪すぎるからな」
すると颯爽と保健室を出て行った。しかし扉際で、
「薬師、趣味が悪いから盗撮はやめたまえよ」
それだけを言い残し、出て行ったのだった。
神崎もあまり理解できないまま龍生の手を引いて出ていく。
松崎は薬師に尋ねた。
「盗撮とはどういうことでしょうか?」
「ばれちゃってたねえ〜」
薬師は机の上で栽培しているサボテンを手にとってそこからカメラを取り出して、松崎に尋ねる。
「彼が問題の生徒ですか?」
「はい? そうですが……なぜ名前しか教えていないのにわかったのですか?」
「みればわかりましよぉ、龍生くんかぁ。彼はもしかしてAll fiveかもしれなねぇ。良いデータが取れた」
保健室を出た先は木製の校舎の独特な匂いが漂う廊下。
瑛琳は不機嫌そうにずかずかと歩いてはその廊下の滑りやすさに足を取られつつ前へと進む。
神崎は龍生の手を引いいていたが、ようやくその事態のおかしさに気がつくと手を振り払って瑛琳の隣についた。
「何をそんなに怒っているの? もう少し詳しく説明してくれないかしら?」
神崎に尋ねられ、瑛琳は身長に見合わない大人びた声で答える。
「きみぃ、私が何かの異常によって知能が高いと思っているのかね? それならばこの上ないほどの侮辱と考えるのだよ。私の知能は全て自前だ」
「……それはどういう意味?」
「そんなことより、龍生を心配してやれ。確かに、毒物を摂取した松崎も危うかったが、彼もそれなりに大変だったのだよ。龍生は『成長』の能力がある。目の前の技術を簡単に習得できる分、私のように彼より圧倒的に実力がある場合、それなりに負荷がかかるのだよ」
神崎は龍生の顔を見やった。もう既に疲れている様子はなかったが、えらくさっぱりとしていた。
彼女は龍生に近づくと、
「大丈夫? 龍生?」
「あ、ああ。もう大丈夫だ。ようやく元の調子が戻ってきた」
「そう……」
瑛琳は二人の姿を鼻で笑って先に進んだ。
「まったく、薬師のやつはみぬいているだろうなぁ……なにせ、強迫性障害は見抜きやすい」
薬師は保健室でニッたり笑っていた。
手元の資料には『レベル5』の特性調査論文がある。
『うつ、強迫性障害、統合失調症、このどれかがレベル5には出やすく、特に『成長』が5の人間を研究チームはAll fiveと定めた』
「君が金色伝説かぁ。楽しみだ」




