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君に幸あれ!

 あらすじに手を加えました。気が向いたら読んでみてください。

 あと、今回は読み飛ばして頂いても構いません。

 しかし、設定が見え隠れしますので、キャラクターを楽しんでいただきたい方はぜひお読みください。



 静寂が埋め尽くす、大きな書斎。


 薄暗い中、壁には肖像画がいくつも掛けられて、その全てが薄眼を開けた平静の面持ちだ。

 髪の毛は全て剃られ、召し物からその肖像画の人々が出家している人間であることが窺えた。

 すると、しーんと気配が静まるその部屋の扉を、ノックする音が聞こえる。


「失礼します」


 返事も待たないまま扉を開けると、そこには粒さな瞳の少女が入ってくる。正義感が灯るその目に揺らぎはない。


と、思っていたが、今朝の駅で起きた出来事に頭をもたげ、集中力を少しだけ途切れさせる。

ため息をつくと目の前の人間のあくどい部分を全て覗き込むように静かにまたまた。


 続いて、メガネを掛けた女性が慌てて入ってくる。どうやら、少女の部屋への入り方があまりにも堂々としたものであるために、怖じ気付いていたようだ。

「し、失礼します!」

 少女の足音をかき消すかのような大きい声でそう言うと、薄暗かった部屋を壁のスイッチで少しだけ明るくした。


 すると目の前に大きな机と大きな椅子。それに座って目を瞑る頭を剃った男性が照らし出される。


「う、うぅ」


 男性は明るさに顔をしかめながらも、次第に慣れて肖像画のような薄眼を開けた。


「遅かったじゃないか。君が遅刻をするなんて思いもよらなかったよ。善蔵ぜんぞうから几帳面だと聞いていたものでね。あいつの娘なら度が過ぎた几帳面だと思ったのだが、むしろ逆を付いてくるとはね。十分の遅刻だ」


 するとメガネの女性がすかさずことを説明する。

「理事長。今日は電車で事故がございましたので、そのせいかと」


「いやぁ、善蔵が遅れるならともかく、流見りゅうみさんの娘が遅れるとなると、何かあったと言わざるおえんからな」


 少女は前置きにうんざりして、

「伯父様、本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「よかろう、慧見えみ」理事長は少女をそう呼んだ。

 彼女の冷徹な声はそばに何か大きな情熱を抱えている気がした。だが、伯父の前では明らかに警戒し、軽蔑し、表情には鉄仮面を被っているようだった。



「私の浄然学校への変入を認めていただいてありがとうございました。伯父様の計らいを無駄にはせず、一層勉学に励む所存です。つきましては——」

「——止めろ」

 理事長が右手を出して「要するに、君はこの学校の一年生に入学を迎えられ、そのあかつき高校トップの実力で我が校から優秀な大学に進学する、と。そう言いたいわけだな」


 少女は頷いて口を開くが、理事長が遮るように、

「だが、なぜ大阪に出てきた? 君なら海外の高校でも通用するだろうに、暁高校よりも学力が下回るこの高校になぜ?」


 少女が少しうつむき、

「それは伯父様ならわかるんじゃないですか?」

 理事長が少し息を吐いた「君は賢いなあ。君がここにきた理由と、善蔵がここに来ることを許した理由とをすり替えようとした。聞かれても答えない気じゃな」

 すると、ニッたりと笑って「和見かずみにでも会いに来たか」


 少女は表情には出さなかった。しかし、何も話さない事で態度に示した。

 これ以上は詮索するな、と。


「よかろう」理事長が座っている椅子を右に回転させる。

「君には学力のコースを選んでもらわなくてはならない。なぜなら、我が校には学力レベルが三段階用意されているからだ。まず初め——」


「一番自分の時間が持てるクラスがいいです」


 少女は話を遮って進言した。

 理事長が首をかしげる。

「それはつまり、我が校でもっとも学力の高い『パワーコース』やその下の『チャレンジコース』を拒否し、一番学力の低い『普通コース』がいいというわけじゃな?」

「はい」


 そこでメガネの女性が慌てたように、

「お言葉ですが理事長。暁高校は偏差値が75。そのトップともなれば確実に85以上の偏差値が彼女にあるはずです。それを偏差値が52の『普通クラス』に入学させるなんて、彼女の将来のためになりません。いい大学に入るには、環境というものが必要で——」


 そこでため息とともに「お前は何も分かっておらんのう」理事長がため息を吐いた。

「よかろう。慧見。君は今から我が校の生徒だ。『普通コース』でもできるだけ優秀なクラスを紹介しよう」

「ありがとうございます」

「理事長!」

 メガネの女性が会話に声をかけるが二人は耳を貸さない。

 理事長は大きく手をあげた。


「君に幸あれ!」


次回、『スイリヤとの出会い。だが神崎は気がつかない』

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