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スイリヤは身勝手だが、妖精もこの上なく身勝手だ

みなさん、インフルエンザでも心配無用。私はこの作品を乾燥させてみせます。

     1



「では、密室の話をしましょうか」


 警部補はすでに龍生の言葉に期待をしていない。

「ああ、もうかってにやってくれ。俺は少し考える」


 龍生は室内を歩き回りながら、

「密室。それは先程言った通り、いさらぎ先生が作り出したものです。簡単に言うと、撃たれた後叫びもせず自ら扉を閉めた」


 警部補は何かをすっかり考え込んでいるので、神崎が代わりに尋ねた。

「でも、どうしてそんなことを? 助けを呼べば助かったかもしれないじゃない」


 龍生は続ける。

「それはそうだ。でも、そこでいさらぎ先生が発見されたら一体どうなる?」


 神崎は困って、

「どうなるって言われても……」


 すると和美は「面談していた女子生徒が疑われるやろうな」


 神崎は気がついた。

「そうか! いさらぎ先生は桃白さんを守りたかったんだ」


 龍生が物分かりの良い神崎に補足説明をする。

「そうだ、殺された時間に一番近い時間に被害者と会っていた人物が疑われる。そして、桃白の場合は一旦疑われると確実に重要参考人にされていただろうな」


 警部補はその話に我慢ができなくなって、

「どうして重要参考人にされることをそんなに危険視する! 重要参考人はあくまで重要参考人、犯人にされているわけじゃないぞ」


「だが実際にその先も考えていた。それは事実です」


 龍生の推測に警部補は言葉を詰まらせた。


 ゴンッ!


 だが龍生はかかとで床を少し強めに蹴りつけると、注目を集め、

「ですが、なぜいさらぎ先生は桃城を重要参考人にしたくなかったのか。それはいさらぎ先生と彼女が冤罪を計画していたからです。もし、そんな彼女が重要参考人になれば、それこそ殺人の冤罪をかけられるところまでコロコロと転がっていたことでしょう」


 警部補や松崎、ミーケまでもが唖然とした。

 しかし和美はいかにもそれくらいわかっているという顔だ。


 龍生がつづける。

「まだそこまで捜査が進んでいなかったのでしょうが、要するにいさらぎ先生が桃城をそのことで脅迫していたとするならば、彼女には殺す動機があることになる。ま、それだけなら証拠不十分で不起訴落ちでしょうが、自白強要というものがこの世にはありますからね。それも懸念してのいさらぎ先生の隠蔽工作というものでしょうか」


 さらに続ける。

「いさらぎ先生は28分に撃たれた。だけど30分に会議室を覗くと誰もいない。この状況は、おそらく松崎さんの覗いた前にはホワイトボードがあって、扉の前は見えなかったんじゃないでしょうか? いさらぎ先生は鍵を閉めた後、ドアにもたれかかって亡くなった。だから、ホワイトボードに隠れて見えなかった」


「そんな馬鹿な……」警部補は愕然とすると「だが被害者は床に倒れていた」


 和美が口を挟むように、

「それがドアを開けたから向こう側に倒れただけや。ドアが重かったんかも知らへんけど、まさか倒れこんでいるとは思わへんからな。気付かんかったんやろうな」


 そして龍生はこう捨て台詞を吐く。

「ま、ビニール袋に指紋が残っていないなら、もう犯人を起訴する証拠はありませんよ。複数犯のこの事件、カメラもハッキングして、学校の事情も知っていて、袋に指紋ひとつ残さないのであれば、これはもう完全犯罪ですよ」

 すると龍生は視聴覚室の出口に向かった。


 神崎が呼び止める「どこに行くの?」


 龍生はつまらなそうに、

「もうこれは解決できるもんじゃない。誰かの荷物から凶器が出て来ればまた別の話だろうけど、そんなんありえないしな」

 彼はその場を後にした。




 結局、視聴覚室での取り調べは長時間続き、終わった時には夜になっていた。

 龍生が帰った後も、神崎は目の前の事情聴取を入念に観察し、自分に足りていないスキルを見つけ出そうとしていた。

 しかし、事情聴取はあまり面白みがなく、神崎が得られた情報もあまりなく。

 ひとつわかるのは、板垣警部補が英語教師と経営コンサルタントのどちらかが確実に犯人であるという自信があることだけだった。

 他には特筆することもなく事情聴取は終わる。


しかし、いさらぎがすぐに助けを求めて命が助かっていたならば、桃城が疑われることもなかっただろう。

それでも、そうせざるおえなかったのには誰も結論がつけられなかった。


     2


 視聴覚室から図書室に向かう金色の探偵。

 隣には背の低い男の秘書が付いている。

 和美は呟いた。


「まったく、変な用事で長居しちゃった。でも、今日の目的は捜査じゃなくって本を探しに来たのよ。本を」

 秘書は呟いて、

「あなたの寄り道癖はいつも通りですよ」

 そのまま図書室を目指す。



 すると目の前に小さな小学生ほどの身長の女の子が歩いてきた。

 その女の子は黒髪だがまるで西洋の妖精のようだ。

 手には緑の古い日記のような物を抱いている。

 和美は気にせずその隣をあるいていった。


「あれ? 今の本って、ちょっと待って!」


 彼女はすれ違った小さな妖精を呼び止める。

 小さな妖精はそれが気に食わないようで、不服そうな表情を浮かべている。

 するとひとこと。


「何の用だね?」


 女の子らしからぬ言葉だ。


 だが、和美はその小さな妖精の放つ大きな威厳を前にしてもおじけずかない。

 気安く話しかけた。

「かわいいお嬢さん? わたし、その本を仮にここに来たの。できれば、それを譲って欲しいんだけど、いいかしら?」


 妖精は不服そうな顔から呆れた顔をして、

「なんだね、君も『めこみみめこのめこ』の日記を読みたいのかね?」


 瞬間、和美はゾッとする。

 妖精の放った『めこみみめこのめこ』という言葉。

 そんなものを知っている人間は、おそらく今この場では和美とこの妖精くらいだろう。


 和美は慎重に尋ねる。

「『めこみみめこの巫女』の日記、私も読みたのよ。お願い、少しだけでいいから、貸してくれない?」

 そういう彼女の目はギラギラと獲物を狙っていた。


 妖精は仕方なく。

「いいだろう、ついでにこの日誌を図書室に返しておいてくれると嬉しいのだがね。君の読みたいところを読むといい」


 すると、緑の古い日誌を和美に手渡して、妖精は廊下の奥へと進んでいった。

 和美は手に取ると必死でページをめくる。

 だが、声が標的を探していた。


「ない! ここにあるはずの『めこみみめこの巫女』がない!」


 廊下の奥、妖精は進みながら手ものと日誌の一ページを丸く握りつぶして、窓の外へと放り投げていた。

「好きなところを読めとは言ったが、好きなところを読ませるとは言っていない」

 妖精はそのまま学校を出た。

ご拝読、ありがとうございました。

次回『トカレフはどっち?』

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