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スイリヤの推理

もう、丁寧な言葉遣いはやめます。こっちの方が楽だと気がつきました。

だからてめぇら、これからもよろしくお願い致します。

 龍生たちが訪れたのは視聴覚室。


 ここでは映像を見て学ぼうという方針の授業が行われることが多いのだが、今回は学校が警察にここでなら取り調べをして構わないと言って提供されている大きな部屋だ。ざっと100人は入るだろう。


 そんな一角でドアが開いて龍生たちが入ってきても、カメラからは小さな変化にしか見えなかった。


 龍生たちが部屋に入ると、正面の壁際で取り調べが行われている奇妙な光景だ。


 板垣警部補が座って横に見据えるのは、同じ机の前に座って斜めに並んでいる『スーツ姿の太った経営コンサルタント』と『ラグビー経験のある細身の英語教師』。


 彼らは各々に太っているのに足首が細かったり、持ち物の中に大きな本が入っているという特徴があった。


 隣には二人の警官が調書を取りながら警部補の取り調べを注意深く観察している。


 だが、そこには龍生が見たことのない人物がいた。

「あ、慧見ちゃん?」

 龍生が見たことのない人物が成熟した女性の声でそう言った。


 彼女は腰まである長い金髪を可憐に揺らしながら今しがた部屋に入ってきた龍生たちを観察している。


 服装から窺えるのはヨーロッパの雰囲気。


 ベージュのブランド物コートはこの四月の終わり頃にはふさわしくないように見える。

 頭には赤いベレー帽。こちらも暖かそうでこの国の今の季節で使用するものには見えない。


 机の上には彼女のものと思われるブランド物の小さな茶色いカバンが置かれていた。


 容赦無く部屋の中をヒールのある黒い靴で歩き、

「ひさしぶり〜! 慧見ちゃん大きくなった!」

 そう言って神崎に抱きつく。


 一方、神崎は彼女の腕にタップして、

「ちょ、叔母さん! あんまり大きなリアクションは取らないで! 今取り調べ中なんでしょう?」


「ああ、そうやったそうやった。ついついひさしぶりで」


 そういった彼女の関西弁は京都寄りなのがわかる。

 目の前のシチュエーションを見ながら、龍生はなんとなく意味がわかってきた。


 松崎の言った『金色の探偵』

 神崎の言った『叔母さん』

 そして彼女の大阪に来た理由。


「なるほど、この人に弟子入りしに来たんだな?」

 龍生はまた手を口元に当てて推測する。


 神崎は叔母が己から離れたのを確認すると、

「その通りよ。私の叔母が探偵だからコッチに越してきたの」


 叔母は龍生と神崎の様子を見ていやらしそうな笑みを浮かべて、

「ははぁ〜ん、もう友達ができたんか? それも男の子」


 すると彼女は龍生の手を握る。

「初めまして、慧見の叔母の神崎和美かずみですぅ、よろしくね?」


「ああ、相良さがら龍生と申します」


 その時、ミーケが龍生の頭をグーで殴った、

「あたっぁあ」龍生が悶えている間にミーケが彼をヘッドロック。


 そして耳元で囁いた。

「お前ぇ……散々苗字は伝えるなッツッてるやろ……。なんで嘘の苗字で人を煽るようなことするねん」


 龍生は困ったように「す、すみません……」

 だがその会話は誰にも聞こえてない。


 そこに警部補が声をかけた。

「いつまで挨拶しているつもりなんだ? さっさと済ませてくれ、ここでは正式な聴取はとれんのだ。はよう、署に帰って取り調べせなあかんねん」


 和美が反抗的に、

「あんたの事情なんて別に聞いてなんかないんですわ! 言うこと聞かな今まで私が解決してきた事件を全部暴露するからな?」


「ちぃ、これだから金持ちは……」


 悪態をついて警部補は容疑者に向き合った。

「で? お前らどっちが殺したんだ?」


 するとコンサルタントの寺井が、

「私は人を殺してなんかないですよ。ここには仕事で訪ねただけで、偶然です」

 英語教師も慌てて、

「だからって、私のせいではありませんよ? 私には殺す動機も時間もありません」



 警部補は頬をぽりぽりと掻いて、

「いや、殺す時間があったからここに呼ばれているわけで」


「そんな……それならこの人だって容疑者ですよ」細身の指を寺井に向けた。


 警部補は通じぬ話にうんざりして、

「それはわかってますよ……」

 英語教師は明らかにあたふたしていた。


 龍生が思ったことを口に出す。

「しかし、なぜあの二人が容疑者だとわかったんだ? さっき聞いた話ではその結論にたどり着くまで時間がかかりそうだったんだがな」



 和美がニッたりと笑って顔を龍生に近づけてきた。

「なんやぁ? 君、この二人が容疑者ゆうところまでわかってはったん? 松崎さん、やっぱりさっき指摘した監視カメラの二つの異様のうち、一つは彼のようですね。監視カメラの映像を不正に見たとしか思えない推測やぁ」


 松崎はムッとして龍生を睨みつけた。


 一方彼は和美の京都弁やら大阪弁やら訳が分からない言葉がいけ好かない。


 そして龍生が一瞬、ものすごく鬱陶しそうな顔をする。

 しかし、それは方言がおかしいからではなく、どうやら和美の推理力が彼の考えていたものより鬱陶しく感じたのだろう。


 神崎は慎重に、

「じゃあ、叔母さんもカメラの映像を見て、容疑者をあの二人に絞り込んだんですね?」


「当たり前やぁ。それくらいわかるよ? 本業やし」


 その言葉に神崎が食いついて、

「じゃあもう犯人もわかったの?」


 和美は首を振った「いいや、それは証拠隠滅が徹底的でたどり着いてはない。今調べてもらっている情報が入って来ればわかるけどな」


 すると和美は神崎にニヤッと笑って、

「あんたらはどこまでわかってんるん?」



「容疑者があの二人と松崎さんだってことかしら? そういえばなんで松崎さんは聴取を受けていないの?」



「なるほどね、桃城流夏さんを容疑者から外せたわけね。なかなか見込みのある弟子やなぁ。松崎さんが容疑者から外れたのは——」



「カメラに映ってたからだ」龍生が遮った。


 和美が頷き「正解、彼女は15分に被害者と生徒が面談をしてるの目撃している姿が監視カメラに映っている。

犯行現場付近のカメラを全部細工して、犯行現場の周辺が数分間に渡り誰もいない状況になることがわかっている犯人が、映像に映るような真似はせえへんからな」


 和美に褒められて神崎が歯がゆそうな視線を龍生に送る。

 しかし彼はそっぽを向いた。


 神崎が改めて、

「証拠隠滅が徹底的って言ってたけど、叔母さんはいったいどこまでわかっているの?」



 和美は隠す様子もなく、

「あの二人のうち、どっちかが犯人やというところまでや。犯人は被害者を1時28分に射殺後、約2分で部屋を後にした。しかし、30分に松崎さんが隣の部屋から確認したところ、部屋には誰にもいない。鍵はその時すでに犯行現場内にあり、その場は密室だった。このくらいかな。それらの方法はわかってない」


だが、和美の視線に龍生は嘘を感じていた。


 警部補が顔をしかめて、

「おい、探偵! 今取り調べ中や、変なこと言うな。犯人が知恵を働かせるだろ」



 和美はにっこり笑うと「でも、慧見ちゃんは推理小説よう読んでるからなんとなくわかるんとちゃうん?」


 彼女の楽しそうな顔と期待に神崎は少し興奮した。


 すると龍生が大声で、

「スンマセーンみなさま! あなたたちに聞きたいことがありま〜す!」


「ちょ! 何言ってんの!」神崎慌てて彼を止めようとするが、龍生は続ける。

「ここに犯人がいます! 私が証拠を押さえました!」


 その言葉に皆が静まり返る。

 するとはじめに言葉を取り戻したのがミーケだ。

「龍生! お前、適当なこと言うとったらあかんて!」


 それを和美が制止した。


 龍生は続ける。

「だからお願いします。今のうちに名乗り出てください」



 警部補が突然の事態に困って、

「おいおい、誰がこんな子どもをここに呼んだんだ? さっさと連れ出せ、捜査が混乱する」



 そう言って彼は和美の目を見た。

 だが、和美は首を横に振っている。意味は、『まだ動くな』。


 すると彼女は龍生に尋ねた。

「あんたもう犯人わかったんか? じゃあ教えてほしいわ、誰が犯人なんかを」



 瞬間、龍生の視線が右上に動く。

 それは未来のビジュアルを思い描く仕草。

 つまり、まだ龍生は犯行現場を思い描きながら考えている途中というわけだ。


 和美はそれを察知し、うんと頷いた。


 そうしてこう言う。

「犯人がそこの二人なのは確実。なんか新しいファクターがあったってことやろ? じゃあ、まずは密室の謎から解き明かしてもらいたいねんけど」



 龍生は視聴覚室をぶらぶらしながら、

「それは簡単です。開いてたんですよ、それ以外ありません」


 続く。

次回、『密室の謎を解きます』

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