謎解き好きが、謎解き好きに贈る、謎解き好きの為の、最強の謎【ケータイ版】
『 秘宝を欲す者よ 謎を紐解き 奥へと進め
迷いし者は 奈落へ落ち 外に脱す
賢き者は 活眼をもって まっすぐ奥へ
疑う者ならば ゆっくり確実に 一歩⬛⬛⬛先へ』
「ーーダメですね~。所々、碑文が崩れています~。ここの所に何が書かれていたか判らないわ~。……ごめんなさい~」
「仕方ないわよ。これだけ古い遺跡なんですもの。今までが順調に行き過ぎたくらいだわ」
碑文の欠けた部分を撫でながら、手に持っていた本をパタンと閉じて、俺がサポートする″巫女見習い″のセレーナが謝る。
尖った耳がシュンとたれ下がり、非常に申し訳なさそうだった。
そんな気落ちしたセレーナを、少し離れた場所で、興味深そうに、壁を軽く叩いていた″魔族″ルイーナが励ます。
その隣で、競い合う相手である筈の″巫女見習い″ホーリーが、にこにこと微笑んでいた。
「……そうだな。それに、崩れている所に、必ずしも文字が入ってる訳でも無いだろ。だから、そこまで解れば十分だ」
俺はというと、頭の中で碑文の内容を反芻させていた。
一旦、思考を中断し、瞑っていた目を開きルイーナに賛同する。
此処は、第3の試練がある部屋の碑文前である。
試練の部屋は全面タイル張りの、通路の様に長い部屋だった。タイルは白く、長い年月で少しくすんでいるものの、清潔な印象を受ける。
部屋には、柱が12本あり、3本ずつ4列で天井を支えていた。
この柱も白いタイルで覆われている。
流石に、古い遺跡だからか、左から2列目と3列目の一番奥にある柱が崩れていた。
部屋の奥には出口だろう扉。その出口の左右には、エルフと人族、そして竜族が《禍》を討伐している、と推察できる小さな彫刻が置いてある。
左には、杖を持ったエルフと、剣を振り下ろす人族。右には、ブレスを吐く竜と、上半身が二つに裂けた《禍》の彫刻が飾られていた。
更に、出口の前には、シンプルなデザインの台座があるのが見える。
「……いないな。アイツら早いな」
部屋を見渡すが、既に先を進んでいた″巫女見習い″パクスィと、その同行者である若いエルフの鍛冶師の姿はなかった。
「ーーフムフム、なるほど、ココのタイルが矢印になっているのね」
碑文の位置で、しゃがみ込んで、タイルを調べていたルイーナが、床の色の違いに気づいた。
色違いのタイルは、一直線に出口まで続いている。途中、矢印の様にタイルの色が変わっている部分があった。
それが2本、左右の柱の近くを走っている。
その長い矢印は、部屋の中央を通る通路の様に見えた。
又、柱のタイルにも色の違う部分が見受けられる。
それがそれぞれ、左手前から奥に
1列目
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2列目
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3列目
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4列目
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という形になっていた。
出口付近にある2本の崩れた柱は、タイルの並びを識別できない。
「ーーじゃあ、行きましょ」
注意深く部屋を検分し、ひたすら、柱のタイルをメモしていたルイーナが、メモを閉じ、進もうと声をかけてくる。
メモの中身を見せてもらったが、柱の裏のタイル数がいくつあるかまで、びっしり細かく書かれていた。全く色の変わっていないタイルまで書いてあったので、もの凄い几帳面である事が窺える。
何でここまでメモするのか質問すると、「あとで、詳しく考える為よ」と返ってくる。
魔族の国【タルタリス】にあるルイーナの家には、今までに調査した遺跡のメモを纏めた本や魔導具がたくさん置いてあるそうだ。
「気をつけて! 白いタイルは踏まないで! 絶対色違いのタイルを出ないで、まっすぐ行くのよ!」
「~~♪」
「おそらく、白いタイルを踏むと下に落ちるわ」
古代遺跡には似たような仕掛けがいくつもあったわ。とルイーナが指示を出す。
………………
…………
……
比較的床のタイルは大きく、スルスルと進んで行く皆。
俺は、慎重に一歩ずつ、部屋全体をぼんやりと視ながら、ゆっくり歩く。
碑文が頭の中でリフレインされている。
ガチャガチャ
俺が皆に無事追いつくと、ルイーナの主導で扉と台座を調べていた。
「やっぱり、この台座が扉と同期しているのね」
唯一タイルで作られていない台座と扉の間を、真剣な趣でルイーナは、小さな丸い水晶のような透き通った魔石を片手に調べていた。魔力反応を視る魔導具なのだとルイーナは言う。
近づいてみるとルイーナの触っていた場所は、タイルとタイルの間が他の場所よりも、僅かに深く窪んでおり、台座と扉の間を結んでいるようだ。
「……あの、ルイーナ、さん。紙と何か書くものを貸してもらえますか?」
「いいわよ。……何かわかったの?」
「イヤ、まだ、はっきりした事は何も。でも、もしかしたらという考えがあって、それを解決する為に、書いて整理したいんだ、です」
ある考えが俺の頭を過り、ルイーナから紙とペンを借りて、頭の中の思考を書き出して形にしていく。
年上であるルイーナとは、自己紹介以来はじめてまともに言葉を交わすので、変な言葉使いになってしまった。今までは、一言で終わっていた為に会話らしい会話はしなかったのである。
皆に背を向けて、左手の指で眉間を押しながら集中する。
部屋の光景と碑文を思い浮かべ、
思考の海を、深く、深く、沈んでいく────
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…………………………
…………
完全に熟考のスイッチが入ってしまった。
滅多にここまでの状態にはならないのだが、
こうなってしまっては、答が出るまで、周囲の音も耳に届かず、テコでも動かない。
この場でその状態になっていると気づく者はいない。
気づくとしたら、幼馴染である聖だけ……
* * * * * * * * * * * *
(ーーやっぱりそうだ。ココがこうなって、それに……だから、こう。そして……、よし、出来た!!)
色違いのタイルを眺めながら、さらさらと紙を使い推量を重ねていき、あまりつっかえる事なく解き終えた。
「え~と、…はコレかな? おそらく、コレをこうして……これで、どうだ!!」
ガサゴソと作業して、辿り着いた解答を表現する。
………………
…………
……
「ーーアレ? 何も起こらない?」
間違えた! と不安に思った瞬間
"カッ"
台座の模様が光を放ち、タイルの溝を伝って扉に吸い込まれていく。
カカカカカカカ、タイルが左右に移動して扉が開く。
「ふ~~、よかった~正解だったか」
何にも変化が無い時間が長く、不安で身体を硬くした為に、
扉が開くと安堵と共に力が抜けて、片膝をついてしまう。
「凄いわね。それで何故こうなったの?」
「それはですね、ーーー(中略)ーーーという訳です」
「ーーなるほど~」
「……は~、それは私には、ムリだったわね」
扉の奥に続いていた通路を歩きながら、皆に謎の解説を詳しく話す。
解説をしていると皆の顔が、感嘆の表情に変化している事に気づき、少し口調が砕け饒舌になってしまった。
試練を突破した俺達は無事秘宝を手に入れた。