第七章 永久(とわ)06
未確認飛行物体の正体が、実は政府が極秘で打ち上げていた宇宙ロケットだと、誰も思いつかなかっただろう。数年にわたり、地球と同じ環境のものが宇宙に作られるために材料や技術者、医師に様々な専門家が次々に送り込まれてる。それでも収容出来る人数は限られていた。
豪華客船さながらのスペース基地に降り立った僕らは、地下へと下りる。目と静脈、顔の認証を済ませ、ようやくたどり着いた扉に、首から下げていたカードキーを通す。船底に当たる部分。エンジンルームや主要なものが詰められている場所で、警備も厳重にされている。苗代が最後のパスワードを打ち込み扉が開かれる。機械音が唸りを上げている奥へと進んだ僕らは、床を外し、その下へと、はしごを使って降りて行く。
ひんやりとした空気が防寒服着ている中にまで伝わってくる。
青光りするケースに、優奈から貰ったものと同じものがずらりと並んでいた。
「優奈たちなりに考えた方法」
スピーカーから聞こえて来る苗代の声に、僕は大きく頷く。
日の丸の国旗を見つけ、僕はそのケースに優奈と怜美のカプセルをしまった。
「優奈たちはこれを作るために?」
「采沢が、親父に加担した理由はこれを作りたかったからだそうだ。最後には兵藤も協力をしたみたいだがな」
全人類は物体として連れてはいけないが、子孫なら残せる。
滿永が通販会社で打ち込んでいたのは、すべてのデータ―。それは微量でも逃すことなくだ。
装備して行く手を止め、僕はふと苗代の顔を見る。
歪められたデーターだが、補正はすでにされている。こんな茶番劇と知っていても、隠したいわけはたった一つ。
「結局、河北千穂の子って、誰なんです?」
お前って言いたいところだけど、苗代が苦笑いで僕を見る。
「あなたですよね?」
「分かっているなら、訊くな」
こつんと頭を叩かれた僕は、お墓でのお返しですと言い返した。
「なんか複雑ですよね。最愛だった采沢が姿を消し、残された研究材料を自分の中で育てるなんて」
「疑似体験をしたかったんだろう。まぁそれほど愛しちまっていたってことだ」
「兵藤を殺したのは」
「ああ水沢だ。采沢に会いに行く前の晩、自分の手で始末をしたんだ」
ずっと見えていた。幻だったらと、何度思っただろう。
「しゅうちゃん、あなたのためなの。すべて消してしまえば良い。すべてママが預かるから」
あれはレースのカーテンなんかじゃないって、僕は知っていた。
「さぁ行きましょうか」
細く長い指が解かれ、僕は腕を取られた。
泣きながら、頭を撫で、何度も何度もサヨナラに言ってた言葉。
「こんなはずじゃなかったのに……」
振り返ることもない、僕の耳に残っていた言葉。
こんな感情、必要じゃなかったのに、と僕は思う。
けど母さん、あなたはいつだって正しかった。
頭を抱える僕を見て、苗代が同情の目を向ける。
「すまんかったな。あの人も疲れていたんだろう。誰かに自分の嫌な記憶を押し付けることで、平静を保とうとしていたんだと思う」
「でも、河北千穂に、あそこまで演出する必要はなかったんじゃ」
「ああ、俺ですって名乗るのもアリかなと思ったが、何か滿永の勘違いが正解だったと認めるのが癪に思えてな」
「まぁそれは同感できるけど。どんな顔をしていいのか、本当に困りましたよ」
「しゃーないだろ? 僕ちゃん人に愛されやすいからお裾分けしてやらんと。かわゆい弟のためにな」
僕は苗代庸一の精子と、優奈の母親、藏下佳代の卵子が掛け合わされたものだった。
子供に恵まれずに悩んだ苗代が、待合室で偶然見かけた優奈の母親を見て、あの女の物と賭け合わせろと采沢に命令した。
不妊治療のために採取してあった佳代の卵子を、采沢は金の為に無断で使った。それが後々の問題を引き起こすなど知る由もなく。
皮肉に受精した細胞は着実に、人間形成を始め、瑠羅の命が絶たれた。
佳代が指をなぞらせ、この子は私の子と言い張られた時、采沢は凍りつく思いでいた。あっさり佳代に心を支配を許してしまったのは、そんな背景が手伝っていただろう。
タッチパネルを開き、苗代が優奈のデータ―を打ち込んで行く手元を、僕はそんなことを考えながら、ぼんやりと見ていた。




