第七章 永久(とわ)04
永久の命などどこにもない。
来賓が集うコテージで集団食中毒が起き、多数の人間が亡くなっていったのはそれから間もなくだった。その中に、滿永も含まれていた。
料理から毒物が検出され、容疑者として息子の健吾が捕まる。
「最高のシナリオだろ?」
面会に行った僕に、苗代は笑いながら言うと、親指を立てて見せる。
「あなたは卑怯者だ」
「ああそうだ。俺は卑怯者で貪欲者だ」
「僕一人で、全部始末しろって言うんですか?」
「ああそうだ。人生のゴーストライターなんて案外簡単なものだ。深く考えずに思いついたことを書き連ねて行けばいい。所詮、文字の上にだけ存在する出来事だ。気に入らなければ、書き直せばいい」
怒りに満ちた目をする僕に、苗代が小声でスマンと謝る。
「わざとですね。わざと証拠を残したでしょ?」
「なぁ柊歌、お前、今でも自分についての取扱説明書が欲しいと思っているのか?」
「はい。今はそれに加えて、あなたのも欲しいと、心から思っています」
「あそうなの」
そう言いながら、苗代は目を細める。
「もし、その説明書が出来たのならひとつ書き足しておいてくれないか。僕は案外単純でお人好しとな」
言われている意味が分からなかった。
目を泳がせる僕を見て、苗代が声を上げ笑う。
宇宙への旅の特集が組まれ、映画披露まであとひと月を切っていた。
庸一の不慮の事故で、テーマパークの工事も一旦中止が報じられ、辺鄙な場所から人々の関心も退かれて行った。
僕は何もする気が起きなかった。
明かりを点けない部屋で、テレビ画面が煌々と浮き出されていた。
ソファーから立ち上がることもできずにいた僕が、ようやく動き出したのは一週間も過ぎた、良く晴れた月曜の朝だった。
白々と明けて行く朝の光を浴び、僕は下を見下ろす。
姿を隠しているつもりなんだろうな。
物陰に潜む人影の顔さえ、はっきり見えてしまう自分が悲しかった。
否定できない自分。
逃れられない宿命。
冷気に身を縮め、僕は部屋へ戻る。
味気ない日々。
そんなものさえ幸せだった。
僕はおもむろに指を鳴らす。
「その合図、悪くないわね」
「褒めてくれてありがとう。一つ頼まれて欲しい」
優奈が小さく笑う。
「いいわよ」
「話が早くて助かるよ」
「お前さ」
「充分休暇は与えましたよ」
「いつから俺の上司になったわけ?」
渋い顔をしながら苗代が癒えに戻って来ていた。
寒空に晒された刑事の姿も、もうどこにもない。
優奈がすべてのデーターを書き換えたのだ。
「逃がしませんよ。あなたは運命共同体、一つと手掛けては実行は不可能だ」
「俺がいなくても」
「あなたもパーツの一つ。船は動かせない」
「それは」
言いかける苗代に、僕は肩を竦めて見せる。
それだけで充分だった。
苗代が思っている以上、僕は自分と言うものを持っている。いや、書きこまれていると言った方が正しい。きっとこれは母が残した祈りであり願い何だろうと思う。
10日目の朝、宇宙へ向けて一隻の船が飛ばされた。
夜空に閃光が走り、数秒でその姿は消えて行く。目撃者が数名。未確認飛行物体として、騒いだぐらいでことなく僕らの計画は確実に進められている。




