第七章 永久(とわ)02
僕の世界に色はない。モノクロの中で生きている。
「私の説明が必要かしら?」
水沢が手に資料を携え、ハイヒールの音を鳴らし近づいて来ていた。
「やはり生きていたんですね」
「結構あのビジョン、作るの苦労したのよ。なかなかあなたが本気になってくれなかったから。でも、怜美が仕込んだ計画を利用してしまうなんて、思いもしなかったわ」
淡々と話す水沢を見て、僕は首を傾げる。
その表情を見て、苗代が髪を掻き毟り、ポケットに忍ばせていたものをそっと取り出し僕に見せる。
無表情でいる僕に、資料を並べ置き終わった水沢が微笑む。
「母さん、もういいんだ。ゲームセットだ」
苗代が水沢の米神に小型銃を当て引き金を引く。
肉片を飛び散る中、水沢の躰が崩れ落ちて行く。
わずか数秒の出来事に、僕は首を大きく振る。
分かり切っていたことだった。
悲哀の目を向ける僕に、苗代は肩を窄め言う。
「仕方がないさ。この人も色を持っていない。宇宙に出て行けるのは色を持つ人間だけ。すまん、一人にさせてくれ」
立ち去る苗代に向けられた銃口を、僕は首を振り、下げさせる。
「優奈、そんなことをしても無駄だよ。もうすべて手遅れなんだ」
力なく微笑んだ優奈が、苗代が経った席へと身を沈める。
「悲しいわね。あなたはもっと別の方法で、この星を守って行きたかった」
「僕らには時間がない」
肩を竦め言う僕に、優奈は目を伏せる。
「分かっているの。だけど私はもっと喘ぎたい。どうやらそれも無理みたいね」
静かに立ち上がった優奈の手を、僕は思わず掴む。
「優奈、優奈も一緒に」
「あなたはずっと分っていたはずよ。私とママは一心同体。お互いを共鳴し合うことで、生命を維持してきたの。ママの脳は壊死し、もうすぐ私の心臓も止まるわ。柊歌、あなたの目にはもう私の姿が見えていたんでしょ。これは私からの最後のプレゼント」
自分の首から外したネックレスを僕に掛けると微笑み、優奈の色があせて行く。
複雑な糸が絡み合った僕らは解け、バラバラになる。
瞬間移動した僕は、水沢を抱きかかえて歩く苗代の前に立ちはだかる。
「そこをどけ」
「嫌です。僕を巻き込んだ責任、あなたには取ってもらわないと納得いきません。戻りますよ」
水沢の遺体を置く命令をした僕は苗代に抱き付き、船へと引き戻す。
「ずるはダメですよ。ここにいる人を操れるのはあなただけだ」
「俺は母親殺しだ」
僕は深いため息を吐く。
「あそこで、見ている人たちを見殺しにしなければならないんだから。僕らは罪深い旅人になる」
この船体を動かすのは、僕らの能力。
集められた同じような能力者が、カプセルに入り深い眠りに就く。
宇宙に飛び立ったのも知らないまま、永遠の眠りに就く者もいる。
それが僕らに与えられた宿命。
そんな者たちに感傷は無意味なもの。
なのにそれを埋め込んだのは、父さん、あなたも血の通った人間だった証。そして僕も……。
ハッチが閉められ、僕はベルトを装着。
意識を一点へ集中させていく。




