第七章 永久(とわ)01
「あなたのシナリオだと、僕のこれからはどうなっている?」
「何を急に言い出す」
苦笑しながら言う苗代に、僕は小さく息を漏らす。
「どうしてこの場面で河北千穂なんですか?」
何も娯楽がないこの街にとって、テーマ―パークの企画は魅力的なものだった。大規模工事で、建設に歳月を費やされているのも、本格的な宇宙スペースを再現させる拘りからと説明されている。後ろ盾しているのが、苗代庸一と聞けば、誰もが閉口しざるを得なかった。
静まり返ったターミナルに二人の靴音が響く。
広い平地には芝や四季折々の花が植えられ、管制塔も展望施設とレストランと概要に記されてある。これがまさか本格的な宇宙船だとは、誰も思わないだろう。思ったとしても、明日にはその人々はこの世を去り、国家秘密、いや世界秘密は、守り続けられるだけ。
「お前、怜美が何をしようとしているか分かっていたのに、なぜそのまま、奴の手に落ちるような真似をした」
「愚問ですね」
苗代の眉が少し上がる。
二人は、ソファーに腰掛ける。
無言のまま、僕はテーブルに置かれてあるパネルをタッチして行く。
目の前に現れたウエイターに、コーヒーを頼む。
「怜美は、僕の身代わりにされたんです。その罰は受け入れるべきだ」
「あいつは、そんなことは出来ない。なぜなら、お前を本気で惚れちまったからな。気が振れていたくせに、そんなことだけはしっかりしていやがる」
「それは少し違う。怜美は僕になんか惚れていない。僕らは同じ空間を漂っている同士みたいなもの。怜美に抱き付かれた時、見せられたビジョンはただ無限に広がる宇宙だった。あのカプセルに入れられ、怜美の中にあった大切なものはすべて失っていた」
苗代が、コーヒーカップをじっと見つめていた。
「それならなぜ?」
「怜美自身が記憶を呼び覚ましてくれと、頼んだそうです」
「何のために?」
僕は小さな息を漏らし、椅子に背を任せる。
「怜美が本当に好きだったのは、あなたなんです」
苗代が微かに顔色を変えたのを見留めた僕は、窓辺へと身を移す。
「そんな苦しい気持ちなら消してしまえと言ったのに、怜美はそれを拒んだ。あの研究所にあった脳、誰のものか知っています?」
風に草花が揺れ、僕は白いブランコを揺らし遊ぶ、光景を目に浮かべていた。
「藏下佳代です。彼女が兵藤の心を乗っ取りそうさせた。瑠羅は元々は存在していなかった。あの病院に居たのは優奈と僕と怜美。そしてあなただ。藏下佳代は瑠羅の存在を作ることで、自分の意思を伝えようとした。けど、それにも限界が来てしまって」
「あのベッドに寝ていたのは……」
「優奈です」
「優奈は元々心臓が弱く、水沢の出現で発作を起こしてしまった。一命は取り留められたが、知っての通り植物人間になってしまったんだ」
こんな悲しい事象、あなたには必要ないと言って、母さんは僕の中から拭い去ってしまった。父さんが消え、残された僕らは、誰かの目に怯えながら暮らしていた。それが何だったのか、今の僕なら分かる。
母さんは、全てを消去するため、父さんを刺し庭のブランコの下に埋めた。そして、兵藤に近寄り、自分の脳と交換に僕を護ったんだ。
僕は知っていた。
記憶がどんなに当てにならないものか。
捻じ曲げられた事実は、いつか副作用として様々な症状を生み出す。そんな時だった。苗代が僕の目の前に現れたのは。まるでそれはかくれんぼうでもしているみたいに、しゅうちゃん見っけという言葉だった。
母さんが僕にインプットした言葉が、作用し始める。
「俺は、お前に影を見せられていたって訳だ」
「お相子ですよ。あなたも僕を試していたんでしょ。本物かどうか」
「もう話はこのくらいにしておこう」
徐につけられたラジオから、興奮しきった声がテロ事件勃発を知らせている。
「お前のやり方は、えぐいな」
「一人一人会って選別なんて時間、もう僕らには残されていない。それなら生き残りゲームをさせた方が早い。所詮、みんな明日がない身なのだから」
僕の言葉に、苗代が眉を少し上げる。
「残念ですが、苗代さん、あなたの父上も」
「ああ、みなまで言うな。あの人の体力では宇宙まではいけない。その為にあんだけの医者をかき集めていたようだが、あの医師団たちも色を持っていない。即ち、明日がない人物たちだ」




