第六章 覚醒03
呆然と、僕は鬱蒼と茂る木々の隙間から見えていた、建物を見上げていた。
山道を行きかうものは、何一つない。
足音もなく、僕は中へと入って行く。
0時34分。
23年前、ここで何が起こったのか、僕は知りたかっただけ。
誇り臭い廊下を、進んで行く。瑠羅が寝ているであろう二階へ一度目をやると、そのまま。迷わず僕は地下へと進んで行く。
僕を導くように、ふわふわと白服の女が前を進んで行く。
時折振り向いては、その女は微笑んだ。
「こうするしか、生きる方法はないですわ、奥様。さぁこれをお持ちなさい」
女は持たされたナイフを、不思議そうに眺める。
「これで一突きすれば、あなたはお子さんを取り戻すことが出来ます」
ナースキャップを外しているが、その顔は倉下佳代だった。
女は突き当りの部屋の前で立ち止まり、こちらを見て、そっと微笑む。
僕は力なく、微笑み返す。
「母さん、あなたのせいじゃない。すべてを終わらせなくてはね」
女はそのまま姿を消して行った。
僕はやれやれと首を振る。
メインコントロールシステム室の扉を静かに開く。
「やはり来たのね」
「あの女性は、君だね、瑠羅」
「ずっと待っていたの。かわいい私の坊や」
「僕はあなたの……、止めろ。なぜこんなことを続けるんだ」
耳障りな音に、僕は顔を顰める。
「あなたがそんなことを訊くなんて、おかしいわ」
低周波で防御された部屋の片隅で、優奈がパソコンを打つ手を休めて、笑みを浮かべ振り返る。
「ずっと瑠羅の存在は感じていたわ。確信はなかったけど」
後ろに束ねてあった髪を解き、優奈は指でそれを掻き上げる。
「私たち家族は幸せだった。あの女が来るまでは」
優奈が、僕の肩に手を置き、挑発的な笑みで言う。
「水沢亜紀?」
「私たちの、DNA鑑定をさせて欲しいって、言って来たの」
瑠羅が音もなく苗代の後ろに立つ。
「隙だらけね。それで私たちを騙せると思ったの苗代健吾さん? あなたが知りたかった情報は、手に入ったかしら?」
目を見開く苗代に、瑠羅が手を振り下ろした。
「だから無理だって言ったのに」
呆れながら扉の陰から出て行った僕を見て、瑠羅が苗代を軽く足で蹴飛ばす。
「やっとその気になったと思ったのに、お粗末ね」
優奈が苗代の被った面をはがす。
「こんな手の込んだことをして、何を調べようっていうの?」
「僕は反対したんだ。結果は見えていたからね。でも、それでも突き進まなければならない時が、男にはあると言って聞かなかったんだ」
「それでどうする気かしら? ここに捕らわれたということは分かっているわよね?」
優奈が、目配せをしてみせる。
僕は椅子に腰かけ、「仕方ないよ。自分で望んでやって来たんだから。好きにすればいい」と、投げやりに言う。
「物わかりのいい子。だから柊歌、大好き」
瑠羅が纏わりつかせてきた手を振り解いた僕に、もう迷いはなかった。




