第六章 覚醒01
頭が酷く痛んだ。渦巻く記憶が、一つの答えを見出そうとしている。断片的に映し出される記憶。
僕は、おばあさんの家に向かっていた。
高速を降り、舗装されていない道を車体を揺らしながら進む。
一瞬、垣間見えた怯えた瞳。瑠羅が嘲るように、あの子がいけないのを繰り返す。もどかしい手つきで鍵を開け、暗がりに向かって、優奈と僕は叫んだ。
白い影が見え、僕は駆け寄り抱き上げる。
「怜美?」
背後の気配に振り返り、目を見張る。
優奈がそこには立っていた。
「優奈、これはどういうことだ?」
優奈は黙ったまま一点を見つめていた。
「この子が、この子がいたせいで、私の人生がめちゃくちゃにされたの」
「何を言っているんだ?」
「この子さえいなければ、私はこんな束縛も受けないで、家族が一緒に暮らせていた」
「優奈?」
僕は優奈の肩を掴む。
どす黒い闇が包み、浮かび上がる瑠羅の笑みが見え、僕は優奈を突き飛ばす。
「目覚めなさい。もう、藏下佳代はいない。あなたを護る者はいない」
耳を塞ぐ僕に、記憶が鮮明に浮かび上がる。
「あなたは見えていない。見えていても見えていない。目を閉じ、夢を見たと思えばいい。目を明けてもそれが続くようなら、それは悪夢。何も心配することはない」
「……おばあさん」
「私は老いぼれで、もう先が短い。可愛そうに、私が変わって上げれば良かった」
暗がりに浮かぶ影。囲炉裏にくべられた火が弾ける音に紛れ、聞こえてくるしゃがれた声。そして白く濁った瞳。
「違うわ。それはあなたのものじゃない。思い出すのよ」
赤と青の線で縁取られた優奈と瑠羅が。二重に重なり合いながら、僕を攻めたてる。
色あせた景色が目の前に広がり、僕はブランコに揺られていた。
あどけない少女が、微笑みかけている。
「さぁこっちだよこっち」
カメラを構えた男性が手で合図を送ってくる」
「あなた、この子に言っても無理よ。だってこの子は目は」
語尾が涙でつまる。
次々に宇あk美上がる、ざらついた記憶に、僕は頭を抱え込む。
「止めてくれ」
「さぁ包帯を取るよ。ゆっくり10数えながら目を開けて行こうか」
闇しかなかった僕の目に光が差し込み、真っ白なカーテンが揺れていた。
白衣を着た医師に、僕は朦朧とながら尋ねていた。
「僕は誰?」
医師の唇が、動く。
そこで記憶は途切れる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
春の風に煽られて、ゆらゆら揺れるカーテン。
心を恐怖が支配する。
「僕は何も知らない。僕には関係がない」
フラフラと後退りしながら言う僕に、瑠羅が纏わり付くように話しかけて来る。
「あなたは心が弱すぎるのよ。なぜ見てはいけないの? すべてを司れるその能力を、なぜ嫌うの?」
「こんなものがあるために、人の顔をまともに見れない。母さんだってあんな苦しむ必要はなかった。母さんを殺したのは、僕だ」
カーテンが揺れ、一緒に母さんの躰も揺れていた。
「こんな記憶が、何の意味を持つというんだ。違うんだ。僕の母さんは今も、生きている。あの安アパートで、一人寂しく暮らしていて、たまに会いに来る僕を待っているんだ。僕は采沢柊歌で、5歳の時、角膜移植を受けて、そしてそして……わぁぁぁぁ」
「Exit the call of memory」
無機質な音声が頭に流れ、僕の目の前には、真赤な炎が立ちはだかっていた。




