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レッドアイ  作者: kikuna
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第五章 攪拌06

 改札口、案内電子板を見て、僕は舌打ちをする。

 僕は苗代に一時間ほど遅れると告げ、タクシーを待つ列につく。前に立っていた人が読んでいた新聞記事が見え、すぐに売店で同じ新聞を購入し、ベンチを探し読む。

 河北千穂が失踪の記事に、僕は首を傾げた。

 数日前から、河北と連絡がつかなくなり所属事務所が捜索願を提出したと言う記事だった。

 ポケットで携帯が鳴りだし、僕はディスプレーの名前を見て、眉間に皺を寄せる。

 公衆電話からのものだ。

 疑心暗鬼で出た僕に、しゅうちゃんと言う声が戻って来た。

 「誰?」

 「ごめんなさい。それだけが言いたかったの」

 「母さん?」

 そこで電話は切れてしまった。

 

 事務所についた僕はすぐに、苗代に新聞記事を見せる。

 「ああこれね。僕ちゃんがあまり上手に書き過ぎちゃったものだから、話題沸騰しちゃったらしいね」

 忘れていた。写真集に合わせてエッセイ集も同時発売をしたんだ。僕らが日本を離れている間に、それらは発売されている。


 「何を書いたんです」

 「私は女優の前に女でいたかった。女としての幸せ。それは淡くももろい形になってしまったが、今でも私は後悔をしているって感じかな」

 「どういうことですか」

 興奮した僕の声に、苗代は指を耳の中に入れて、うるせーよと煙ったそうなうに僕を見る。

 「河北千穂には、隠し子がいた。誰の子か分からない。本人が頑として口をわらないからな。事情を知っている事務所の社長は、もうとっくに死んでいるしな」

 「何でそんなことを書いたんですか?」

 「俺は嘘は書かない。本人が書いてくれって頼んだから、書いたまでだ」

 「どうして、そんなことを」

 「バカに熱くなるね。あの人もギリギリだったんじゃないのか。こういう業界も浮き沈みが激しいから。なんか話題を作って、もう一皮むけたかったんじゃないの。まぁ、この人の場合、本当に脱いじまったけどね」

 自分でもよく分からなかった。無性に腹が立って悲しくなっていた。

 「さて、話はこのくらいで、出かけるぞ」

 「どこにですか?」

 「パパちゃんのところ」

 苗代が父親が映っているポスターを指ではじく。

 「面倒臭いよね。政策案のコメント、考えろって。あっそうそう、明日から二週間、街頭演説の手伝いをするから。よろしく頼むわ」

 「マジですか?」

 「まじまじ。大まじだよ」

 僕は、吐き気をもようして来た。

 トイレに駆け込み、苗代がドアの向こう側で、逃げんなよと冗談めいた声で言う。

 出来れば逃げたい。

 「スイマセン。僕には無理です」

 「だよね。政治の世界はどす黒いからね。柊歌の目にはきついかもね」

 分かっているならなぜだよ。

 「今、ムッとしたでしょ。でも仕方ないんだよね。僕ちゃん、結構、あの人からお金、引っ張っちゃっているから。どこで訊き出してきたんだか、柊歌の危機一髪見破り、知れちゃっているんだよね。あの人も敵が多いから」

 トイレから出ると、苗代が顔を二や付けさせながら、肩を叩いてきた。

 ムッとして睨み返す僕を、奈緒も挑発するように口元を緩める苗代。

 そのすべてが、僕には許しがたいものだったのは言うまでもない。

 おそらく僕の目はぎらついていたのだろう。

 ニヤついた顔が、わずかに強張ったような気がした。

 僕は軽く首を傾げる。

 逃げようのない運命のルーレットが、動き始めたことを悟った瞬間だった。

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