第五章 攪拌01
「しゅうちゃん、見っけ」
苗代が目の前に立っていた。
僕は言われるまでもなく、事務所の中に入って行く。
玄関先で出迎えた苗代が外を一度、確認してからドアを閉める。
「何をしてんだお前。何で俺から逃げんの? 鬼ごっこって年齢でもあるまいし」
「ですよね。自分でもよく分かんないんですよね。なんかあなたといると息苦しくなっちゃって。気が付くと逃亡を図っているって感じで。正気に返って、いかんいかんってこの通り、ただいまって、帰って来ちゃうんですよね」
皮肉めいた笑みとともに何だそれと言って、僕の前に座った苗代が、グイと顔を近づけて来た。
「その目だと何かを思い出したようだな」
ふっと笑みを溢した苗代がそう言うと、徐に僕から手を放した。
「ほらよ」
苗代が、ワンボックスカーの中に置き去りにして来た、僕の携帯電話をテーブルに滑らせて寄こす。
「小癪な真似をしやがって」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
僕は携帯から小型受信機を外し、苗代に見せる。
「こんなものを使わなくっても、GPSセンサー機能があるでしょ」
「僕ちゃん、几帳面だからより繊細な情報が欲しくなっちゃうの」
「アホか」
苦笑する僕を余所に、苗代が真顔になる。
「で、どこまで思い出した」
僕は椅子の背にもたれ掛り、腕をだらんとたらす。
「瑠羅と優奈の存在。あなたは気が付いていましたよね」
「ああ」
「あっさり認めましたね」
「誰かが、俺のことを嗅ぎまわっているのは知っていた。それが誰かまではずっと知らなかった」
僕は、苗代の瞳の奥を覗き込む。
瑠羅の思念が苗代の思考回路を停止させ、僕に微笑む。
複雑な色を醸し出す苗代の奥へと、僕は思考を張り巡らせていく。垣間見える女性の瞳。
壁伝いにそっと入って来た優奈が、苗代のパソコンを操作して中のデータ―を取り出して行く。




