第四章 記憶04
「緊急手術の末、私だけがママのお腹に残り、姉の瑠羅が取り出された」
優奈の言葉に、僕は黙って頷く。
「やっぱりそうだったの」
どうしてそんなことが僕に分かるのか、自分でも皆目見当がつかず、揺らめく炎に目をやる。
「私が知りたかったのはそのことだった」
寂しそうに片言で言う優奈の頭が、僕の肩に乗せられる。
人が苦手で、滅多に触れ合うことがない僕にとって、優奈は特別だった。煩わしいものが一切感じられない世界。居心地がよく、ずっとこのまま、この世界に包まっていたいとさえ思った。がしかし、現実はそう甘くない。そんなことは百も承知。どす黒く塗り固まった現実が、僕の目を覆い尽くして行く。
揺らめく炎と、優奈が抱くイメージが僕の心を支配して行く。
「協力をして欲しい」
「何を?」
「あなたには、何も隠せない」
驚く僕を見て、でしょ? と優奈が首を傾げてみせる。
触れたものが持つすべてを、僕は感じてしまう。いつでもそのことに怯えていた。僕と母さんとの秘密。
「きみは誰?」
僕の視界には、真っ白な世界が広がっていた。
「私たちはいつもこの世界に閉じ込められている。あなたも同じ」
「止してくれ」
優奈の瞳がゆらゆらと揺れ、僕はそれを断ち切るようにあの家を飛び出した。
「……ちゃん。しっかり前を見て生きるのよ」
僕の記憶はいつも曖昧で、時々、自分が誰なのかさえ分からなくなる時がある。怜美に触れた時、優奈と同じものを感じた。僕らはいったい何者なんだ? 僕の中に芽生えた不協和音は、全ての物を歪ませ、その先にはいつも苗代の顔がチラついていた。
僕は夢中で現実から逃れるように、もがき続けている気がする。




