第三章 幻覚01
小規模爆発をさせながら、僕は苗代の下で相変わらず働かされている。最近は上司命令で、運転も余儀なくやらされている。
「お前さ、そんだけの腕前があるのに、何で運転を嫌がるの? 女を誘うのだって生活にだって、車、あると便利だろう? 何なら俺の車一台やってもいいぞ」
チラッと見る僕に、これなんか走りが良いぞと言う。
僕は無言のまま、ハンドルを切る。
運転免許を取得するのに、さほど苦労はしなかった。むしろ勘がいいと褒められたぐらいだ。それでもどうしても僕は自ら運転をしようとは思えない。
車をバックさせ駐車場に止めると、真っ先に苗代が車を降り、出入り口に向かって歩き出す。
書類が入ったバックを肩にかけ、その後を僕が追う。
パッと目の前が明るくなり、目を瞬かせる。
苗代は早速クライアントと握手を交わし、話を始めていた。
僕が小走りで近寄って行くと、苗代は流暢なフランス語で僕の紹介を始める。
まったく、謎が多い男だ。
「僕ちゃん、セレブだから英才教育受けてんの」
これが苗代の言い分。驚くことに、苗代は英語は当たり前の世界だし、中国語にドイツ語、ハンガリー語に韓国語。この前はフィリピンの子をお国の言葉で口説いていたし、いつだったか、人脈を増やすと言って、国際交流パーティの会場に出かけたことがあった。その会場でも苗代は積極的に、スペイン、インド、イタリア。あと黒人はケニアの人だったのかな。チューリップがどうのこうのと話していたのは、多分、オランダ人だと思う。敢えて英語じゃなく、その国の言葉で話しかけ、驚かれる姿を見て大喜びしていた。僕には、悪趣味の印象だけが残ったパーティだったけど、その時に知り合ったきっかけで、この仕事が転がり込んできたのだから、苗代の戦略は間違っていないってことか。
今度は、映画のシナリオを手伝って欲しいと言う依頼。
SFもので、世界各国が力を合わせて、エンヤコリャと、宇宙からの侵略者を退治するという物語。あくまで、監督自身がシナリオを作成したという名目で、興行収入を得る狙いらしい。
快濶に、絵コンテまで添えながら、話を進めて行く二人の会話をずっとそばで聞いているが、詳しいことは、同席していてもまったく分からない。分かるはずがない。
遅れてやってきた秘書だという女が、僕らの前に立ち微笑む。
苗代は当然のように握手をし、そのままハグをする。同じくその秘書は、僕にもそうしようとするが、握手だけをして、書類に目を通す振りをして誤魔化した。
スケールの大きい話で、予算も目が飛び出しそうになる額だった。
居心地が悪い僕は苗代に、トイレに行って来ると言って、席を外す。
ラウンジまで下りて行き、一人でコーヒーを飲んでいると目の前に、一人の女性が僕の前で立ち止まる。
最初、秘書の女性かと思った僕は引きつった顔を上げ、イクスキューズミーと言いかけ、日本人女性と分かると、ホッとなる。
「すいません。采沢、柊歌さんですか」
「ああ、はいそうですが」
「一緒に来てもらえませんか?」
「はい?」
急に耳障りな音が頭の中に鳴り響き、僕はその場にうずくまり、もがき苦しむ。
数分、数秒だったかもしれない。
「大丈夫ですか」
ホテルマンが異変に気が付き、声を掛けて来たんだろう。
「ごめんなさい。彼なんです。勝手に病院、抜け出しちゃって。ああ来た来た。ここです」
気を失いかけていた僕は、両脇を抱えられていた。
そこで僕の意識が途絶える。




