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レッドアイ  作者: kikuna
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第二章 偽装04

 ぼんやりと坂道を下ってくるライトが見え、僕は謝ってしまおうかどうしようか悩む。くだらないことで命を落としたくはない。

 ライトがだんだん近づいて来る。

 僕は苗代に言う言葉を探しながら、その灯りを見ていた。

 数秒後、そんな事を考えた自分を僕は呪う。無情にもそのライトは、僕の前を通り過ぎて行ってしまったのだ。

 雨は一向に止む気配はなかった。

 次第に体力がなくなって、足の感覚がなくなって来ていた。

 恨めしく空を見上げる僕の視界を遮るように、差しかけられた青い傘に僕は気が付き、ハッとして目線を戻す。

 髪の短い女性が、微笑みかけていた。

 驚いている僕を見て、その女性はニコニコと後方を指さす。

 僕は目を凝らす。あの煉瓦の家が見え、もう一度僕はその女性の顔を見る。

 最初、何を言われているのか分からなかった。

 口元だけが動き、良かったらどうぞと言っているようだが、それを声にして言ってみると、うんうんと嬉しそうに頷く。

 「きみ、もしかして言葉が話せないの?」

 「は、な、せ、な、い、こ、と、も、な、い、で、す」

 アクセントが明らかにおかしかった。

 ああそうか。やっぱりな。

 僕は案内された家を見て、なぜか納得していた。

 何を意味しているのか、そんなことを考えるのは無駄ってことは、僕はよく知っている。

 一瞬動きを止めた僕に、彼女が微笑みかけてくる。

 僕はそれに対し、頬骨筋を少しだけ上げて、その笑みに応える。

 玄関に入ると、あらかじめ用意していてくれたんだろう。バスタオルを差し出され、僕は黙って受け取る。

 「す、こ、し……、少し待てばいいの?」

 僕は彼女が動かす唇を読み取ると、嬉しそうに頷き奥の方に駆けて行く。

 すぐに戻って来た彼女の手に、ペンと紙が持たれていた。

 彼女は早速、何かを書き始める。

 僕はその手元を覗き込む。 

 「良かったら暖まって行ってください。中へどうぞ」

 読み上げる僕の前にスリッパを並べ、にっこり微笑む。

 「でも、この家、君しかいないんじゃないの? やっぱまずいでしょ。僕、一応男だし」

 彼女は僕の目の前で、手をひらひらさせると、すらすらと書き出す。

 「何もしないでしょ?」

 「しないけど。でもやっぱり」

 「だ、い、じょ、ぶ」

 そう言うと彼女は踵を返し、中へと戻って行ってしまう。

 仕方なく、僕は丹念に体を拭き、靴下を脱ぎ、お邪魔しますと、かなり慎重に中へと入って行く。通された居間には暖炉があり、彼女は牧をくべ、椅子に置かれたグレーのスエットを指さす。

 「これは父のものです。良かったら使って下さい」

 上に乗せられたメモを読んでいる僕の肩を叩き、お茶を淹れてきますからその間にどうぞ。と唇を動かす。 

 「いや、でも」

 居間を出て行ってしまった。

 苗代の住宅兼事務所に比べ、だいぶコンパクトなつくりだが、天井から吊るされたシャンデリアを見上げ、僕は苦笑する。

 僕は、長居する気はなかった。

 お茶を運んで来た彼女は、目を少し大きくしてから、テーブルにカップを並べる。

 「ごめん。やっぱり帰ります。申し訳ないけど、傘を貸してもらえませんか」

 一瞬、顔を曇らせた彼女が大きく頷き、お茶だけでもどうぞと唇を動かす。

 「ああじゃあ、お言葉に甘えてと言いたいところだけど」

 並べられたカップに目を落とし、今日のところはやめておきますと断る。何故だかそんな気分になれなかった。理由は特に何もなかった。外はまだ雷の音がしている。窓を叩きつける雨音も依然強いままだった。普通の男なら、しめしめと思う場面なんだろうけど、僕は彼女の顔をじっと見て、もう一度頭を下げ玄関へと向う。

 本当に、自分が自分で嫌になる。

 誰か、僕についての取扱説明書を書いて欲しいと思う一瞬だった。

 花柄の傘を差し、外灯も乏しい道をとぼとぼと歩く。

 途中、木々の隙間から見える看板に気が付き、僕は立ち止まり、能力開発研究所と声に出して読んだ。

 「能力って、何の能力だよ。怪しいですよお宅ら」

 看板には、他に付け加えられる文字はないようだった。ましてや剥がれ落ちた形跡も、かすれた文字一つ見つからなかった。

 僕はただ単純に、自分が、置かれた状況を紛らわせるためにだけ、ぼやいていた。そのことに本気で疑問を持ったわけじゃない。

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