表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レッドアイ  作者: kikuna
14/65

第二章 偽装02

 僕には癖があった。

 昔々の話だ。

 目を開ける前、10数える。

 母がそうさせたのか、それとも自らそう仕向けたのか、記憶は定かではない。

 慌てず、ゆっくるゆっくり怖がらず。

 見えてくる現実を受け入れるための、儀式。

 だけど、僕にはそんな儀式は必要がない。

 ん?

 儀式って、なんだ?

 記憶なんてもんはいつだって曖昧で当てにならない。やれやれ、目覚めることにしよう。

 冷静な僕が、囁く。

 そして僕は重い瞼を上げる。 

 見慣れた天井が見え寝返りを打った僕は、窓から差し込む光を見て安堵する。

 

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、一気飲みをする。

 ベッドの脇、サイドテーブルに置かれてあった腕時計を嵌め、そのまま頭を抱えベッドに座り込む。

 

 まったく嫌になってしまう。だから僕は僕についての説明書が欲しいと言うんだ。

 

 勢いよく苗代の事務所を飛び出した僕は、もう二度と戻らないつもりでいたのに……。

 滿永の目をかいくぐり辞表を出したその翌日、今度こそはまともな仕事を探そうと、勇み足で駅に向かう僕の目の前に、苗代が現れた。

 革ジャンにジーンズ姿という、普段とは違う出で立ちをした苗代が、何もなかったように、ヨッと手を上げる。

 「もう休暇はおしまいだ」

 「これって拉致監禁ですよね」

 強制的に、助手席へ座らされた僕が声を荒げた。

 「それは違うだろう。僕ちゃんは、可愛い部下が無断で何日も会社を休み、それを心配して探しにに来たところ、無事発見。支離滅裂なことを口走るので、保護に至った。分かるか? これは保護。間違って貰っちゃ困る。僕ちゃん、悲しくて泣いちゃうから」

 ハンカチを銜えるジェスチャーまでしてみせる苗代を、僕は白い目で見ていた。

 この人のキャラ、どうにかして欲しい。

 半分殺意を抱きながら、僕は極力、冷静を保つために一呼吸置く。

 「僕の辞表、見ましたよね?」

 「見たよ」

 「だったら」

 「見たと言っただけで、受理するとは言っていない」

 「はぁ?」

 目をひん剥き、口を開きかけた僕に苗代は、じゃあ行こうかと言って車のエンジンをかける。

 「行くって」

 「取材。誰かさんが抛り出すから、僕ちゃんが行く羽目になっちゃって、もう大変。ああそうそう、何さんだっけ、通販会社の」

 「滿永さん」

 「そんな名前だったかな」

 「滿永さんがどうかしたんですか?」

 「不法侵入で訴えられたくなかったら、きちんと出社するようにだってよ。まぁ俺が一応、話をつけたけど、結構高くついたんだよね~」

 「不法侵入って……。僕は辞表を出しに行っただけで」

 「だから言っただろ。出したって、受理されなければ、ただの紙切れなんだよ。ちなみに俺の方のは、シュレッダしちゃたけどね」

 真顔になった苗代が、僕をギロリとみる。

 僕は絶句する。

 苗代は勝ち誇ったように口笛など吹きながら、車線変更させ、田舎道へ車を走らせていく。

 常緑樹の緑に交じり、研究所の看板文字が見えて来た。

 レンガの家の前を通り過ぎる。

 くねくねと曲がりくねった山道を、スピードを落とさずに上って行く。

 もう彼岸花も終わりなのだろうか。観光客の姿もまばらで、あの赤々とした風景もくすんで見える。

 苗代の顔を見るのも嫌だった。ましてや話をする気にもなれない。この男は、何を考えているのかさっぱり、僕には分からない。

 クローンカンパニーの趣旨も分からないまま、就職させられてしまっていた。

 どうして僕は反論が出来ないんだろう……。

 情けない。

 膨れる僕に、苗代が嬉しそうに笑う。

 「お仕事お仕事。君と僕とでお仕事だ~。フフフフ~ン」

 鼻歌を歌われ、僕は腹が立った。

 消去すべし。

 僕は強く瞼を閉じる。

 これで良し。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=670037458&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ