第二章 偽装01
髪を一つに束ねた水沢亜紀が、僕を出迎えていた。
銀縁眼鏡に白衣。いかにもという出で立ちである。
「本当に人手が足りなくて、困っていたのよ」
事務所に案内しがてら、水沢は軽快な口調で話し続ける。
「うちは精密機械を扱う会社だから、目の認証と静脈認証がワンセット」
「ずいぶん厳重ですね」
「仕方がないのよ。食うか食われるかの世界だから。あと、時々面倒なことが起きてしまうこともあるから、はいこれ」
水沢亜紀が、IDカードを僕の首からぶら下げ、にっこり微笑む。
「これは肌身離さずにしておいてね」
はぁと気の抜けた返事をすると、水沢からは、さっきまでの笑顔はもうない。
事務所を出て、二階へと案内された僕は、横川智樹を紹介される。
横川は陰気くさい男で、快活に話す水沢を、前髪で隠れてしまっている黒縁メガネの向こうから見ている。
僕としては今、彼よりも水沢の方に興味があった。
「しばらくは彼についてもらって、ここの仕事に慣れてもらうってことでいいかしら。あと」
一度ここで言葉を切った水沢が、申し訳なさそうな顔で僕を見る。
「セキュリティ上、しばらくはここの5階と6階にある寮に住んでもらうことになるけど、大丈夫?」
僕は目を大きく見開いて、寮ですかと訊き返す。
「あら、派遣会社から何も聞いてなかったの」
「聞いていません。軽作業の仕事があるとだけ聞かされていたから了承したんです。て言うか、水沢さん、僕と会ったことありますよね?」
ポケットに手を突っ込み、水沢は黙ったまま僕に背を向けてしまう。
「あのすいません。今の話は忘れてください。それと、その条件聞いていなかったもので、就活とかあるので、この仕事、お断りします」
水沢は、何も答えず、ど恩どん前を歩いて行ってしまっていた。
僕は不信感を募らせていた。
背筋がゾワッとして、身をひるがえそうとした僕は、その場へ崩れ落ちる。
躰がしびれてしまっていた。
遠のく意識の中、水沢の唇が、ごめんねと動いた気がする。
横川が、おそらく僕に何かをしたのだろう。
そして僕の躰を支えているのは横川で、微かに聞こえる声。
「ここはひとまず、開放するしか……」
何を言っているんだ?
「早急に措置をしないと、取りあえずシャットダウンさせて」
――そして僕は意識を失った。




