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At the sunny side 9





不本意ながら僕は、僕を狙う不届きな大人によく遭遇する。

もちろん、皆自分可愛さに、父や母の目が届かない所で僕にちょっかいをかけてくる。

例えば、僕に不埒な遊びを仕込もうとベッドに押し倒そうとする家庭教師や、ワルツの実技を教えるために雇われた教師が、その間中、僕の体を厭らしい手つきで触りまくったりするのだ。

はっきり言って、吐き気がする。

元々、僕は他人に触れられることが大嫌いだが、益々他人との接触に嫌悪感が増殖していた。


そんなあるとき、ふと僕は新しい遊びに気付いた。

そう、狩りを始めればいいのだと。

狩りの対象はもちろん、自分を知らない馬鹿どもだ。

僕が世間一般的に言えばまだ子供なのをいいことに、自分の優位さを信じて疑わない愚か者どもを、

狩ってやればいい。


手段は、選び放題だ。


遠乗りの時間に出会う、変質者どものように身動き一つできなくなるまで痛めつけるのも一興だが、それでは工程が同じなのでつまらない。

どうせならもっと意地の悪い遣り方で、その仮面をはぎ取ってやった方が面白いだろう。

つまり、陽動作戦だ。

誘って、酔わして、懲らしめる。

これが一番、時間をかけ楽しめる方法だと、直ぐに僕は答えを出した。

履いて捨てるほどどうでもいい相手が、ほんの一瞬だが、僕を退屈から解放してくれるのだ。

考えただけで、可笑しくてたまらない。


専ら、この狩りは、最近の僕の退屈しのぎになっていた。


彼ら(彼女ら)は、幼い僕に反対に打ちのめされるなど考えもしないので、容易く罠に引っ掛かる。

わざと何にも知らない振りで、子供の様子で甘えて見せて、変態どもを油断させる。

僕に個人的に関与したい彼らは、直ぐに勘違いをする。

余りにも愚かで残念だが、勘違いに気付く間のないまま、愚か者どもは確実に僕との距離を詰めてくる。


もちろん、僕は一度だって、肌を見せてやったりなどしない。

ただの一度だって、おかしな意味で触れさせてもやらない。

ただ甘やかに微笑んで、変態を酔わせ、のらりくらりとかわしながら、ひらひらと逃げるだけだ。


そんな態度の僕をどう理解するのか、馬鹿な奴らは、嬉しそうに下した微笑みを浮かべながら、蝶のように舞い逃げる僕を、捕まえようと必死に追いかけてくるのだ。




そう今まさに、僕をカメラが仕込まれた壁際まで追い詰めて、愚かにも僕に口付けしようとしている馬鹿な家庭教師が目前にいる。

はぁはぁと汚らしい息を吐き、興奮しきった汚らしい股間を押さえながら、ぎらついた視線で僕を見下ろしている。

「やっと捕まえた、もう・・いいだろう?」

この男、本当に馬鹿なのではないのだろうか。

呆れて、二の句が告げない。

僕は冷淡な視線で、目前のクズを見上げる。

そんな汚らしい指でこの僕に触れてくるなんて、殺されても文句は言わせないところだ。

左手で僕の顎を掬って、自らの上唇を舌舐めずりしながら、僕の唇を奪おうと迫ってくる。その間にも、右手でガチャガチャ腰のベルトを鳴らす。

僕は感情のないまま、欲望に歪んだ醜悪な大人を観察していた。

触れるか触れないかのぎりぎりのところで、僕は背中を預けた壁伝いにずり落ちる。

恐怖で体が竦んで蹲ったと勘違いして、馬鹿な男が醜く笑う。

何処からその余裕が来るのか、僕の方こそ教えて貰いたいぐらいだ。

無防備に開いたジーンズの隙間から、醜い肉が盛り上がっているのを一瞬で確認して、僕は、悠然と微笑んだ後、そこを思いきっり蹴り上げてやった。

「ぎゃぁぁあああ!!」

獣のような悲鳴を上げ、のたうち回る変質者をよそに、涼しい顔で僕は、愚か者の正体を撮った映像を手持ちの携帯で確認し、父のPCに転送してやる。

「The game is over」

僕の宣言で我に返った愚か者は、屋敷中から駆け付けてきた使用人たちに取り押さえられ、僕の視界から完全に姿を消す。

絶叫に近い泣き言を喚き散らしながら暴れる馬鹿を、屈強な使用人たちが難なく組締め、乱暴に排斥してくれる。

彼の人生が終わった瞬間だ。

せいぜい、祝ってやろう。

意地悪な感想を、高笑いに変えた僕に、

「退屈しのぎは、ほどほどになさいませ」

とため息交じりに、何時からそこにいたのか不明だが、優秀な僕の執事がそう言った。












「ねぇエディ、さっきの騒ぎは一体何事なの?」

何故だか分からないが、最近僕の屋敷に婚約者が居座っている。


しかも、彼女は先日の宣言通り、僕の事を”エディ”と呼ぶようになっていた。

もう何度、名前の事で言い争ったか覚えていないが、結局、彼女を説得することはかなり難しいと分かったため、僕は完全に不本意だが、彼女だけを例外として認めることにしたのだ。

そのことを、僕は家中に宣言した。

家の者たちは、一瞬だけ物凄く驚いた表情で僕を見詰めた。

僕の隣に立っていた、クロウも同様に。

母は何故だかとても嬉しそうに、宣言した僕に、ぱちぱちと拍手を送ってきた。そして、僕の婚約者に何故だか、ブラボーと掛け声をかけていた。

母が分からないのはいつもの事なので、それ以上の詮索はしない。どうせ、母は僕の理解を越えたところで生きているのだ。

こうやって、名前問題は一応の解決を見た。

というか、僕が一方的に降参させられた。

いつもなら完全にあり得ない事だが、母と同じ匂いのする宇宙人との交渉は、上手くいかなくて当然なのだ。僕には全然理解できないが、一歩も譲るつもりのない宇宙人相手に平行線をたどっても時間の無駄だ。

ここは、僕が譲るしかないと判断したのだ。

ただし、何もかも通ると思うな!

僕は、彼女に対してそれ相応の報復を考え出した。

それは、僕からはけしって彼女の名前を呼ばない、という事だ。

これぐらいの報復措置は許されるだろう。

彼女だって、僕が一番に嫌っていることをこの僕に強制しているのだ。このまま、僕が一生彼女の名前を呼ばなかったとしても、それは彼女のせいなのだ。


彼女の問いかけに、僕はふんと鼻を鳴らして一切答えない。

せっかく、3ヶ月もかかって仕込んだゲームを仕上げたのだ。

愉快な気分が削減されるのは、僕としては全然歓迎できない。だから、彼女になど説明してやるつもりはない。

「ねぇエディ、何かあったんでしょう?」

どうでもいいが、女という生き物は好奇心だけは旺盛だ。

僕が答えなくても、いずれ使用人の誰かから聞き出して、僕を咎めに来るだろう。

この遊びもそろそろ潮時かもしれない。

面倒な相手に知られては、今後の展開も危ぶまれる。

「ところで、なんで君は、最近僕の屋敷にずーっといるんだ?」

気になっていたことを、この際聞いてみる。

少なくとももう二週間以上、毎日顔を合わせている。

「そんなに、暇なのか?」

僕はまだ、学校というシステムを知らない。だから、彼女がずっと僕の屋敷に居るという事実が不可解でならない。彼女の居場所はまだ、ここではないはずなのに、何故こうも毎日、僕の目の前に当然という顔をして現れるのだろう。

「・・・、やっぱり、全然聞いていなかったのね」

その口ぶりだと、僕は以前に、この質問の答えを彼女の口からきいていたらしい。どうやら、地雷原に足を踏み入れたようだ。

母が相手なら、ここで空かさず退却だ。

何はともあれ、逃げるが勝ちなのだ。さもなければ、また僕ではよく理解しかねる理論で可笑しなことを言い出すに決まっている。

女は、ほんの少しの事で大騒ぎするので本当に面倒だ。

ふんと視線を外した僕に、彼女は益々気分を害したらしい。

顔中に、僕に対する不満をでかでかと掲げて、腰に手を当てた姿で、

「私はこのまま、8月の中頃までエディのお母様にお世話になるの。何故なら、学校が夏休暇だからよ!」

と言い切った。

そう云えば、そんな事を喧嘩の最中に言っていたような気がする。

僕はどうでもいい情報はその場でゴミに出す主義だ。彼女に関する情報のほとんどは、僕にとっては何の価値もないものばかりだ。それなのに、何となく聞いたような気がするというのは、僕にしたら、物凄い譲歩だと言っても過言ではない、と思う。

だが、きっと彼女は、僕の譲歩に対して苦言を言って来るだろう。

明らかに厭味口調で、

「だから、大変、御気の毒様ですけど、私はずーと貴方の目の前に居ますから!!」

と宣言し、あっかんべーといいながら、思いっきり舌と右瞼の下を伸ばす、という可笑しな行動に出た。

その、行動の意味が、分からない。

取り敢えず、あまりいい意味ではないのだろうという事だけは、何となく伝わるのだが。

彼女は、僕が今までにあってきた人間の中で一番に、不可解な人間だ。その行動も、言葉も、他の人間なら、絶対にこの僕に対して向けるはずのないもので埋め尽くされている。

本当に理解できないが、最近、そんな不思議な宇宙人に、ほんの少しだが妙な感慨を覚える。

直接僕に対する不愉快な行動でない限り、彼女は観察対象としては、非常に面白いと気付いたのだ。

だが、今ここで、何かしらのリアクッションを返すのは疲れる。出来れば、御免被る。僕は何故だか大変な徒労感に、もうどうでもいいような気分でいた。

その為、何事か喚く婚約者を今度こそ無視して、僕は踵を返したのだ。







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