空気なんてなくなっちゃえばいいのに
「アンゼリカ、一度しか言わないから聞いてくれないか」
「なにかしら」
それは何の予兆もなく、突然のことだった。
天気が良いのでお気に入りの睡蓮の池が見える部屋で私はロビリオと二人、ランチを食べていた。
いつもみたく「今日のお肉にかかったオレンジソースは酸味が効いてて良いわね」とか、たわいのない会話をしていたのに、ロビリオが急に固い表情になって、そう話を切り出したのだ。
よく周りから鈍感だとか、能天気だとか言われる私でもその様子に嫌な予感を感じとった。
ああ、嫌だ。
なんかよく分からないけど、絶対良い話じゃない。
聞きたくない。お願いだから喋らないで。
心の中で懇願するけど、ロビリオは空気を読んでくれない。
ロビリオもそういえばよく周りから鈍感だとか言われてたな。
つまりは私たちって似た者同士で、お互い気を使わない者同士、上手くいってたと思うの。
まるで空気みたいな存在で、あなただって私と一緒にいたとき、自然に過ごせたでしょ?
ねぇ、だから、お願いだから。
しかしロビリオはその後を続けてしまった。
「好きな人ができたんだ。君とは一緒にいて空気みたいで気軽だけど、彼女といるとドキドキして楽しいんだ。多分これが恋なんだね」
私の好きなお菓子みたいに甘い顔で、とろけるような言葉の毒を吐く。
「だから君とはもう終わりにしたいんだ。婚約破棄をさせてくれ」
あー。
ロビリオの周りだけ空気なんてなくなっちゃえばいいのに。




