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紫苑の花を君に 〜武闘派令嬢の英雄譚〜  作者: 紺
第二章 西香編
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三つの条件

 九十九(ツヅラ)商会との商談を快諾した亜嵐に後のことを任せ、朱李と景佳を連れ帝都を発った六花。その腰に提がるのは飾り気の無い新しい剣。自ら使い心地を試してやろうと思ったのだ。


「抹槻さんたち、上手くやってるかな」

「大丈夫じゃない? 大将軍興味津々だったし。それよりも、その髪なかなか良いじゃん」


 六花はポカンと呆けた後、弾けるように笑った。朱李が容姿について褒めるのは流れ星を見つけるくらい珍しいが、珍しいだけあって他意はない。本当に良いと思っている証拠なのだ。


「でしょ? 柳家の夏智様が短い髪でも出来る纏め方を教えてくださったの」

「あの人が関わってるわけ? そのうち帝都で短髪が流行りそうだね」

「そうなったら、私は流行の最先端だね!」


 何だかんだ言いつつ髪が短くなったことを気にしていた六花は、ダメ元で夏智に相談を持ちかけた。短くてもそれなりに見られる髪型を所望する六花を不憫に思ったのか、はたまた等身大のお人形を手に入れ興奮し過ぎたのか定かではないが、夏智は持てる限りの権力を振るい帝都中の髪結い師をかき集めた。


 彼らの試行錯誤の結果、六花の髪はツヤツヤのトゥルントゥルンになり、うねうねと編み込まれ黝簾石をあしらった大きな髪飾りで留められている。


 私も切ろうかしらと言い出した夏智を五人がかりで思い留まらせたが、その情熱は留まるところを知らなかった。髪結い師たちの発案した様々な髪型を本にまとめて売り出すことを決めたらしい。そしてゆくゆくは皇国全土に広めたいとのこと。斬新かつ前衛的すぎる発想ではあるが、流行の発信源として名高い夏智ならばそれを実現させてしまうのだろう。


「景佳、あんたはどう思う?」

「は、え? 俺ァ別に」

「敬語、抜けてるよ。あと本心じゃなくとも自分のご主人様を褒めるくらいしなよね」

「は、はいィ。とてもお似合いだと思うですゥ!」

「思いますね、景佳。お世辞でも嬉しいよ、ありがとう」


 六花がそう言えば、景佳はほっとしたように笑う。景佳が六花にまでビクついているのは、この数日の間に亜嵐と司馬にしごかれたせいだ。無数に残る生傷が痛々しい。


「髪飾りはお嬢が選んだですかァ?」

「それにしてもまた黝簾石(ブルーゾイサイト)? 本当に好きだね」

「へ、は、す、好き!? 別に首飾りとお揃いにしようと思っただけだよ! 目の色が似てるとか関係ないもん!!」

「別に誰がとか言ってないでしょ」


 朱李のジト目と景佳のワクワク顔に耐えきれず、六花は赤面したまま俯く。嘉月はこれを見て何と言うだろうかと、想像して少し期待してしまう。


「で、嘉月とはどこまでいったわけ?」

「はい!? どこも行ってないけど!?」

「手は繋いでるよね、抱きしめ合ってたって衛士に聞いたし。口付けは? あ、人工呼吸は含めずにね」

「な、な、何のことですかね!?」

「この反応は既にしてるね。その次の段階は…」

「町が見えてきたよ! 降りる準備しなきゃ!」


 無駄口を叩く朱李に荷物を押し付けて、わたわたと脱いでいた靴を履く六花。朱李が「口付け止まりか」なんて呟いているうちに一行は町へと到着し、馬車が止まった瞬間に六花は外へと飛び出した。




 帝陵への往路でも通った春嶺(シュンレイ)の町。夕餉を済ませ早々に宿へと帰ったは良いものの、思わぬ手違いが発生した。二部屋しか予約されていなかったのである。


「普通に考えたら私と景佳が同室だよね?」

「そりゃ駄目でしょォ!? 俺も一応男なんですけどォ!?」

「普通に駄目でしょ」

「じゃあ私と朱李くん?」

「おいィィ! もっと駄目だろォ!!」

「何も起きない自信はあるけど、外聞が悪過ぎるね。柏家に嫁入りしたいなら構わないけど」

「じゃあ私が一人部屋?」

「柏様が良いなら…」

「うーん、まだこいつのこと信用しきれてないけど、仕方ないかな」

「面倒臭いなぁ…全員同じ部屋で良いよ」

「それも良いかもね」

「ぜんっぜん良くねェですよォ!? 柏様はこっちです!!」


 景佳に首根っこを引き摺られていく様子が物珍しい。仕方なさそうにひらひらと手を振って、朱李は隣の部屋へと消えた。







「本当のところ、お嬢のことどう思ってるんですかァ?」


 灯りの消えた室内にて。床に敷かれた布団に寝そべった景佳は、寝台の上の朱李にそう問いかけた。


「期待してるとこ悪いけど、ただの友達だよ。素行調査も兼ねてる」

「そ、素行調査ァ!? お嬢何か悪いことでもしたんですかァ?」

「皇后に相応しい令嬢を捜してる。女大公殿下からの密命だから、漏らすんじゃないよ」


 密命とは、と言いたくなるくらいの軽い口調で朱李は言う。景佳がその意味を理解するのに、茶が沸く程度の時間が掛かった。


「お嬢が、皇后候補………?」

「別におかしな話ではないでしょ。条件に合致する令嬢は意外と少ないんだ。第一に殿下と年回りが近く、健康体であること。これは世継ぎを生むための必須条件。第二に貴族であること。これに差別的な意図は含まれてない。ただ、令嬢自身もその家族も自分で自分の身を守れる程度の権力が必要になる。容易に人質に取られたり暗殺されたりしちゃ困るからね」

「それならもっと高貴な家柄ご令嬢の方がいるんじゃねェですか?」

「それが身分が高すぎるのも駄目なんだ。ただでさえ宰相や大臣なんて要職に就いてる貴族たちに、これ以上の権力を与えたらどうなると思う?」

「うーん…国が、乗っ取られる?」

「あんた、意外に頭が良いね。だからこそ、国政に一切関与していない酉家は都合が良い。ましてや養父が禁軍の大将軍だ。皇帝に刃向かう事はまず有り得ないし、領軍最強の西魁軍を味方につければ万一の場合も殿下の安全は揺るがない。そして何より、殿下は六花のことを気に入ってる」


 それが最大の理由だと、朱李は勝手に思っている。何故か女大公にまで目を付けられていて、第三の条件を満たしているかどうかを確認しろと指令が下っているのだ。その条件は『生娘であること』。


 これは別に貞操観念がどうのというわけでも、璃玖が初物好きというわけでもない。以前関係を持った男に閨での様子や身体の特徴など下世話な話を言いふらされては困るからだ。

 一々閨房に関する知識や嘉月との進展具合を聞き出そうとするのもその為であり、決して興味本位などではない。朱李は心の中で言い訳をした。


「どうしてお嬢が殿下に気に入られてるんですかァ? 一目惚れってわけでもねェでしょう?」

「詳しいことは言えないけど、あんたが逆賊に攻め入られた城主の息子だったとしよう」

「唐突ですねェ」

「今にも殺されそうってとこで颯爽と現れたのは、ちょっと年下のよく見ると可愛い女の子。その子は使用人のふりをした、超一流の剣士だったんだ」

「そんなことありますゥ? 非現実的過ぎて想像もつかねェや」

「その子は華麗な剣捌きで賊を蹴散らすけど、賊の数は圧倒的。諦めかけたあんたが女の子を突き放そうとすると、その子は言うんだ。『貴方は素敵な城主になる』『望むもの全て手に入れてみせれば良い』って」

「…そ、それで?」

「その子の活躍によって逆賊は鎮圧された、と思いきや、無力化したはずの逆賊の生き残りがあんた目掛けて矢を放った。その事に気付いた女の子は、自らの命も顧みず矢の軌道に立ち塞がった」

「うおお、やばいなァ」

「それから色々あって逆賊は鎮圧され、あんたは次期城主になる事が決まりましたとさ。めでたしめでたし」

「ちょっと待ってェ!? 最後省きすぎでしょう!! その女の子はどうなっちまったんですかァ!?」

「隣の部屋にいるでしょ」

「あー、よく分かりましたァ」


 景佳は漸く納得した。毒にも薬にもならなそうな少女を何故酉家が危険視するのか。何故朱李が固執するのか。


「俺は間違いなく六花の友人だけど、どちらか一人をとるなら迷わず殿下を選ぶと思う。殿下が六花を望むのなら、俺はその願いを叶えようとする。もしも、それが六花の意に沿わないことだとしても」


 朱李は抑揚の無い声で呟くように言った。景佳が弾かれたように寝台の上を見上げても、朱李の表情は伺えない。


「だから景佳、お前には六花を守ってほしい。何よりも六花の幸せを優先させてほしい。俺には多分、それが出来ないから」

「…ただの友達に対するものですかァ? それは」

「まあ、色々あるんだよ。俺が、というか柏家の話になるけど」

「何だかよくわからんですけど、お嬢はちゃんと守りますよォ」

「…頼んだよ」


 それきり、二人の間に会話はない。どちらが先に眠ったのかわからないくらい、静かな夜だった。

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