喪失
例えば。
親鳥が大事に大事に抱えた雛を、唐突に敵が掠め取ってゆくように。
いつでも世界は不条理で、冷徹なまでに公平だ。
何かを得るために何かを失う。
それが世界の仕組みだというのなら、
僕は生きるためにこれまでどれだけのモノを失ってきたのだろう。
知らず知らずに払った犠牲と、気にも留めなかった喪失物。
形に見えない失くしモノたちは、いったいドコいったのだろう。
生まれたての赤子が持っているのは、希望と無垢な純粋さ。
少しずつ失っていったそれ等を取り戻す術など、ないのかもしれない。
ただただ浪費して、枯渇すれば死んでゆくだけ。
それを虚しいと思っていいのか仕方ないと思うべきか、僕にはわからない。
ただ、僕は、自らの純粋さを守るために、
生きることをやめようと思った。