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強い恐怖のうちに徹平の視界は真っ黒になった。気が付いたとき、徹平の前には轟がいた。その時徹平は、椅子に腰を掛けている状態で、轟は徹平と机を挟んで徹平の前に座っていた。
「気づいたか、小僧」
「ここはどこだ?」
徹平は、そういいながら手を動かそうとしたが、動かなかった。下を見てみてみると、足がロープで巻かれて椅子に固定されていた。手は後ろにあって見えないが、同じくロープで縛られているのが感覚で容易に想像できてしまう。
「なんだこれは?」
轟は、うっすらと含み笑いを浮かべた。徹平がこの男と出会って、何度も見てきた笑いだ。徹平はその顔が嫌いだった。
「離せ!」
「だめだな、お前には謀反の疑いがかけられている」
「謀反?」
「そうだ、君は、あの男と私たちが今から戦うテロリストたちに同情するような会話をしていた」
「俺はしていない!したのはあいつだ!あいつが勝手にやったんだ!」
轟は、徹平の意思のいい声を聞くと、体を後ろにそらしながら大声で笑い始めた。
「何がおかしい?」
「戦争と言うものを君は知らないな、敵の同情する奴は、非国民だ、日本は元来そうやって戦争を行ってきた。敵はみんな鬼なんだよ、おれたちは桃太郎。桃太郎は鬼に同情なんてする必要はない」
「俺は同情なんてしていない、奴らは、日本国家転覆をもくろむ敵だ。だから今から戦うんだ」
轟は、大きく息を吐いた。
「正解だな、さすが戦争をやりたいと望んでここに来ただけのことはある」
その言葉を聞いて、徹平も少し笑みを浮かべた。
「俺は、相手に同情して戦えなくなるような弱虫なんかじゃない。日本人である以上、国のために戦うのが人間だ」
轟はその言葉を聞いて、前のめりになった。
「ほう、国のために戦わない奴は弱虫か?」
「弱虫だろ?どう考えても」
「昔、一人の敬虔なるイスラム教徒であるアメリカ人が徴兵を拒んだ。自分の宗教の教えに背くという理由から、そして悪くもない相手と戦うのは悪いことだと。その人は弱虫か?」
「弱虫だ!」
轟は、また含み笑いを浮かべて話しはじめた。
「その人は、当時、自分が職業としていた仕事の栄誉と言える地位に上り詰めていたが、それをはく奪され、逮捕され、国民からは非国民と言われた」
「当たり前だろ」
「その人は、オリンピックの金メダリストでもあったが、その金メダルを川に捨てた。その人は、戦争に行くくらいだったら、アメリカ人をやめてもいいと思った。しかし、その戦争でアメリカは負けた。後にその戦争のきっかけとなった事件がアメリカの作った作り話と言うことが分かった。その人の言ってたことは正しかったとアメリカ国民は口にした」
「ただの結果論だ」
轟は、徹平がそう言った後に急に真面目な顔になって、話しはじめた。
「君はその男が、弱虫だと言ったな。彼は、国が戦争に向かう中一人で戦い続けた。戦争反対と言う言葉を掲げてな。そして、その後自らの仕事に復帰、もう一度頂点に上り詰めた。その人の職業は何だと思うか?死ぬこともある職業だ」
「なんなんだよ?一体」
「蝶のように舞い、蜂のように刺す…私が一番好きなボクサーだったね」
徹平はそれを聞くと、そんなはずはないという表情を浮かべた。
「まあ、その話はここまでだ。君は、先頭部隊に行け。謀反の容疑は一応かかっているからな」
「先頭?」
「まあな、そこで、テロリスト団体を先頭部隊とともに殲滅しろ、命乞いをしても許すな。君は弱虫ではないはずだからな」
徹平はその時、一瞬無言になった。
「なんだ、怖いのか?」
「いや…そんなはずは」
徹平は、自分の手が少しずつ震えているのを確認できていた。
その二日後、徹平が配属された先頭部隊は、テロリスト団体より先に油田に着くため、ヘリコプターに乗って、ガワール油田に降り立った。徹平はもはや生きている心地などみじんも感じていなかった。




