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僕たちは戦争を知らない  作者: リョウ 戦争作家
11/11

11 最終回

 ゲームセンターでバイトをしている高木逸平は、起動中の【戦争リアル体験コーナー】の機械を見つめていた。三山徹平を椅子に縛り付けたように起動しているその機会は、これまでにないくらい長い時間起動している。

「粘りますね、この学生、今まではすぐに精神崩壊か戦死で体験終了だったのに、こいつもう3時間もこの機械の中にいるんですよ」

 高木は、この機械を発明した、轟仁平次に話しかけた。

「この中の世界の体感で、約2年くらいになりますかね?」

「そのくらいだな…」

 【戦争リアル体験コーナー】の世界では、体感時間が実際の世界よりも数倍速く進むように作られている。轟はこの機械を発明するのに20年の月日を費やしたのだ。

「しかし、あなたもひどいことしますね。未来の危険人物を更生させるためとか言って、みんなどうなったと思ってるんですか」

「それでいいんだよ、この国にとっては」

 呆れた口調で、話した高木に対して轟はあまり力なく答えた。

「まあ、しかしこいつは本当に危険だと思いましたよ。まさか授業の時に、しかも中国人留学生とかいる前でとんでもないこと言い出すんですから」

高木は、徹平の方を振り返って、機会がついた頭をポンポンと叩いた。

「今は、そうやって中国人とも韓国人とも仲良くできてる人が多いけど、戦争になったら、仲がいい人であれ、恋人であれ、敵だったら殺さなくてはならない、戦争は史上最大の」

「差別だ」

高木は轟の言葉を遮るように話した。

「あなたいつも言ってるから、もうその後の言葉全部も全部覚えてしまいました」

その言葉を聞いた、轟はニコリと笑った。

「次、言いましょうか?」

「いいよ…」

轟は、癖になっている大きなため息をついた。

 その時、【戦争リアル体験コーナー】の起動の終わりを告げるサイレンが鳴った。


 薄暗い闇が少しずつ開いてきた。

ここは何処か?戦いはどうなったのか?油田は、日本は守れたのか?俺は死んだのか?そんな問いが徹平の頭をぐるぐると駆け巡った。

「よう!どうだった?戦争体験コーナー」

目を開けるとそこには、どこかで見たことあるような男が立っていた。戦争体験コーナーと聞いて、徹平は全て思い出した。あの戦争は全て作り話だったのだと実感した。

 つい最近まで覚えていたはずなのに、油田に着いてからはまるっきり忘れていた。全て作り話だったと思うと少し安心した。

「お疲れ様、坊や、本日はありがとうございました」

 話しかけてきた声の方向を向くと、そこには轟が立っていた。

「どうだったかな?」

「怖かったのと、なんていうか…」

「そうか、そうか、さあ気を付けて帰ってね」

 そういうと、轟は徹平の荷物を差し出してきた。この荷物を見て、徹平は自分が学生であったことを思い出した。

「ありがとうございます」

 そう言って、徹平はゲームセンターの外に出ようとした。頭が少しぼやけているが、外に出るとはすっきりするだろうと考えた。外に出ようとすると、なぜか心のうちからざわざわとするものが聞こえてくる。

「ここだ、ここだ」

誰かが徹平を呼んでいる。それと同時に、あの体験がフラッシュバックしたかのような感覚が襲ってきた。

 徹平はそこから逃げ出したくなり、急いでゲームセンターのドビラを開けた。するとそこには、あのテロリストの兵隊が数多くいて、徹平に銃口を向けてきた。

 “殺される”徹平はそう感じて、奇声を上げた。


 徹平がいきなり外で奇声を上げた。何かにすごくおびえているようだった。それを見ていた轟は、徹平のもとに近寄ると、「大丈夫だ」と声を上げて落ち着かせようとしている。

 轟は、徹平を再びゲームセンターの中に入れ椅子に縛り付けた。

「睡眠薬あるか?」

「ありますよ」

 そう言って、高木は薬を自分のバックから取り出した。

「結局、壊れてましたね。前にも言ってましたが、戦争特有の症状ですか?」

「まあな、第二次大戦後のアメリカは、帰還した兵士の多数がこういった症状に悩まされたそうだ。ひどい人は一生治らなかったとか」

「それ、なる可能性知っててやってたら、あなたもどうかと思いますよ」

轟は、知ったこっちゃないという顔をしながら、徹平に薬を何とか飲ませようとしていた。

「だいたい、あなたは行き過ぎるんですよ。左すぎと言うか、何というか」

「でも戦争はダメだ!」

「あなたは、平和ボケの意味を戦争の悲惨さを知らなくて、戦争をやってしまおうと言っている人間だといました。それは、正しいです。しかし、だからと言って、自衛隊とか何も必要ないというのも、平和ボケじゃないですか」

轟は、その言葉に小さくうなずいた。

「すいません。轟さん。もうついていけません。しかし、あなたから教えてもらった戦争の悲惨さは、胸に留めておかなくてはならない。戦争は、史上最大の差別であり、史上最大のホロコーストである」

 高木はそう言い残すと、荷物を持ってゲームセンターの外に出た。そこから遠ざかるにつれ、徹平の奇声は徐々に小さくなっていった。高木は、自分が徹平を誘った罪の重さを嘆いていた。


 その後、三山徹平は隔離病棟に入院し、そこで戦争の恐怖に怯えながら過ごすことになった。ゲームセンターにある【戦争リアル体験コーナー】は、今も右翼的な学生の人間性を壊し続けている。

 そして、徹平の病室の壁にはこんなことが書かれていた。

 「戦争は史上最大の差別であり、史上最大のホロコーストである」

 「本当の平和とは何か?国際協調、貿易、国家間連合体、武力は多少いりますが、武力だけが戦争の抑止力にはならないのです。誰かこの世界を助けてください」

 これを書いたのは、三山徹平であった。


戦争は、悲惨なものです。戦争を防ぐために何が必要か?それを考えるのは今じゃないでしょうか?

戦後70年、もはや、武力だけが戦争の抑止力にはならないのです。

高見リョウ

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