白鳥の首ゲディス 前編
友たちに読んでもらったところ、道徳の教科書に載ってるみたいな話と言われました。
モーリス・ル・ブランのアルセーヌ・ルパンシリーズを読んでいて、思いついた話です。
白鳥の首ゲディス 全編
今日は白鳥の首ゲディスの話をしようと思います。傭兵ゲディスのことは、皆さんの方が私以上に詳しいことでしょう。ですから、私は皆さんが知っている話ではなく、何故ゲディスが白鳥の首と呼ばれるようになったか、いえそうではなく、白鳥の首と呼ばれるきっかけとなったあのペンダントのエピソードをお話ししようと思うのです。この話は私とゲディスが傭兵として共に見、経験したことです。
その頃ゲディスは傭兵として名を馳せ始めた頃でした。
首にはすでに皆さんが知っている、あのペンダントがありました。遠くに向かって何かを訴えるように、首を長く伸ばしたあのペンダントが。しかし、それはまだ白鳥のそれではなく、ただの鉄のペンダント、よく言えば黒鳥のそれでした。
我々は熱帯の国、B共和国に派遣されていました。この国の戦争は複雑の一言に尽きます。このことはすでに新聞などで、皆さんもよくご存じでしょう。
多くの戦闘の中、我々は密林の奥深くにある小さな村を見つけ、そこでわずかな休息の時を持つことがありました。
我々の様な傭兵を見ていい顔をする者などいる訳がありません。作戦の途中で見つけたこの村も同様でした。元来陽気な彼らもあの熱帯の木々でつくられた独特の家から一歩も出ようとせず、じっと我々を警戒しているようでした。我々はこの村の井戸から水を得ると、わずかばかりの金貨を村の境に置きました。水のお礼として金貨がこの村にとってどれ程の価値を持つのか分かりませんでしたが、少なくとも外部との交渉をする限りは何らかの価値を持つだろうと思ったからでした。
ここで奇妙なことが起きました。まさしくそれは我々にとって奇妙としか言いようがありませんでした。
この村の女の一人が家から意を決したように走り出ると、ゲディスにこぶし大の木の葉の包みを渡しました。
ゲディスは我々の中でも一風変わっていて、無口でどちらかと言えば無愛想です。もちろん傭兵に愛想など必要ありませんが。それでもゲディスは部隊から一人浮いているような存在でした。また、ゲディスはおじぎという、腰から上半身を倒し頭を下げるという東洋の奇妙な習慣を持っていて、この時も村から出る前におじぎをしていた所でした。
村の中年の女がそんなゲディスに何を見たのか分かりませんでしたが、その女は木の葉の包みを渡すとゲディスに懸命になって何かを頼んでいました。
この国の言葉が片言ながら分かる者が通訳したところによると、ここから東に行った海沿いの村に一人の娘がいるからこれを渡して欲しいと言うことでした。そしてしきりに自分の目を指すのです。通訳する者にもその意味はよく分かりませんでしたが、目に関係することは分かりました。
村単位で生活する彼らの中で、何故他の村の娘にこれを渡すのか、それがどういうことなのか分かりませんでした。
しかし、我々はその女の頼みを聞いてやることにしました。あまりに必死の女の姿に我々は気圧されたのか、それとも心打たれるものがあったからなのかも知れません。




