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召喚されて、戻ってきたら  作者: 塔子
召喚されて、戻ってきたら 2
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【後編】

私、工藤 愛くどうめぐむ渡瀬侑理わたせゆうりは同じ年のイトコだ。


イトコとは言え、家族同然、双子と言っても過言じゃないっていう関係で。


平凡な私と非凡な従弟。


いつも助けてもらってばかりではいけないと、大学入学と共に実家を出て一人暮らしをしたのは良いんだけど、私の様子が心配だと両親が言うので代わりにゆーくんが週に数回見に来てくれる。


何度、大丈夫だって言っても、今日みたいにご飯やおかずを持って来てくれる。


いくら私が食いしん坊でも、空腹で倒れたりしないってば。


――私って、まだまだだね。


もっともっとちゃんとしなくては!







めぐむ…」

「ん?」

「俺の話も、聞いてくれるか?」

「え~っと…うん」



車内の空気が変わる。


あの~、私、今から、面接で行かなきゃいけないんだけど。その為にゆーくんだってこうして駅まで送ってくれてるんでしょう?



「ゆーくん、私、面接が…」

「俺と面接、どっちが大切なんだ?」



わっ!何それ?それって「仕事と私、どっちが大切なの?」って、訊いてくるお馬鹿彼女のセリフと同じじゃないですか?


就活をしている学生の私には、面接は大切です。


でも、私個人としては…、断然ゆーくんです!



「ゆ、ゆーくんの…、話を…、聞きます。聞かせて下さい」

「俺、実はこの世界の人間ではない」



ゆーくんは、さらりと語り始めた。


とても簡潔で分かり易く要点だけを語ってくれた。


世界の為だけに祈りの歌を歌う娘。


そんな娘の無垢な心に触れてしまった王。


祈り姫を攫ってしまった王は、 世界から非難を浴びる。


目に見えて世界は崩壊し、人々は苦しさのあまり王と娘を引き離そうとする。


それは、王と娘の悲恋の物語。



「つまり、ゆーくんは王で、私がその祈り姫って事?」



まさか~って思ったけど、ゆーくんは私には嘘は決して付いたりしない。


駅へと向かっていたはずが、気が付けば――ホテルの一室で。



「ゆーくん、ここ…」

(めぐむ)には、全てを知って欲しい」



え?まだ、カミングアウトする事があるの?


でも、別に朝からホテルになんか来る必要は無いのでは…。


ゆーくんが、眼鏡を外す。


瞳の色が黒から紫に変わり、髪は突然長く伸びる。


何より驚いたのは、背中の翼。


翼の色は黒色だけど、まるで天使のようなふわふわした羽に視線が釘付けになる。



「これが、本当の姿だ」

「……」



言葉なんて出て来ない。例え、発する事が出来ても何を言えばいいの?



「俺が、怖い?」

「……」



私は、ただ力一杯、首を振る。


怖いなんて、そんな事!


むしろ、ゆーくんが美人さん過ぎて、ドキドキして過呼吸になりそう。



(めぐむ)、泣かないでくれ」

「私も、ひっく、泣くつもり、なんて…、ひっく、ない、のに……」



ゆーくんの本当の姿を見た瞬間から、涙が止まらない。


不思議な感覚だ。


私であって、私ではない。別の私が私の中に居る。


そんな、私が泣いている。


いくつもの感情が一度に溢れて来て、自分で自分を制御出来ない。



「…ゆーくん、ひっく、私――」

「何度、姿が変わっても、あの頃と何一つ変わっていない」

「私――ゆーくんの事…」

「記憶は、俺が封じている。思い出す必要も無い」

「でも…」



近付く紫の瞳に私が映っている。


本当に、何も思い出せない。ただ、分かるのは――。



「ありがとう」



これが私の気持ちなのか、そうではないのか。



「知っている。何度も聞いてきた。愛してる」



あぁ、私もきっと何度も聞いてきたんだろう。


痺れる感覚が身体中を駆け抜ける。


意識が遠退く。


忘れたくない!


覚えていたい!


失いたくない!



めぐむ、愛してる」

「ズルいよ…、****」



霞んでいく意識の中、私は愛しい人の名を口にしたように思う。


全ては、封じられた記憶の中。


でも、今、私は世界で一番の幸せ者だ。


ゆーくんの腕の中は、私の一番の場所だ。


ニコッと笑って瞳を閉じた。


の記憶は、ここまで。










そして、目覚めると――。


2番目に見慣れた天井にカーテンからこぼれる太陽の光。



あれ?ゆーくんの部屋だ。


いつの間に帰って来たんだろう?――って、面接!!……もう、諦めるしかないね。



起きよう。


私と違って、ゆーくんは4LDKのマンション一人暮らし。良いご身分だと思う。


ちょっぴり羨ましい。


高校卒業時に「一緒に住もう」と言われたけど、さすがにそれはダメでしょう!と思い、断り続けてきた。


まぁ、時々、泊りには、来たりしてたけど。



「メグム、起きたのか?」



起きたばかりの目には眩しすぎる赤い炎のような髪を持つ男が、優しく抱きとめて右耳にちゅっとキスしてくる。



「メグム、気分はどうですか?」



さらに、チカチカとして目を細めたくなるほどの銀の月のような髪を持つ男が、左耳にちゅーっとキスしてくる。



「されるがままになるな!めぐむ



相変わらず、不機嫌全開の表情で両サイドに立つ男どもを追いやり、目覚めのキスにしては濃厚で熱い容赦ないキスをしてくる。



「やんっ!んんーーっ!!!」



起きました!はい!今、頭の中も身体も完全に目覚めました!もう、寝惚けてません!!



「先に顔を洗って来い。ゆっくり話をしよう」



目が覚めたとは言え、ゆーくんの言葉に操られるように洗面所に向かう。


顔を洗って、髪を梳かす。


ダイニングルームに戻れば、テーブルの上に、私専用のクマのイラストがあるマグカップ。


中身は、いつものゆーくん特製ミルクティ。



「お砂糖、入れてくれた?」



私の問い掛けに、ゆーくんは「3つ」と答え、私は席に座りカップに口を付ける。


何となく、気まずい。


私の記憶が曖昧でも、私はイトコでもあるゆーくんと一線を越えてしまった。


しかも、レオンともアレクとも。


何を言われるのかと、緊張して熱いミルクティをゴクっと喉を鳴らして飲み込んでしまう。



「まず、めぐむはここに引越して貰う」

「え?」

「既に、荷物も運び終わっている」

「はぁ?」



びっくりして、間抜けな声を上げてしまう。


レオンハルトとアレクシス二人が、うんうんと頷いている。


運んだな。私の荷物を!!


いつの間に、そんな事になったんですか?


しかも、いつの間に仲良くなったんですか?


開け放たれてる奥の部屋のドアの中を覗き込むと、私のワンルームが再現されている。



「わ、私、ここの家賃なんて払えないよ!」



ワンルーム生活でも、毎月バイト料が入る三日前ぐらいから所持金が寂しくなってヒーヒー言うぐらいなんだから!



「支払いは済んでる。第一、あの部屋では三人で住むには狭過ぎだ」

「………」



さ、三人って…。


つまり、え~っと、私と、目の前に居る赤い奴と、銀色の奴と。


確かにいきなり、扶養家族が二人も増えたら、毎日アップアップなのは、想像するに容易い。



「ゆーくん、いいの?」



小さな頃から、甘えてばかりで申し訳ないなって思ってるのに。


結局、こうなっちゃうなんて。



めぐむは、ずっと俺のものだ。過去も今も未来もな」

「!」



ゆーくんの発言によって、和やかな空気は一瞬にしてバチバチと音が聞こえてきそうなほど、一触即発状態。



「メグム!こいつ、やっぱりまじヤバい!」

「メグム!今なら、全ての魔力を使えば!」



はぁ~、朝と同じ展開じゃないですか。


という訳で――。



「おすわり~」



気の抜けた声にも関わらず、ざっと私の前に正座をする二人。


最強の二人が、本気なんて出されたらシャレにならないってば!



「まったくぅ。――ごめんね、…って、ゆ、ゆーくん!?」



瞳の色が紫色になって、こっちも眉間のシワがシャレにならないぐらい不機嫌MAXだ。



「お、落ち着いて!ゆーくん!」


めぐむは、俺の妻だ」


「え?」



いやいや、ゆーくん!私たちはイトコ同士で…――し、しまった!イトコって、婚姻可能ですよね。



「メグムは、俺の女だ」


「なっ!?レオン!?」


「メグムは、僕のです」


「アレクまで、何を!?」



完全に私を無視して、三人が三人とも私を自分のものだと主張する。



ちょっと、待て。



誰が誰のだって~?私を所有物のように言うやつは、異世界仕込みの無敗の拳でフルボッコにしてやる!


と、気合いの入った所で――。



「愛してる」


「好きだ!」


「好きです」



はぁ?いきなり、何ですか?


この展開に付いていけないってーー!



「ゆーくん!冷静になろうよ」


「レオン!お、落ち着いて!」


「アレク!私の話を聞いて!」



――っ!ヤバい!


退路を確保しなければ!!



(めぐむ)は、ただ愛されていればいい」



そ、そんな事、言われても。



「ここまで来て、逃がさないからな!」



あわわっ!た、退路が~!



「例え、世界の果てでも付いて行きます」



え~っ!?嘘でしょう!?



「あのね、三人の気持ちは、それなりに嬉しいんだ…。――っ!んぅ!」










蕩けるような甘い口付けをくれるのは、ゆーくん。


レオンは私の耳を食み、甘く囁く言葉が心地いい。


首筋をくすぐる甘い刺激は、アレクがくれるもの。



「わ、私、まだ、うまく言えな、いよ。自分の、気持ち…」



ゆーくんは「何も言わなくても、(めぐむ)の事なら全て分かる」と言い。


レオンは「いずれ、言わせてやる。俺が“一番イイ”ってな」と言い。


アレクは「待ちます。いくら時が過ぎてもメグムの言葉なら」と言う。










優しい想いが溢れるの中、私は瞳を閉じる。



「こんな私で、いいの?」



もう勇者でなければ、世界の為に祈る姫でもない。


今の私はどこにでも居る就活中の学生だ。



「愚問だな」


「今さら!」


「勿論です」



三者三様の答えに、夢でも見てるんじゃないかと思う。


ううん、夢でもいい。


このまま幸せな夢が見られるなら。


今にも、瞳から小さな雫が零れ落ちそうになる。


泣かないぞ!


私は、どんな時でも強くかっこいい女の子でいたい。



「ありがとう」



素直な言葉を三人に伝える。その時、一粒の涙が睫毛を濡らした。










――甘かった!


私の考えが、甘過ぎた!!


何が三人のスイッチなのか、想像はつく筈なのに…。


レオンハルトとアレクシスとゆーくんの三人は、私を一睡もさせてくれませんでした。


そうです!そうですよ!私って学習能力無さ過ぎ!!


今夜も、しっかり泣かされました。(また、別の意味で)


いくら先日まで無敗の勇者だった私でも二日連続、朝までは――!


そして、異世界から戻って二日目。


三人が与えてくれる幸せいっぱい朝を迎える事になりました。








『召喚されて、戻ってきたら2』    END





2013/04/23 一部セリフを変更しました。

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