表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚されて、戻ってきたら  作者: 塔子
召喚されて、戻ってきたら
2/14

【後編】







ピンポーン。


玄関先からチャイムの音。


こんな夜更けに、誰?



ドアの覗き穴から相手を確認する。



「――っ!!」



そこには、五年振りに見る恋人の姿。


嬉しさのあまり、震える手で施錠を外しドアを開けた。



「圭祐!」


会いたかった!ずっと、会いたかった!


圭祐にとっては三日振りかもしれないけど、私にとっては――。



めぐむ、おまえ、最近ちょっと疲れてただろう?行き詰ったてというか、煮詰まってたというか」



うん、うん、そうなんだよ。気弱になって、心折れまくりで、どうすればいいのか少しも考えが纏まらなくて。


でも、そんなの、もうどうでもいい!


私を受け止めてくれる圭祐の腕があれば、私は十分幸せ。



「だから、ちょっと様子を見に、来た――って、何?あれ?誰?」



え?


“――って、何?あれ?誰?”って、何の事?



完全に、ゲームショーかアニメのイベントに行ってましたみたいなコスプレ状態の二人が私と圭祐を見てる。


ま、マズい!!


レオンハルトは両手に剣を構え、アレクシスは自分の背丈より長い杖を掲げ何やらぶつぶつと唱えている。



「ま、待って!待ちなさい!!」



暴走する二人をいつも止めに入るのが、私の役目でもあった。



「おすわり!!!!」



五年間という短いようで長いようで、その間にすっかり私は大きな二匹のわんこを手懐けてしまったようで。



条件反射とは、恐ろしい。


さっと、二人が私の前まで来て大人しく正座をする。



「こんな所で、バカな事するんじゃないわよーーっ!!!」



ただ、欠点が一つ。


二人の暴走を止める事が出来ても、誰も私の暴走を止める人は居ない。



めぐむ…、悪いけど…」



圭祐は、帰って行った。



「ソイツらが居れば、俺が居なくても大丈夫だろ」



と、捨てゼリフだけ残して。


一瞬にして、振られてしまった。


誤解だと、話を聞いてと追い掛けたかった。


だけど、私の五年分の話をして、果たして圭祐は信じてくれる?


否、きっと信じてはくれない。きっと、彼だけじゃなくて誰一人信じてくれる人なんて。


ただ、会いたくて。


もう一度、会いたくて。


ここまで、頑張って来たのに。


こうもあっさりと、終わってしまうなんて。


泣きたくても、涙も出ない。
















「メグム…悪かった。今更、謝っても仕方ないけど」

「メグム、僕たちが軽率でした。申し訳ありません」


いまだに、正座状態で、しょんぼりして謝罪の言葉を述べるのも、いつもの光景。


いつもの光景と言うのなら、私は「しょうがないわね」と、許してあげるのがいつもの流れ。


だけど、今の私には気力も体力も底を尽きた。



「もう、いいよ。もう――」



もう、何も考えたくない。


明日から、またリクルートスーツで武装して就職活動だ。


私の日常が始まるだけ。


だから、早く休もう。休みたい。何もかも、忘れてゆっくり休みたい。




「メグムの事が、心配だったんだ!」



え?



「メグムを一人にしたくなかったんです」



何?それ?



「いきなり、異世界に連れてかれて、魔獣を倒せ!なんて言われて、普通なら嫌がるとか拒否するとか喚き散らすとか、するだろう!」



そりゃあ、するかも…。



「なのに、メグムは泣き言一切言わず、使命を果たしてくれました。辛かったはずです。でも、いつも笑顔で僕たちの事を守ってくれた」



まぁ、この中じゃあ、私が年長者だし。



「俺たち、知っていたんだ。メグムが一人でいつも声を殺して泣いているのを」



――っ!!



「元の世界に戻ったら、メグムはまた一人で泣いてしまうのではないかと思うと」




――っ!!!!






「だから、全てを捨ててメグムの世界に来たんだ!」

「だから、全てを掛けてメグムを守りたいのです!」





「……そっか、知ってたんだ。私も、まだまだだね」






レオンハルトは、将来有望の最強剣士。


アレクシスは、未来を約束された魔術師。


だから、私が二人を守って戦って、一日でも早く魔獣を倒して二人をこの戦いの日々から解放してあげたかったんだけど。



「“お姉さん”失格だね」


「メグムは姉貴なんかじゃない。俺の惚れた女だ!」

「姉上としてなど見ていません。僕の愛しい人です」



私の両腕は、二人を抱き締める。


そう言えば、凍てつく氷の国に立ち寄った時もこんな風に三人で抱き合って温め合ったよね。



「泣いていいんだぜ。俺が居るから――」

「何が有っても傍に居ます。だから――」





年甲斐もなく、と言うのはこういう時に使う言葉なのかな?





泣きました。




思いっきり、泣きました。




五年分の涙です。




悲しい時も、楽しい時も、辛い時も、嬉しい時も、三人で乗り越えてきた五年間の記憶が私の強さに変わる。







「ありがとう」







今は、ただ、その言葉だけで伝わるよね。



















「それより」



ん?



「出来れば」



な?




「別の意味でも、メグムを泣かせたいな!」



は?



「もう、離しません。一つになりましょう」



げ?







泣きました。(別の意味で)





抵抗も空しく、反撃のチャンスも無く、逃げる隙も無く。





二人が紡ぐ五年分の甘い言葉になす術も無く。





ただ、幸せ過ぎる朝を迎えるしかなかった。










『召喚されて、戻ってきたら』    END



1話完結ものです。引き続き連載していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ