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召喚されて、戻ってきたら  作者: 塔子
召喚されて、戻ってきたら 4
12/14

【後編】






今日も急な雨に降られ、駅の改札口で雨宿りを余儀なくされる。


少し待てば止むかなって思ってみても、雨の降る勢いは増すばかり。


明日は、待ちに待った一泊二日の温泉旅行!


という事で、ちょっと旅行に備えてお買い物に出たのに、この天気。


朝は、晴れていたのに…。


アレク、来るかな?


そんな期待をしてみても、鞄の中のスマホは沈黙を守ったままだ。


傘を持って来なかった私が一番いけないんだけど。


タクシーに乗るほどの距離でもない。かと言って、駆けて行くには微妙な距離。


近くのコンビニで傘を買えば済む話だけど、きっと売り切れで一本も無い事は想像するに容易い。


また、お風呂でも入って温まればいいよね!


そう心に決めて雨の中を駆け出す。


近道にと普段通る事のない狭い路地を行く。



……あ、あれ?



走っているのに、目の前には大通りも見えているのに、辿りつかない。


周りの景色がゆっくり進む。まるで、スローモーションの動画を見てるみたい。



――な、何?これ?



気持ち悪い。何気に浮遊感。どっちが上でどっちが下か、分からなくなるほど。


ぐるんっと、ゆっくり世界が回ってる感じ。



【こっち】



え?


突然、誰かに腕を捕まれ横に引っ張られる。


一瞬、目を閉じて開けた時には、大通りの歩道脇に立っていた。


何だったんだろう?疲れてるのかな~?う~ん、白昼夢とか。



【違う、幻覚の術】



直接、頭の中に響く声に、自分の周りを確かめる。


行き交う人は、私の事なんて気にする様子も無く雨の中を足早に過ぎて行く。


振り返り視線を下に落とすと、仔犬が私を見上げている。


焦茶色の毛並み。そして、瞳の色が左右違う。



「もしかして、キミ?」

「わう」



あ、返事した。



「ウチに来る?」

「わう!」



屈んで両手を差し出せば、尻尾を千切れてしまうんじゃないかって思うほど、大きく振って、私の腕の中に飛び込んで来る。



「一緒に、お風呂でも入ろうか」

「わ…、わう?」

「勿論!綺麗に洗ってあげる」

「わう~」



懐にすっぽり入るサイズが良い感じで、ぎゅーっとしがみ付く仕草が可愛い。


何より、重さも温かさも心地良い。










早速、マンションに着けば、お風呂場に直行。


濡れてしまった服を脱いで、洗濯機に入れる。



「ふん、ふん、ふふん♪」



気分がいいと、鼻歌も自然と出てくる。



「ごしごし、ごしーっと♪」



仔犬を綺麗に洗ってあげると、毛色は焦茶色ではなく艶やかな黒色。



「磨けば何とかって、この事みたい!キミ、美人だね!!」

「わうん!」



うん、うん、いい子だ。



「ここのマンションはペット可だけど…、ゆーくんの許可を貰わないとね」



ゆっくり温まって、お風呂から上る。


ルームワンピースに袖を通していると、仔犬は足元でお座りして待っている。



「偉いわ~!ちゃんと“おすわり”して、待ってるなんて」



どこかの誰かさん達とは、違うじゃない!かなり、感動~っ!


タオルで優しく丁寧に拭いてあげると、気持ちいいのか左右違う色の目を細め「く~ん」と鳴いてくる。



「もうっ!可愛過ぎ!!ウチの子にする!名前、考えなくっちゃ!!」



何にしようか、どれにしようか、あれでもない、これでもない、と名前の候補を考えていると、何やら玄関先の方が騒がしい。


騒がしいというより、殺気立ってる感が……。


「メグム!メグム!!」と、二人が大きな声で叫んでいる。


聞こえてるってば!!――第一、ご近所迷惑!!



「レオン!!アレク!!そんなに大きな声、出さない!!“おす――”」



“おすわり”って、最後まで言えなかった。


アレクに腕を引っ張られ、背に隠すように守られる。


レオンは両手に大剣を持ち、神経を集中し対峙する。


――対峙するって、何に?



「貴様、生きていたとは許さない!」

「メグムは、下がっていて下さい!」



理解出来ない。仔犬相手にレオンハルトもアレクシスも本気で臨戦態勢に入っている。



「え?え?どういう事?レオン!アレク!うちのカールが、どうかしたの?」

「は?“カール”?」

「メグム、何を!?」



アレクに背から出て、私はカールを抱き締める。


仔犬の名前を決めました。尻尾がくりりんっとしてるので、カールです!


某スナック菓子のような形なので、カールです!!



「一体、何なの?」



訳が分からない私は、未だに攻撃の構えを解く事のない二人を見つめる。



「メグム!そいつから離れろ!!!」

「メグム!こちらへ来て下さい!!」


「だから、一体――」


「そいつは、倒したはずの!!」

「魔獣なんです!!メグム!!」



――…え?ま、魔獣!?



(めぐむ)!!」

「メグ!!」



いつの間にか、ゆーくんもエスト様もこの場に来ている。


ゆーくんは紫色の目をして背中の翼なんかも隠さず、今にも魔力が暴発しそうなほどいつもの冷静なゆーくんとは別人だ。


エスト様だって、金の髪を振り乱し、右手には細剣を左手には魔杖を持ち、柔和な微笑みは無く厳しい視線を向けてくる。



「ま、魔獣!?この子が…!!」



四人が私と魔獣を取り囲むようにして、間合いを詰めていく。


逃げ場なんて無い。


――あれ?逃げ場って、私、この場から、みんなから逃げるつもりなの?


そう思った瞬間、視界を奪うほどの眩い光が全てを包む。


私は誰かの手に腕を捕まれ、その光の根源へと導かれた――。










光の中で、私は思い出す――あの日の事を。


魔獣討伐の勇者として、異世界に召喚されて魔獣を倒したあの日の事を。


初めて見た魔獣は、とてもこの世のものとは思えないほど禍々しく、そして、美しかった。


そう、あの時もこんな風に直接、頭の中に声が聞こえてきて――。



【怪我、無い?】



優しく労わるような声に、すっと目を開ける。


見覚えの有る部屋。以前、一人で住んでいた狭いアパートだ。


家具も何も無い部屋に、青年が立っている。



「誰?」

【……カール】



少し言い難そうに恥ずかしそうに自分の名を口にする魔獣。



「人の姿も美人だね」



微笑んでそう言うと、横を向いて照れた顔が幼く見えて可愛い。



「どうして?私の前に現れたの」

【………】

「私はキミの為にと思って、みんなに嘘まで付いて…!」

【………】



魔獣は、何も答えない。


ただ、左右色の違う瞳で私を見詰めてくるだけ。


結論を言うと、こうだ。


私は、魔獣を倒した――というのは嘘で、正確には封印したという方が正しい。


片方の瞳の光を奪う事によって魔力を封じ、その場に居たレオンハルトやアレクシスを騙し、魔獣を違う世界に飛ばした。


私は、魔獣を倒さなかった。倒せなかった。


頭の中に響く声が、とても辛くて悲しくて痛いほどの叫びが私を動かした。


戦いの中、魔獣は叫び続けていた。【助けて】【早く、殺して】と。


理由なんて、どうだっていい。


助けてあげたい!


結果的に、魔獣は異世界から消えたのだから討伐成功って事でいいよね。



「私、嫌われるよね」



真実を話したら、どうなるのだろう。


レオンもアレクもエスト様も大切なものを魔獣に奪われ、復讐心が生きる糧だと言っても過言じゃない。


そんな彼らを私は騙してしまったのだ。


今頃、裏切られたと思って血眼になって私の事を探してるんだろうな。



【ごめん、――もう一度、メグムと、会いたい】

「封印を解いて欲しいの?」



カールは【違う】と言って、ぶんぶんと頭を振る。



「じゃあ、どうして?」

【封印、では、ダメ。ちゃんと、殺して】

「――っ!!!」

【時間、無い。魔獣王、復活、する】



話の展開に付いていけない。


【殺して】とか【魔獣王】とか、理解出来ない。



「ちゃんと初めから、話して!!」


「俺達にも、その話を聞かせえ貰おうか」



すぐに見つかってしまうと思っていたけど、こんなに早く見つかってしまうなんて。



「ゆーくん、みんな…」



自然とカールを守る為に、四人と距離を取る。


すると背中からきゅっと抱き締められ【もう、十分、だから】と、悲しげな声が頭の中に響く。



【――はるか、昔、空の民、居た】



たどたどしくも、しっかりとした口調で、カールは事の始まりを話し始めた。







   *   *   *







空の民は、背に翼を持ち、浮遊大陸に暮らす一族。


その一族の王には、二人の王子が居た。


一人は白い翼を持つ者。


もう一人は黒い翼を持つ者。


人々は“白き王子”“黒き王子”と呼び、どちらが王位に付いてもおかしくないほどの魔力を持っていた。


黒き王子には、愛する娘が居た。


森に住み貧しくても心優しい娘。そして、虹色に光る珍しい翼を持っていた。


その娘の存在を知った白き王子は、一目見て“虹の娘”を我が物にしようと娘を騙し連れ去ってしまった。


白き王子と黒き王子は魔力もあらゆる事においても、互角であった。


だが、白き王子は「互角なものか!自分は黒き王子より負けていない!優れている!」と――黒き王子の存在を、疎ましく感じていた。


虹の娘の事を知った黒き王子は、怒りに身を震わせた。


どんなに返して欲しいと願っても、会う事すら許してくれない。


そんな黒き王子の足元に、白き王子はあるものを投げ付けた。


透き通る、陽の光に当たるとキラキラを光り輝く虹色の片翼。


白き王子は言った、「愚かにも逃げようとしたので翼を切り取ってやった」と。




憤怒。


絶望。


憎悪。


ありとあらゆる負の感情が黒き王子を支配する。


誰かが、黒き王子に甘く囁いた。



――そなたの望み叶えてやろう。



望み?



――我を受け入れよ。そして、怒りに身を任すがよい。



誰だ?お前は。



――我は、義憤の神。



俺を、どうしたいのだ?



――報復の名の下に、全てを焼き尽くすがよい。誰一人、許してはならぬ。



黒き王子は、姿を変えた。頭を二つ持つ魔獣王の姿に――。


憤怒に支配された魔獣王は、荒れ狂う咆哮で人々を絶望させ、憎悪に満ちた禍々しい炎は浮遊大陸全域を焼き尽くしていく。


魔獣王に立ち向かう唯一の者は、白き王子。


互角の戦いを繰り返し、傷付き合いながらも、ようやく勝ったのは白き王子だった。


薄れゆく意識の中、魔獣王は白き王子の言葉を聞いた――これで、俺の方が貴様より全てにおいて優れていると証明が出来た、と。


その時、義憤の神が再び、囁いた。



――誰一人、決して許してはならぬ。どれほどの時が流れても報復の炎は消してはならぬ。



魔獣王は、全ての魔力を振り絞り、魔力を二分し、その時が来るまで眠りに付く事にした。


そして、ある異世界で二分した片方の魔獣(魔獣王の魔力)が復活を遂げた。



「――それが、キミなの?」



私の問いにカールは小さく頷いた。



【その後、娘、王子、知らない】



「――魔獣王を倒した白き王子は英雄として讃えられたが、王に事の発端を知られ処刑された」



この場に居る全員が、ゆーくんに視線を向ける。



「ゆーくん、知ってるの?」

「――娘は王に保護され、魔獣王に寄って失われて命を想い、祈りの歌を歌う。その歌声は奇跡を起こす。元の緑豊かな大陸に戻す」



ゆーくんは、どこか遠くを見つめる。それは何を想い、何を見ているのだろう?


誰もが知らなかった魔獣誕生の話に言葉が出てこない。



【オレ、見えた。メグムに、翼】

「え?」

【片翼、虹色】

「っ!?」



驚いたのは、何に?


私は足下には見覚えのある魔法陣。


また異世界召喚!?


誰が?何処へ?


じょ、冗談じゃないわよ~~!!



溺れる者は藁をも掴む。



今、まさに、私がその状態だ!


この部屋には、何も無いと分かっていても、私は手当たり次第に何かを掴もうと両腕を伸ばす。



「メグム!」

「メグム!」

(めぐむ)!!」

「メグ!!」

【メグム!】



あわわっ!!大の男、五人に圧し掛かれたら潰れるってばーーっ!!


こうなったら、五人纏めて掴んでしまえ!!って事で、取り合えず、掴んだものは何であっても放さない。


引き込まれる!


吸い込まれる!!


飲み込まれるーっ!!


二度も、同じ体験をすれば、この先の展開は予想の範囲内だ。


前回は豪快に尻餅を付いたが、今回は綺麗に着地成功!


ゆっくりと目を開けて周りを確認する。


所々、崩れた天井や壁は煤けて、焼け落ちた廃墟さながらだ。


私の記憶では、煌びやかで神々しい嫌味なほど成金趣味全開の聖堂だったのに。



「メグム殿!」

「勇者殿!!」



長衣を着た老人が二人。駆け寄ってくる。


一人は背の高いひょろりとしたおじいちゃん。


もう一人は、すっかりメタボなおじいちゃん。



「ヴィルムじいちゃん、ラートじいちゃん」



私が以前と同じ呼び名で呼んだのが本当に嬉しかったのか、涙目になって破顔する。


ひょろりとしたのがヴィルヘルム。メタボな方がコンラート。


二人とも、この異世界では最も権威有る三賢者の二人。



「わしの召喚の術は成功じゃ!まだまだ現役じゃ!」

「もう一度、メグム殿を召喚出来て良かったのう!」

「しかも、レオンもアレクも同時にとは!!」

「さらに、エーレンフェストも一緒とはのう」



二人して、うんうんと頷き合い。本当に仲の良いおじいちゃん達で。


――って、そうじゃなくて!!



「どうして?また、召喚なのよ!?」


「そ、それがじゃ、倒した魔獣の他に、もう一体、別の魔獣が現れて…。この世界は、破滅寸前なのじゃ!!」

「すまないのう。他に策が無くて、勇者殿を再び召喚する事に決まってしまってのう。だから、こうして――」



え?別の魔獣?


破滅寸前?


他に策が無くて、再び召喚?


振り返り、カールの表情を見てしまう。青褪めていて苦悶に満ちている。


召喚前に聞いたカールの話が真実であると、納得するしかない。



「仕方ないな、メグム。もう一匹の魔獣もやっつけて、さっさと帰ろうぜ!」



――レオン。さっさと帰ろうぜって、私の世界に帰るって事!?



「行きましょうか、メグム。いつまでも此処に居ては、時間の無駄ですから」



――アレク。行きましょうかって、魔獣を倒しに行くって事!?



「お前ら!俺まで巻き込みやがって。後で憶えていろよ。ただでは済まさん」



――ゆーくん。眉間の皺がっ!今まで無いほどの不機嫌さです!



「あら、私は今回もお留守番でいいかしら?――分かったわよ、行くわよ!」



――エスト様。状況を考え下さい。その発言、誰も許しません!



【メグム、魔獣王、復活、阻止、なら、オレを、殺せば、済む、だからっ!】



――カール!キミはもうウチの子です!だから、戻ったら一緒に温泉に――…。





「あれ?ゆーくん。明日行く温泉宿って、ペット可だったっけ?」



明らかに、場違いな私の質問が回りの空気を変えてしまう。


だけど、そこは重要でしょう!!すっごく楽しみにしていたんだから!!



「……ペットがダメなら、人の姿で行けばいいだろう」

「でも、人数増えたら宿泊費だって変わってくるでしょう?」

「………」



あ、呆れないで!!だって、気になるんだもん!!元々、貧乏性なんだもん!!


……あれ?でも、何で、私、今回、召喚されたのかな?


前回は、就活に自信無くして、嫌気が差して――。異世界に行きたいって思うほど、現実逃避をした結果で…。


でも、今回は全然そんな事、思いもしてないのにっ!!



「召喚って、呼ぶ側と呼ばれる側のお互いの気持ちが呼び合わないと成功しないはずじゃあ…」



おじいちゃん達、二人をちらりと見ると、その通りと言わんばかりの頷きよう。



「わしらは、勇者メグムの再召喚を願い――」

「――私は、明日の温泉旅行を楽しみにして」



私がそう言うと、老賢者二人は「ああ、そうじゃな」とか「なるほどのう」とか言って、納得し合っている。



「どういう事なの?」

「あれを見なされ、メグム殿」



崩れ落ちた壁の向こうは、鬱蒼と茂る深い森――があったはず、なのに、何?あれ?



「先日、魔獣があの場所に巨大な隕石を落としてのう」

「地中から地下水が吹き上げて、それが妙に温かく…」



も、もしかして、それを温泉と人は言うんじゃ…。


外を見れば、微かな硫黄臭と、池なんてレベルではなく、湖でしょう!って、言いたくなるほどの規模の広く大きな自然に出来た温泉が見える。


あわわ!異世界召喚条件、成立してるじゃないっ!!


広~い広~い露天風呂!?、いや、違う!


こんなの、絶対、間違ってるーー!



「私が行きたかったのは、静かで風情ある隠れ家的で料理も美味しい温泉宿なのーーー!!!」



私の声は、虚しくも異世界に響き渡った――。








『召喚されて、戻ってきたら4』 END


このお話は、これにて完結です。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


あと、近日中におまけのお話を更新する予定です。



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