【前編】
私は、空を恨めしげに見上げる。
今日の天気予報の降水確率は、0%だって言ってたのに。
何?これ!!ゲリラ豪雨じゃない!!
駅を出た時は、まだ晴れていたのにーーっ!!ふざけるなーーっ!!
今朝、観たテレビの中の気象予報士の笑顔を思い出し「絶対、許さん!!」と、心の中で叫ぶ。
とにかく、目に付いた軒下に身を置く。
それでも、荒れ狂う雨と風に全身を濡らしていく。ここに居ても全く意味がない。
~♪~♪
こんな時に限って、誰から電話なの!
「もしもしっ!」
『メグム!そこを動かないで下さい!』
「えっ!?」
『迎えに行きますから、待っていて下さい』
「は!?この雨の中、迎えにって、アレクまで濡れ――」
『いいですから、待っていて下さい』
一方的に電話は、切られた。
相手は、アレクシス。
五年前までは、異世界では稀代の魔術師と呼ばれるほどの実力の持ち主。
行く末は、大賢者になるはずだった男だ。
待っていて下さいって、私がどこに居るのか、知ってるの?
ぼんやりと見つめた雨風の先に、すっと腕が伸び、その腕の中に身を引き寄せられる。
「あわわ、アレク!?」
「メグム、待たせましたね」
一瞬、エスト様かと思った。
だって、何も無い空間から、突然、現れるから。
「アレクっ!?いつの間に転移の術を?」
「使えないという訳では。不得意なだけで…」
「そ、そうなの」
「メグムが僕の魔石を常に身に付いていてくれるから、いつでも傍に跳ぶ事が出来るようになりました」
「――っ!!?」
ま、魔石!!凄いっ!!
――って、そこじゃない!!これって、所謂、GPSと同じじゃないっ!!
“居場所もルートもよく分かる”って、昔、CMで聞いた事あるっ!!
私って、そんなに心配させるほど、ふらふら…――してないって、言えない。
ゆーくんに言わせると、元の時間に戻って来たとは言え、五年も異世界へ行ってたもんね。
少し異世界での事を思い出しては、懐かしいな~なんて思ってみる。
まだ、戻って来て数ヶ月しか経たないのに…。
「メグム!!」
「あわわっ」
アレクが、いきなり強く抱き締めてくるから「どうしたの?」と、顔を上げて問うと「メグムが、今にも消えてしまいそうで…」と、眉根を寄せて困った顔をしてくる。
だーかーらー!!
もう、二度と、訳分からない所には行きませんっ!!
行け!って、言われても全力でお断りしますっ!!
異世界召喚とか、魔獣を倒してね♪とか、絶対、イヤだーーっ!!
「アレク、大丈夫。私だって、もう異世界召喚はごめんだよ!!」
転移の術で着いた先は、マンションの洗面所。
「おかえり!メグム!!」
「レオン、た、ただい――っ!!」
挨拶もそこそこで、レオンの手は私の服を脱がしに掛かる。
私を抱き締めていたアレクの手もレオンと同じ動きをする。
「ま、待って!コラ!勝手に脱がすなー!」
「濡れたままでは、風邪をひきますからね」
「お湯張り済みだ!俺が準備したからな!」
……はぁ。
どうして、毎回、こうなるの?
止めてと拒否しても、抵抗しても、2対1では勝算が無い?
「おすわり!」と、連呼すればいいの?
……はぁ。
お風呂、温かくて気持ちいい。冷え切った身体が、ポカポカしていくのが分かる。
「――って!結局、一緒に入ってんじゃないわよーーっ!!」
湯船に浸かり、つい、まったりしそうになった所で、拳を作り叫ぶ。
「僕だって、温まりたいです。雨に濡れてしまったんで」
「そ、それは、アレクが濡れた私に抱き付いたからでしょう!!」
それに、何っ!その、しっとりと艶のある表情はっ!!
銀色の髪が濡れて、無駄に色気を出すなーーっ!!
「別に、いいだろう。三人でも余裕の広さなんだしさ」
「レオンは濡れてないのに 一緒に入る必要は無いでしょう!!」
「俺が掃除してるんだから、一番風呂は俺のものだ!」
「…まぁ、確かに」
思わず、納得してしまった。
相手は、レオンハルト。
五年前までは、異世界では最強の剣士と呼ばれるほどの実力の持ち主。
行く末は、大将軍になるはずだった男だ。
レオン!いつも綺麗に掃除してくれて、ありがとう。
……いやいや、そうじゃなくて!
何っ!その、鍛え切った身体はーーっ!!
いつ、鍛錬してるのよ!!大胸筋!腹直筋!!大臀筋!!!――あわわっ!!!
それより、異世界に居た五年間では、私は“しっかりとしたお姉さん”という立ち位置を守ってきたのに。
今では、お世話されまくりの、面倒掛けまくりのダメな元勇者だ。
……はぁ。
正真正銘、本当の溜め息を付く。
「何だ?溜め息なんか付いて」
「何か悩み事ですか?メグム」
三人で、お風呂。
異世界に居た時は“裸のお付き合い”なんて、絶対許さなかったのに。
……家族になった訳だから、いいのかな~?
「三人で昼間から、風呂とは良い身分だな」
湯煙の向こうに、不機嫌な表情であろう、ゆーくんが立っている。
「おかえり、ゆーくん」
「よぉ、ユーリ、おかえり」
「おかえりなさい、ユーリ」
湯気で曇った眼鏡を外し、服を脱ぎ始めるゆーくん。
「俺も入る」
四人で、お風呂。
広いとは言え、さすがに四人は狭い。
「温泉とか、行きたいよね~」
広ーい露天風呂を想像して、この呟きがポロリと口元からこぼれる。
この時、まさか、本当に広ーい広ーい露天風呂に入れるなんて想像もしなかった――。




