第四話 ナイン城2
コンコン
ドアをノックする音が聞こえて目覚めた。
「ヒート、入るぞ。」
ジトラの声がドアの奥から聞こえ、中に入ってくる音が肌寒い空気に乾いて響く。
俺たち兵は、毎朝早起きで、五時頃起きて朝礼をし、少し稽古したり、城を見回ったりしている。
だが、鉄格子からのぞく小さな窓の世界はまだ朝焼けも出ていない。
早すぎる。なんの用だろう。
意識がまだ眠くて起きてないが、ベットからゆるゆると体を起こしてベットから床に足をおろして座った。
頭をぽりぽり掻いてあくびを一つ。
ジトラは積み重ねられた石の壁につくように置かれた机とセットでできた古い椅子に静かに腰を掛けた。
机の横には、銀のカッチュウと真っすぐにのびた剣が置かれている。六畳ばかりの狭い部屋。地下一階にある。
俺がここに志願した時からずっとここを部屋として使っている。
物はあまりない殺風景な部屋だ。
「昨晩の話だが。」
ジトラが足を組ながら話はじめた。
そうだ、昨日不思議な少女を城へ運んでもらったんだ。
「昨晩は突然ごめん。たすかったよ。・・・ん?、ジトラ、そういえばなぜあそこにいたんだ?」
「弟分の帰りが遅いんでな、何しでかしてくるのか、待ってたんだ。」
ゆっくりと無表情ながらに少し温かみが感じられる声。
ジトラ、俺の事待っててくれてたのか。
普段氷のように冷たい印象で、他の兵からは恐がられているが、実はとても根は優しい。
俺もそれに気付くのにだいぶかかった。今では弟のようにかわいがってくれてる。
冷徹な黒い瞳をして、みるものを凍らせ、敵をさばく姿。そのケモノのような、しかし華麗で繊細な剣さばきと容姿に、まわりの兵は戦場の黒き虎として、讃えられている。陰ながら慕っているものも多い。
「いつもごめん、ジトラ。ありがとう。」 「いや、礼はいい。いつもの事だ。」
一息ついてからじっと俺を見つめる。嘘をつく事を許してくれないような目が見つめてくる。
「昨晩の女は、だれだ?」
やはり、そこか。
まだ王子にも詳しい事はふせて、町を巡回中に川で溺れてたのを助けたことにしていた。
泉に行くことは禁止されている。前にショウ王子を一度つれて行ったことがあるが、そのあと、今は亡き王に
「そこは聖域ぞ。王子であっても入ることは禁ず。偉大な神がそこにおる。怒らせてはならぬ。」
と、お叱りをうけた。
今、昨日そこに行って助けたなどと言ったら、サガラにもばれて、なんと叱られるかわかったもんじゃない。