第三話 ジトラ
もう日も暮れ、夜を司る星達が空を彩っていた。
城の中へと続く階段の上段に腰を降ろし、闇を見つめる一人の男がいた。
闇が似合う、ケモノのようなにらむと動けなくなるような鋭い眼光。濃い漆黒の髪。さわさわと風がなでていく。立つと身長は185センチ程ある。すらりとした長い足。
黒いマントがよく似合う。隊をマントで色分けしている。黒は一番隊。そしてその隊長がこの男である。それと同時にすべての隊をまとめる総隊長の役についている。細腕に綺麗な筋肉の筋がみえる。かた膝に腕を乗せ、唇をなぞって、イライラと闇を見つめていた。
「・・・遅い。」
一言つぶやく。
あいつは一体何をしてるんだ。もう戻ってもおかしくない時間をとうにすぎている。敵か?何かあったのか?それともいつもどおりどっかで昼寝して寝すぎてんのか。
ったく。あいつは。捜しにいくか。最近ここにもスパイがいるらしい噂もある。事が大きくなって王子に心配をかける前に。
出かけた芽は狩る━━。
と、考えていると、闇の中から馬のヒズメの音が響いてきた。
鋭い目を細め、あわてもせず、音のする方を見つめる。
あいつか?・・・この音はトーリス。なぜこんなにゆっくりなんだ?
音は近づいてくる。暗やみを抜け、見えてきた。
「ヒート。」
闇にたたずんでいた男がヒートの姿が確認できると立ち上がり、階段をゆっくり降りはじめる。
「何時だと思ってるんだ。王子の警護はどうした。・・・?後ろに何を乗せている?」
男は後ろに何かのっているのに気付いた。
「ジトラ!」
ジトラの姿に気付き、安心したようにヒートが叫ぶ。
「・・・よかった。ジトラ、早くこの人を部屋へ。お願いします!」
まだ目をさまさない少女を心配そうに一度見てジトラに言った。
ジトラの前にトーリスがとまる。
「どうした?ずぶ濡れじゃないか。何かあったのか?」
「理由はあとで話します。まず部屋へ。俺は医療班を呼んできます。すいません、お願いします。」
「了解した。」
ヒートの必死さに、事態を飲み込み、ジトラは少女を馬から降ろすように抱き上げ、そのまま城へと歩きだした。
「トーリス、納屋へ戻れ。ありがとな。」
そう言いながら、ヒートもトーリスを降りて後を追って城へ入った。
バタン
入り口が閉まると、
「じゃあ俺は連れてきます!」
ヒートは走りだした。
ジトラも少女を抱えて部屋に歩きだした。
冷たい。呼吸はあるから大丈夫だ。
・・・にしても、こいつは誰なんだ?
金色の長いゆるく波打つ髪。濡れて光っていた。ジトラの足音にあわせて揺れる。