第八話 ガゼトリア国
濃い蒸気が、黒い地面の裂け目からもうもうと湧いている。ゆっくりと空気に充満していく。すべてを極熱で飲み込むように。
火山が噴火し、マグマが固まって出来た気味の悪い黒い地面はまた赤く流れ出る時を待っている。
流動の後を地面のみならず海へむかい、潜り込み、国を包むかのごとく残している。
その遥か先に、霧から頭をのぞかせ不気味に黒い城が高くそびえている。
大地は空にあがった灰の雲から漏れだす光を浴び、薄暗く浮かび上がっている。かつて、この黒い大地にはガゼトリア国最大の都市があった。明るい光に照らされ、活気のあるその都市の名はアラゲム。
ドゥエル国側にある海岸の都市で、貿易が盛んであった。今は人が住むことさえ許さない。
そう、アラゲムの横に気高く不気味にそびえ立つ、最高峰の活火山ザグラが許さない。
━━━━ガゼトリア城内
ザグラ山は今まで休止火山で、ここ500年以上噴火したことがなかった。この都市で立っているのはガゼトリア城だけになってしまった。
国の情勢は極めて最悪の事態だ。復活の目処もない。まだ民を国を食らうつもりか。
城の最上階、ガセトリアの王ウルの部屋がある。
壁は白く、窓にかかるカーテン、床に敷かれた絨毯は赤地、細かい刺繍と淵は金で統一され、王の部屋にふさわしい高貴な空間にできている。
広い室内を見渡すように、大きい絵画の前にある、背もたれが長い赤い椅子に座るのがウル王である。
金色の肘掛に肘をつき、頬を手で支えている。
国の情勢を思案し、疲れ切った顔をしている。
白い顔に憂いを含んだ大きな赤茶色の目、長く高い鼻、ふっくらした唇がくっきりと浮かび高貴な美しさがうかがえる。繊細そうだがまわりを寄せ付けないような気高い雰囲気がある。
まだ若い28才の王である。国土の1/5がマグマに埋まり、五万以上の民が飲まれた。城の反対側にある市の数々は貧困に蝕まればまれ始めた。
思案していると、ドアをたたく音が響いた。
「入れ。」
「失礼いたします。ウル王、現状を報告させていただきます。」
総隊長のカイリが入ってきて、深く敬礼をした。
「申せ。」
「はっ。現状は悪化の糸をたどっております。灰の雨がまわりの残された都市に降り注ぎ、作物も育たず、みな空腹に苦しんでいます。」
「それだけじゃない。狂気が心を侵食している。」
いつのまにか、部屋の片隅に座っていたレイトがぼそっと言って立ち上がった。
いつも突然あらわれ、霧のように消えていく。レイトはこの国一番のスパイである。そして、遠くからも的を外さない、銃の腕前をもっている。
ここにいて当たり前のごとく、どこから表れたか聞くものはいない。
「ウル、おまえの心にも狂気がまとわりついている。俺はどうであれかまわない。ウルに従うまでだ。」
レイトは俺に従順なまでに従順だが、感情はないらしい。
殺しも、罠にはめることもなんとも思っていない。
いつも何を考えているかわからない。
雇ってくれと五年前突然現われた。過去は一度も話そうとしなかった。いや、聞けない。
淀んだ藍色の目が、何も聞かせない。
白髪が無造作に跳ねた髪を上下に揺らしながら、目を俺に向けながらゆっくり歩いてくる。
「ふん・・・、俺の中の狂気か。確かに、鬼になるしかあるまい。この状況を打破するために。
ちょうどいい、レイト、おまえに用があった。」
レイトはカイトの前に立ち、俺と対峙すると歩みをやめた。
「言え。ウル。俺は生まれ出でた時から狂気だ。」