第七話 アスリアバージウス
「私は・・・」
本当の事は言えない。
私は人間じゃないなんて言えない。
他言できない事。
嘘はつけない。それは、私が許せない。一体、どうしたら・・・。
しばらく、沈黙がつづき、空気がピンと張り詰め、突き刺さってくる。
私は一点、黒い瞳を何を語ればよいか、見る事しかできず、みな言葉を探っていた。
私の神話を知る者もいる。へたに話す事はできない。
「話せないのか?ならば、帰す事はできない。話すまで、ここにいてもらうしかない。外に出る事もゆるされない。」
ピンと張り詰めた空気が重みを帯び、冷たく辺りを包んでいく。
何も言えず、私はベットの布団をつかんで、うつむく。
「わかるけど、それはないだろ?ジトラ、この子は悪くない。もとはと言えば俺のせいで・・・。」
「うるさい。今そんなことは言ってられない。俺にもわかってる。だが、油断できない。事がなってからでは遅い。」
「・・・でも」
「わかってるだろ?今の世界を。まだガゼトリアとデュエルが睨み合いをしているが、ナインにいつ手が放たれるかわからない。・・・そして、ヒート。お前の話を聞いて、俺は一つ、思い当たることがある。」
ジトラはリーアに向けた視線をそらす事無く話を続ける。
「・・・?なにが思い当たるんだ?」
「ナインには、知られていないどこの国もがみな欲しがるものがある。」
「水か?宝石?」
「違う。知られていないものだ。ナインでも、今は亡き王とサガラぐらいの限られた者しかしらん。俺は、伝承師のばぁさんに幼い頃一度聞いた事があった。もしかしたらガセトリアなどの軍事国のお偉いさんには知られているかもしれない。奪いに来たときは、かならず守れと教えられた。」
ヒートは、口に手をあて、しばらく考えるが、おもいつかないみたいだった。
ギクリと、体が震えた。
知られている。そして、目の前にいる事も。
信じる、人を、できるだろうか。私は、人を・・・、唯一怖れてしまったから。
「その誰もが欲しがるものの名を、アスリアバージウスとゆう。」
「ん?それって、この泉の創造主として神話に出てくる女神の名だろ?実在にいるのか?それがどうしたんだ?いい女神なのに、何で・・・?」
ヒートはわけがわからない感じでジトラに尋ねた。
「俺もばぁさんに聞くまではそう、思っていた。お前はアスリアバージウスだろ?水色がかったシルバーの髪をしてるとばぁさんも言っていた。出会ったとき、ヒートは水色の髪の色を見ている。」
リーアとジトラの間に緊張の糸がはっていく。一瞬の沈黙を、リーアがやぶった。
「あなた達は、それを聞いたら、どうしますか?」
リーアは否定するでもなく、ジトラの黒き瞳を見つめ、逆に問いかけてきた。
ヒートは、その瞳に希望と絶望の二つが交じっているようにみえた。