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『「飾りの妻でいろ」と突き放された没落令嬢、最強の死神公爵に弟子入りする  作者: 烏丸ぽっぽ


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12/15

第12話:軍馬での二人乗り。なるほど、前方からの奇襲に対する訓練ですね!


数日続いた吹雪(ふぶき)が止み、青空が顔を出した昼下がり。

私はヴァルター様に連れられ、城の裏手にある広大な馬場(ばば)へとやってきていた。


「前線で魔獣(まじゅう)の群れを追うには、機動力(きどうりょく)必要不可欠(ひつようふかけつ)だ。今日は馬術(ばじゅつ)を教える」


そう言って彼が引いてきたのは、見上げるほど巨大な漆黒(しっこく)軍馬(ぐんば)だった。


「あ、あの……師匠。私、実家の庭で小さなポニーにしか乗ったことがないのですが」


「心配するな。こいつは賢い。俺の言うことなら何でも聞く」


ヴァルター様は私に向かって(あご)をしゃくった。


「乗れ」


「は、はいっ」


短い足で必死に(あぶみ)へ背伸びをしていると、ふっと身体が(ちゅう)に浮いた。


「ひゃっ!?」


背後からヴァルター様に腰を掴まれ、そのまま軽々と(くら)の上へ乗せられる。


「ありがとうございます」とお礼を言おうとした次の瞬間、彼がひらりと身を(ひるがえ)し、私の『真後ろ』にまたがった。


「えっ!? し、師匠?」


手綱(たづな)を握れ。俺が上から重ねて持ってやる」


背後から伸びてきたがっしりとした両腕に、完全に閉じ込められる体勢(たいせい)になる。

背中には硬い胸板(むないた)密着(みっちゃく)し、彼の手が私の小さな手をすっぽりと覆い隠した。


「まずはゆっくり歩かせる。姿勢を崩すなよ」


耳元で囁かれる低い声。

馬が歩き出すたびに、彼の体温と鼓動(こどう)がダイレクトに伝わってくる。


ドクンッ!!!! ドクンッ!!!!


私の心臓が、本日も元気に警鐘(けいしょう)を鳴らし始めた。


(ち、近いです! 師匠! 背中がぴったりくっついてます……っ!)


いや、落ち着けルナリア。

初心者が落馬(らくば)しないよう、熟練者(じゅくれんしゃ)同乗(どうじょう)して教えるのは理にかなっている。手綱の引き方を安全に学べる、非常に効率的で正しい指導法だ。


……だが、少し考えてみてほしい。

私は今、軍の『最高司令官(さいこうしれいかん)』である死神公爵の、さらに【前方】に座らされているのだ。


(……はっ! そうか! 理解したわ!)


戦場において、指揮官を背後にして前に立つ者の役割は一つしかない。


(これは『前方からの奇襲(きしゅう)(矢や魔法)に対し、瞬時に盾となって主君を守る前衛(ヴァンガード)』の訓練なんだわ!)


いつどこから飛んでくるか分からない攻撃。それを指揮官よりも先に察知(さっち)し、身を(てい)して(かば)う。

その極限(きょくげん)の緊張感を養うために、師匠はあえて私を前に座らせているのだ!


ここで「密着(みっちゃく)して恥ずかしい」などと気を抜いていれば、私たちは二人まとめて敵の凶弾(きょうだん)に貫かれてしまう!


「……っ、任せてください!」


「……ん?」


私は前をしっかりと見据えたまま、力強く宣言した。


「前から矢が飛んできたら……私が絶対に盾となって、師匠をお守りしますから!」


私がギラギラとした瞳で周囲を警戒し始めると。

今までならここで失笑(しっしょう)していたはずのヴァルター様が、ふっと息を()む気配がした。


数秒の沈黙の後。


「……(あき)れた奴だ。自分の命をなんだと思っている」


耳元に落ちた声は、いつもの笑いを含んでいなかった。

代わりに、不機嫌そうな、ひどく低い声。


ギュッ。


「ひゃうっ」


彼の手綱(たづな)を握る手に力が込められ、私の背中が、さらに深く彼の胸板(むないた)に押し付けられた。


「俺が、妻を盾にするような男に見えるか?」


「え? いや、これは訓練で――」


「前から矢が来ようが魔獣(まじゅう)が来ようが、お前に届く前に俺がすべて叩き斬る。お前はただ、俺の腕の中で前だけを見ていればいい」


それは、死神の覇気(はき)とは違う、底知れない熱を持った言葉だった。


ヒュンッ!


その言葉と同時に、彼が手綱を弾き、馬が一気に駆け出した。


「きゃあっ!?」


突然の加速。

私はバランスを崩し、完全に彼にもたれかかる形になってしまう。

だが、彼は私を抱え込むようにしっかりと支え、全くブレることなく風を切って進んでいく。


(な、なに!? 今の言葉、なに!?)


訓練じゃないの?

ただの過保護? それとも、最強の公爵としての矜持(きょうじ)


ドドドドドッという馬の(ひづめ)の音に混じって、自分の心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いている。


(どうして……こんなに、胸がドキドキして、頭が真っ白に……っ)


風の冷たさも感じないほど、背中から伝わる熱が熱かった。


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