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勇者パーティを追放された俺のスキルは一度きりのリトライ~勇者が敗れた敵を何度も死んで攻略したら、今さら戻ってこいと言われても遅い~

作者: ÷90
掲載日:2026/03/13

以前書き溜めていた作品です。

誤字脱字等ありましたらご指摘下さい。


 魔王軍最強の剣士、黒騎士ヴァルトの剣が胸を貫いた瞬間、痛みよりも先に理解があった。ああ、またここで死ぬのか、と。肺の奥の空気が押し出され、血が喉に込み上げる。視界が揺れ、夕焼けに染まる港町リヴァルの屋根が傾いて見えた。膝が石畳に落ち、指先から剣が滑り落ちる。


「六度目か」


 思わず笑ってしまうほどの無茶苦茶な強さだ。俺は意識が沈む寸前、思考を一点に集中させる。


《リトライ》


世界がひび割れ、色が反転し、時間が巻き戻る。


 瞬きをした瞬間、俺は数十秒前に立っていた。まだ胸は裂けていない。まだ血は流れていない。だが胸の奥には死の感触がはっきりと残っている。


《失敗を一度だけやり直せる》これが俺の固有スキルだ。


 一日に一回、自分の選択をなかったことにできる力。ただし戻れるのは直近の分岐のみ。数時間前や昨日には戻れないし、死に戻りが条件だ。


 だから俺は、あの日の追放をやり直す事は出来なかった。



◇◇◇


 勇者ルークから告げられた言葉は、予期せぬことではなかった。作戦室には魔王軍遠征の地図が広げられ、勝利の余韻がまだ残っている。


「アルス、お前とはここまでだ」


 それは俺、剣士アルス・グランディアに告げられた勇者からの別れの言葉だった。


「唐突だなルーク、理由を教えてくれよ」


「慎重すぎるんだよお前は。いつも撤退を提案する、俺たちは前に進む勇者のパーティだ」


 剣聖ガレスが鼻で笑う。

「命を賭けられねぇやつは足手まといだ。それにお前を仲間にしたのは、一角獣討伐の時にたまたまマグレでお前に助けられただけだからな。それにな、剣士は2人もいらねえんだよ!」


 何言ってんだか。魔王によって規格外の強さを得ていたとは知らずに討伐に行って、アンタらは1度全滅しかけたんだよ、とは言えなかった。


 俺は黙って聞いていた。今回の魔王軍幹部戦でもやられていたじゃないか。ルークの号令で突撃したが、陽動とは知らず背後から奇襲を受け全滅した。直前に《リトライ》を使ったから今生きてるんだろ。その後撤退を進言したのが慎重だって?


だがそれは俺しか知らない。


「……分かった」


 背後で聖女エリナの小さな声がした。

「アルス、ごめんなさい」


 キミのせいではないよと、言い掛けた言葉は喉から出ることはなかった。


 言えば良かったのだろうか、このスキルを。だが俺にしか認識出来ないスキル、それを言ってしまえばあらぬ噂や疑いを掛けられるのが怖かった。


 その後、パーティを離れた俺は王都を出て港町リヴァルに住むことにした。そこは王都とは違い、穏やかで潮の匂いに満ちていた。朝は船場の鐘で目が覚め、夜は酒場の笑い声が響く。英雄の噂よりも今日の漁の話しの方が弾む町だ。


 俺はこの町のギルドで冒険者として登録し直し、地味な依頼を受けてまったり暮らしていた。護衛、荷運び、薬草採取。勇者パーティの時とは全く違う穏やかな時の流れに癒されていた。


 今日もいつもの酒樽の運搬。酒場で働くリーナは、そんな俺をじっと見ていた。


「アルスって、なんでそんなに慎重なの?」

酒樽の扱いが丁寧過ぎたからか?

だって酒は皆んなを楽しませる大事な物だろ。


「性分だ」


「でもその方が冒険者としても死ななそうだよね」

リーナはクスリと笑う。

ほぼ毎日会うリーナとは、いつしか言いたい事を言い合えるような仲になっていた。


 時折り勘違いしそうな言動があるリーナだが、それはきっと俺の勘違いだろう、6歳も離れてるしな。彼女はこの酒場の看板娘で、黄金色の長い髪が良く似合う誰が見ても美人だと思う18歳の少女だ。いや大人か、少女扱いしたら怒られたっけ。


 俺は苦笑いする。

「そうかもな」


 死なないわけではない、死んでもやり直しているだけだ。




 その日の夜のこと、勇者パーティ壊滅の噂は酒場にも届いた。


「黒騎士ヴァルトに壊滅させられたらしい」


 勇者パーティを1人で? 相変わらずデタラメな強さだな。


 しかしそれは他人事ではなかった。


 数日後、王国軍の偵察隊がやってきた。


「ヴァ、ヴァルトが、もうすぐこの町に来るぞ!」


 あまりにも急な知らせに町は混乱した。逃げる時間もままならない。船で逃げるにも全員は乗れない。


「お前はどうする、アルス」


 ギルドマスターが俺に話し掛けてきた。この港町の周りには大したモンスターはいない、ここは比較的安全な町だ。だからこのギルドにはランクの高い冒険者はいない、あんな化け物から守ってくれる存在などいないのだ。


 ギルドマスターにだけは俺の素性を話していた、だからこその問いだろう。


「残って闘ってみるさ」


「ヤツは勇者パーティを壊滅させたんだぞ、元パーティメンバーのお前ならそれがどういう事かわかるだろう、勝算はあるのか?」


「分からない。でも時間は稼ごう、皆んなが逃げ切るまでの」


 そう、これでも俺は元勇者パーティの一員だったのだから。



 そして間も無くヤツは現れた。

ここから始まるのか、孤独で長い闘いが。


「また、お前か。不思議なものだ、また相見える気がしていた。今日こそ貴様を葬ろう、謎のスキルを持つ者よ」


 やはりヤツは気づいていたか、ならば。


「俺は勇者パーティを離れた、だから今回は逃げん。ケリが着くまで闘おう。ただし闘うのは俺とだけ、1日1度キリだ!」


 こんな条件誰が飲むかと思うだろうが、俺には考えがあった。ヤツは殺して相手のスキルを奪う能力を持っている、だからこそ致命傷を負っても死なない俺に興味があるはずだ。それがスキルだと勘付いているからな。


「フフ、まあいいだろう、せいぜい楽しませてくれよ」


 よし! 首の皮一枚で繋がった。これで町の人を逃がすことが出来る、俺が勝てなかったとしても。出来るだけ時間を稼ぐんだ。



 一日目、不意を突き背後から襲い掛かかるも瞬時に対応され胸を貫かれた。


 二日目、距離を取り罠を使うが衝撃波で絶命。


 三日目、右肩が下がる癖を見抜く。


 四日目、鎧の継ぎ目に魔力が集中する瞬間を確認する。


 五日目、戦場の端で瓦礫が崩れ、リーナが巻き込まれた。


「リーナ、お前なんで逃げなかったんだよ!」


「ばか……アンタを置いて逃げるわけないじゃない」

その言葉を残しリーナは力尽きた。


「ウソだろ……リーナ……」

     

 間に合え! 俺はヴァルトへ形振り構わず突撃した。

ワザと斬られる為に。

こんなに願ったことはない。



       《リトライ!!》



 時間が戻る。瓦礫が崩れる直前に。


「伏せろ!」


 俺はリーナを突き飛ばし、自分が瓦礫を受ける。骨が軋むが彼女は無事だった。


「アルス! なんで私が居るとわかったの!? ごめんなさい、私のせいで」

リーナは申し訳なさそうに泣きながら俺の手を握った。


「勘がいいんだよ、俺は」


守れた。だがまだヤツには勝てない。



六日目、ヴァルトの癖を見抜き刃を届かせるが浅い。反撃で胸を貫かれ死ぬ。


結局、毎日殺された。だが少しずつ何かを掴みかけていた。


七日目、援軍が出たとの報せ、今日を耐えればいい。だが今日は既に《リトライ》を使ってしまっていた。昨日掴んだヤツの癖が何故かなくなっていたからだ。


ヴァルトが不敵に笑う。

「学習しているな、お前もしかして時を戻しているのか?」


「さあ、何の事かな」

気付かれたか、このスキルに。

これ以上長引くとマズい、援軍が来るまで間に合わない。



 でも俺は諦めたくはなかった。守りたい! この町が好きだ、気さくで温かい人達。そしてリーナを2度と死なせるもんか!



 斬撃が振り下ろされる瞬間、七度の死で掴んだ軌道をなぞる。


 勝てないのは技術だけじゃない、何かが足りない。

いや、ホントは知っている死に戻りで欠落したものを。


「死んでたまるか!! 俺が絶対守るんだ!!」


 その決意が踏み込みを強くする。そしてその力は振るう剣にも力を与えた。


その剣は黒騎士ヴァルトの命に届く。


ヴァルトは膝から崩れ落ちた。


「やるじゃないか。最後の一振りは別人だったぜ」


 黒騎士ヴァルトは膝をついたがまだ息がある。ヤツはニヤリと笑った。

何だアレは? ヴァルトの鎧の内部で渦巻く魔力が膨れ上がっていた。


「だがな、これで終わったと思うな!!」


 割れた兜の奥から、紫黒の光があふれ出す。地面がひび割れ、倒壊しかけた倉庫の壁がさらに崩れ落ちた。俺は咄嗟に後退し、リーナへ向かって叫んだ。


「港へ走れ! 船を出すんだ!」


「いやよ! アルスも逃げて!」


「必ず帰るから! お前の所に! だからお前は無事でいてくれ、じゃないと俺の帰る場所がないだろ?」


「アルス……約束だよ! 待ってるから!」


 リーナは唇を噛み締め、走り去った。その背を確認し、俺は再びヴァルトへ向き直る。鎧の胸部から伸びる黒い魔力の筋が、まるで血管のように全身へ広がっていく。


 これは魔力の暴走、これほどの魔力が爆ぜたら町が吹き飛ぶ。だが《リトライ》は今日すでに使っている、やり直しはできない。


「どうした、もう戻れぬぞ。俺との闘いの条件……そういうことだったか。1日1度の死に戻り、それがお前のスキルだな」


 ヴァルトの嘲笑に、鼓動が昂る。戻れない戦いは初めてだ。だが不思議と恐怖はない。これまでの幾度の死が、その感覚を鈍らせているのかもしれない。


「戻れなくても、勝てないとは限らない」


俺は力一杯踏み出した。


 ヴァルトの剣が横薙ぎに振るわれ、空気が裂ける。チッ、さっきのは致命傷だろが、最後の悪足掻きにしてはタチが悪過ぎだろ!


 衝撃波が石畳を抉り、破片が舞い上がる。俺は瓦礫の陰へ滑り込み、呼吸を整える。ヤツの魔力は胸に集中している、それが核となりいずれ爆ぜる。



「貴様、なぜ抗う」


ヴァルトの声が低く響く。

「勇者に捨てられた男が、なぜ町のために剣を取る」


その問いに、わずかな笑みがこぼれた。


「捨てられたからさ」


 俺は瓦礫を蹴り、正面から踏み込む。剣と剣が激突し、火花が散る。腕が痺れるが退かない。七度の死で知った。リーナを失う怖さが教えてくれた。恐怖よりも死に戻りに慣れてしまったことが1番の敵だということに。


「俺は選ばれなかった。でもだからこそ、生き方は自分で選べるんだ」


 力を込め、刃を押し込む。ヴァルトの兜が軋み、わずかに視界が開ける。その瞬間、俺は柄頭でヤツの顎を打ち上げ、体勢を崩させる。


隙が出来た。


鎧の中央、脊椎に沿って光りの筋が見える。


「これか!」




〔なんで一撃で倒せるんだよ?〕


〔それは俺が剣聖だからだ〕


〔教えてあげればいじゃないかガレス。どうせ出来っこないって〕


〔はあ、簡単に言うなルーク。血の滲む様な努力の賜物だぞ、この奥義はな。まあ簡単に言えばな、魔力を断つ光りの筋が見えるんだよ。言っとくけどな努力の結晶だからな、誰でも出来るもんじゃねえんだよ〕




 ガレス、アンタの努力量は知らない、だが剣の努力だったら負けはしない、だって俺のスキルは死に戻りだけだからだ。だから俺には剣の道しかなかった、だから努力だけはアンタにだって負けてはいない!


 俺はその光りの筋をなぞる様に渾身の斬撃を放った。


 ヴァルトの鎧が裂け、魔力の核は消えゆく炎の様にゆっくりと消えていった。そしてヴァルトの巨体が膝から崩れ落ちる、今度こそ終わりだ。


「……見事だ」


最後の声は、どこか穏やかだった。


 魔力の気配が消える。俺はその場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。肩から流れる血が石畳を濡らしていたが、まだ意識ははっきりしている。


遠くで歓声が上がる、騎士団の援軍が到着し、町の人々が顔を出す。


リーナが駆け寄ってきた。


「アルスー!!」

い、痛い。

抱きついて泣きじゃくる彼女を見てようやく実感した。


 リーナを町を守れたんだと。


「あっ、ゴメン。痛かった?」


 リーナは俺の傷を見て青ざめる。

「ひどい……すぐ治療を!」


「大丈夫だ、この程度なら死なない」


思わず口にしてから、自分で苦笑いする。彼女は涙目で睨む。


「死ぬとか簡単に言わないでよ」


 その言葉が胸に刺さる。やり直せるからといって、死を軽く扱っていい理由にはならない。俺は何度も死を選び、そのたびに世界を巻き戻した。だが彼女にとっては、今この瞬間が全てだ。


「悪い」


素直に謝ると、彼女は小さく息を吐いた。



 数日後、王都から使者が訪れた。勇者ルークからの謝罪と、叙勲の打診だった。


 勇者一行は幸いにも命を落としたものはおらず、順調に回復しているらしい。


 この後彼等が再起しても、懐疑的な目で見られるだろう。だからヴァルトを倒した俺を引き戻したいのだ。


「勇者殿は深く後悔しておられます。あなたの実力を見誤ったことを」


 俺は応接室の窓から港を眺める。あの日と同じ潮風が吹き、船が静かに揺れている。


「後悔は誰にでもあるさ」


「王都へ戻られますか。勇者パーティ再編の折には……」


俺はその言葉を遮った。


「戻らないよ」


 使者は驚いた顔をしたが、俺の表情を見てそれ以上は何も言わなかった。


 今日も潮風が心地よい。



 その後リーナと会い、桟橋で海に沈む夕陽を2人で眺めていた。


「王都、行かないんだ」


「ああ」


「後悔しない?」


 少し考える。追放された日の怒りはもう薄れている。あれはやり直せない失敗だが、だからこそ今がある。


「やり直せないこともある。でもそれでいい、それに……」


 俺は誤魔化すように言葉を濁し海を見つめた。あの時リーナに言った言葉を思い出し悶絶していた。

(お前が帰る場所だ、みたいな事言ったんだよな、俺)


 そんな俺の心を見透かした様にリーナは静かに笑った。


「ふーん、大人だね、大人の意見だ。人生に失敗はつきものだよ、慎重なアルスくん」


「失敗は嫌だよ。やり直せないことだってきっとある」

 安易にやり直せると思ってはいけない、それは今回学んだ教訓だ。大事にしなきゃいけない一瞬だってあるんだから。


「大丈夫だよ、私は。何度でもやり直せるよアルスとなら」


 風に靡くリーナの金色の長い髪は夕焼けの光りと混ざり幻想的に見えた。それは言葉では言い表せないほど美しく、そんな彼女の横顔は俺の心を鷲掴みにする。


「アルス、お帰りなさい」


「ああ、ただいま」


 陽が沈み夜が訪れようとしていた。抱きしめ合い、唇を重ね合う2人をそっと隠すように。



《リトライ》のスキルで明日また一度だけ、世界を巻き戻せる。


だが願わくば、使わずに済む日々が続けばいい。


 追放されたあの日、俺は選ばれなかった。けれど今は違う。俺は自分でここに住むことを選んだ。そしてこの町を守ることを選び、隣にいる誰かを守ることを選んだ。


 やり直せる力は、やり直すためにあるんじゃない。


 やり直さなくていい未来を掴むためにある。


 潮騒の音が、今日も心地良く胸に響いている。



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