三日目 えっと…此処どこですか?
「…えっと…此処どこですか?」
目の前には見知らぬ土地に見知らぬ建物が広がっていた。見知らぬ建物のベランダに立つ俺は、周囲を観察し続けていた。何せ見覚えのある物といえば俺の事務所だけなのだ。
俺はベランダで頭を伏せて考えに考えまくった。
「…あれ?俺、さっきまで何してたんだっけ?おかしくない?部屋が同じでなんでこんなに景色が見知らぬぅなの?見知らぬぅにもほどがあるぅだよ?ていうか見知らぬぅのぬぅって何だよ。あぁ、もう訳が分からなくなってきた。訳が分からぬぅだよ…HAHAHA。」
独り言もそりゃあ出ますよ。だってパニックなんだも。くだらないギャグにも笑ってくれるいつもの仲間達もいない。いや、いつも居ないか。仲間のあいつらでさえ冷酷な目を向けてくるくらいだからな。
俺は深呼吸をして記憶を整理した。
「…確か、いつものように朝に起きて、飯食って、昼頃に家を出て、事務所に着いて、ソファで寝て、起きてベランダに出たらこうなってて…。」
俺は手に電球を持ち、頭の横へ持っていった。そして、「そうか!」と閃いたしょうもない演出を一人で実施した。
「なるほど、これは夢だ。まだ俺は寝てるんだ。本当の俺は今頃まだソファの上、なんだそっかそっかぁ。じゃあ、今はこの町を堪能しますか。」
俺は電球を投げ捨て、事務所を出た。
廃ビル?を降りて行くも、どうも壁や柱が新しい。ていうかそもそも何故木製なのだろうか。この廃ビルは鉄筋コンクリートで出来ていたはずだ。
嫌な予感が過ぎりながらも、俺は廃ビル?の階段を降り続けた。
いつもの壁に張り付いている看板には、最上階【アスマジ株式会社】と記載されている。特に他は変わった様子はなかった。
しかし、外に出るとそこは江戸のような町並みが広がっていた。よく見れば地面はコンクリートではなく土だ。建物も瓦が乗っているような昔ながらの建物しかない。
「待て待て待て…流石に意味がわからすぎるな。さっきまで北海道留萌市に居たんだよな?」
流石の平静を保てなくなった俺は、スマホを取り出した。幸いアンテナは一本のみ立っていたので、一先ずイカリに電話をかけた。
プルプルプルプルプルプルプルプルッガチャッ。
「イカリッ!」
「うるせぇ声デケェ〇ね。」
このトーン…この緊急事態に罵倒ですよ…。
「すまん…イカリ今どこにいる?」
「…。」
突如イカリからの返答がなくなった。
「…おい、お前何した。」
「へ?」
「…お前の廃ビル、何かおかしいぞ。」
「廃ビルがおかしいんじゃなくて、その廃ビルごと俺が姿を消している事がおかしいんだが。」
「いや、そもそもこの廃ビル何階建てよ?六階以上あったろ?」
「ああ、確か七階建ての最上階が俺の事務所だ。」
電話越しにイカリは溜息を吐いて、カッカッカッと小さな音が響いていた。
「今おたくのビルの階段登ってますけど、三階までしかないっすよ。しかも、屋根がねぇ。」
おや?廃ビルの様子が…じゃねぇわッ!!!
ちょっと待ってちょっと待ってお兄さぁぁぁん!?
俺はもう一度階段をかけ登った。
降りる時は焦っていて気が付かなかったが、俺の廃ビルは二階までしか無かったのだ。
「待ってぇぇぇえ!?間の二階はどこ行ったのぉぉぉ!?俺の廃ビルはジェンガじゃないんだけどぉおぉ!?」
「ああ、多分それは隣の建物に突き刺さってるあれかな?」
「だるま落とし?だるま落としの途中経過なの?ハンマーは?ハンマーは一体どこからきたのぉ?」
「ああ、建造物とか凄い神秘的だよな。」
「何の話?もしかしてミャンマーの事言ってる?分かりづらい分かりづらい。確かに綺麗だし神秘的だよ?でも今?今じゃなきゃダメなの?非常事態だから頼むってぇ!」
………。
「なんで黙ってんのぉ!?」
叫び声と共に俺はイカリと違う世界にいるということが分かった。
ゴーンッゴーンッゴーンッ
「な、なんだ!?」
廃ビルの隣の木造の建物のてっぺんでは大きな鐘が鳴り響いている。
「と、と、時の鐘が鳴ってるぞぉぉぉっ!!!」
「時の鐘って何ぃ!?マジでここどこぉ!?何が起きてんのぉぉぉぉっ!!!!!」
「さて、うちのアホリーダーが行方不明です。」
オオタルはポカンっと突っ立っていた。
そして、三階より上が吹っ飛ばされた廃ビルを見た。
「…マジな話何が起きたの?」
「異世界転生。」
次回へ続く。




