二十四日目 うぇるかむとぅぱられる
俺は今、森の中にある小さな階段を上っている。
天気こそ悪いが、一見普通の森だ。
川の流れや風によって揺れる葉の音。気候によっては癒しの刻を過ごせる程の絶景だ。
「…そうか。ここもヤチネワカ…盗賊達のせいでここも。」
よく見れば乱雑に散らばる木の枝。枯れ果てた木にも、無数の傷跡がある。
荒れた環境を見ても、盗賊達の気持ちは到底理解出来なかった。
暫く歩いていると、広い空間に出た。
そこの中心には小さな鐘が設置されている。
鐘から垂れたロープが風でユラユラと揺れ、それにより鐘が小さな音色を奏でている。
ゆっくりと近付く俺を見て、一人の男が鐘の陰から現れた。そして、こちらへと近付いてきた。
「数日ぶりだな。」
「確かあんた、せいぎくんとか言ったか?」
「いかにもかくにもせいぎくんだ。どの角度から見てもせいぎくんなのだ。」
ジョークのつもりなら申し訳ないが、それに反応するほど俺は暇じゃないのだ。
「何の用だ?」
「拙者、せいぎくん。正義という名に恥じぬよう、正々堂々其方に決闘を申し込む。」
「お前達はさ、何のために闘うんだ?」
俺の質問返しに興が冷めたのか、せいぎくんは無言で奥へと歩いて行った。
後を着いて行くと次第に新たな山道へと続き、山道は次第に山頂へと辿り着いた。
そこから見える景色を言葉で表すのであれば、まさに絶景という言葉が合うだろう。街や車の灯りが奥地まで広がっており、一部の目立った光を繋げるとハートマークのようにも見える。
「拙者は、あの街出身でな。ここからあの街へは、歩いては行けぬ。三日に一度発車する電車の切符を手に入れて初めて行ける街なのであるよ。」
「…帰りたいのか?」
「帰りたくても帰れぬのだ。あの街へ行くには、先着三十名の切符を手に入れなければいけない。それも何万人という数の中からな。そんなこんなでもうこの世界に来てから七年になるか。」
せいぎくんは、過去を思い返すように切ない表情を浮かべていた。
「…何でこの世界に来たんだ?そもそもこの世界は何なんだよ。」
俺の言葉にせいぎくんは驚いた表情を向けていた。
「…其方、何故この世界にいるのか、この世界が何なのか知らないと言うのか?」
俺が頷くと、せいぎくんは再び驚いた表情をしていた。いや、心のどこかでは呆れてもいるようにも見える。
「…ならば一つ忠告します。あの街に行こうと思わない事です。私や数万人のように、無謀な未来に賭けなければいけなくなります。今あなたが向かうべき所は、北です。北の光へとただひたすらに歩くのです。」
その後、俺はせいぎくんにこの世界の事を聞いた。
「…マジかよ。」
それしか言葉が出なかった。
次回もお楽しみに!




