二十二日目 イカリVS勘助!
俺は思わずイカリに飛びついた。
「…てかなんでイカリこっちの世界いんの?」
「…今頃かよ。実を言うと俺もよく分からない。気が付いたらお前の事務所の前に倒れてて、事務所の建物がおかしい事になってるなぁって困惑してたらお前から電話きたって感じ。」
その電話は、俺があの島で目を覚ました直後だ。
「じゃあ、あの電話はちゃんと繋がってたんだ。」
「アンテナは立ってなかったけどな。そのお陰で推測出来ることもある。まあ積もる話は、あの厄介者を何とかしてからだな。」
俺とイカリの話を割くように、勘助は雄叫びをあげた。先程までとは比べ物にならない表情をしており、まさに噴火前の火山のような怒り顔だ。
「おやおや、顔が赤いようですが。擦ったら頭頂部から何か発射しそうですね。」
イカリは悪い顔をしながら勘助を馬鹿にしていた。それを見た俺は吹き出してしまった。
「…殺す…絶対殺す。」
勘助は、本気モードに突入したようだ。
「武闘と剣術、どっちが強いか確かめようじゃないか。」
「貴様だけは絶対に許さんッ!」
勘助は空へと飛び上がり、ゆっくりと前へ回転を始めた。それは次第に高速回転し、勢いよく落下してきた。
「これだけで済むと思うなよッ!」
物凄い勢いで落下する勘助は全身に炎を纏った。
「タケルッ!その人、大丈夫なの!?」
ハズキがイカリを心配し、遠くから俺に声を掛けてきた。
「イカリなら大丈夫だっ!」
そうは言ったものの、あの大きさと速さで落下してくるとなると流石のイカリも厳しいのではないかと心配に駆られた。
「ネオ・スペース」
イカリの双剣が暗い色へと変色し、キラキラと輝き始めた。それはまさに宇宙であった。
「地獄へ行って公開しなァッ!メテオ・インパクトォッ!!!」
勘助がイカリに衝突すると同時に辺りは光に包まれた。そして、強風と爆音に襲われた。
全てが静まる頃、砂埃は少しずつ消えていく。
「ハズキっ!無事か!」
「…んー…何とか…。」
俺もハズキも飛ばされないようにするのがやっとだった。
ゆっくりと腰を持ち上げ、イカリと勘助の行方を探した。
砂埃が八割消える頃、そこには勘助の衝突を双剣で食い止めるイカリの姿があった。
「イカリッ!」
しかし、イカリの両腕は悲鳴を上げていた。よく見るとイカリの両腕は完全に焦げており、小刻みに震えながら勘助を押さえていたのだ。
「あーあ…俺の腕が台無しだよ…勘助さんだっけ?これがあんたの本気か?」
「ば、化け物かお前。俺様の…メテオ・インパクト…な、な、何故だ…何故ァ!」
勘助は動揺していた。どうやら今繰り出したメテオ・インパクトは、彼の最強の技だったのだろう。
「ぬるいねぇ、ぬるい。そんなんだから幹部止まりなんだろ。どんなに力だけ強くてもな、お前には上に立つ資格はないな。」
イカリは双剣で勘助を跳ね返した。しかし、ただ跳ね返しただけではなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
イカリは一瞬で勘助の左脚を斬り落としたのだ。
「いた、痛いッ!んぁわぁぁああぉおぉあッ!!!」
勘助は悶え苦しんでいる。
「安心してください、返しますよ。」
そう言ってイカリは再び双剣を構え、何も無い空中を斬った。そして、勘助の目の前に左脚が現れたのだ。
「ああああああああぁぁぁッ!俺の足…俺の足だァッ!!!!!」
勘助は自身の左脚を抱き抱えて塞ぎ込んでいた。
その隙にイカリは宙を舞った。イカリの身体を黒いオーラが包み込む、それはまさに黒い蝶のようであった。
「蝶ノ舞、乱撃ッ!」
イカリの双剣から無数の光の刃が現れ、勘助を襲った。
しかし、イカリの狙いは勘助では無かった。
イカリは双剣を抜いたまま、元の崖へと戻った。
「た、助けてくれるのかァッ!?」
勘助の言葉にイカリはギロッと睨み返した。
「お前、元いた世界では暴行罪や殺人未遂で何度も捕まっていたらしいじゃないか。」
勘助は何かを悟ったのか、青ざめた表情で口を開けていた。
「最後くらい美しく散れ。」
勘助は、今頃気が付いた。自分が吊り橋の上にいるということ。
そして気が付いた、乱撃は吊り橋のワイヤーに放たれていたという事を。
吊り橋のワイヤーが斬られ、勘助は吊り橋と共に宙を浮いた。
落ちていくそれは、まさに弱肉強食。まるで勘助は、蝶の住処へ連れて行かれる虫のようだ。
「行ってらっしゃいませ。」
奈落の底へと落下した後、暫くは静かだった。しかし、後に勘助の断末魔が俺達のいる所まで響き渡った。奈落の底には一体何があるというのだろうか。
「イカリ…来てくれてありがとう。」
イカリは照れくさそうに人差し指で頬をポリポリ掻いていた。
そして、俺はイカリをハズキや中濃の元へと案内した。
次回もお楽しみに!




