二十一日目 緑と縁って似てるよね。
目の前には燃え盛る炎。
結局一日では、全ての橋を渡りきれなかった俺たちは、やむを得ず崖の上で野宿をしている。
現在時刻は丑三つ時、中濃は爆音のいびきをかいていた。
「…よくこんな爆睡出来るわね。」
「まあ仮に落ちてもこいつ飛べるから。」
無邪気な表情で眠る中濃の顔を見て俺達は自然と笑みが溢れた。
「…ねぇ、前の話だけど。」
前の話、それはこの世界の事だ。
「これ以上何を話すんだよ。」
「…あんたは気にならないの?この世界が何なのか。それに元の世界に帰りたいとか思わないわけ?」
俺は少し悩んだ。
確かに、帰りたくないといえば嘘になる。
正直、母親の事も好きだし、友人だって大事だ。
しかし、何故帰りたいとすぐに返答出来なかったのか。
理由は分からない。だが、何か理由があってこの世界に留まりたいのでは無いだろうか。
「言っとくけど残ったりしないからね。帰る手段があったらすぐに帰る。」
言われなくとも、俺だってそうするだろう。そう心の中で言い返した。
「それに、今分かってることはたったの二つ。一つは、この世界は私達の元いた世界では無いという事。二つ目は私達がここに来る前は眠っていたという共通点がある事。いずれにしても情報が少なすぎるわ。」
ハズキの言う事にも一理ある。しかし、これ以外の情報を手に入れるには、俺達と同じようにこの世界に来た人物を探さなければいけない。
「正直、こんな事はアニメの中だけだと思ってた。実際来てみると大変な事ばかりだった。でも、たまにはのんびりしてもバチは当たらないんじゃないか?」
「のんびりしている時間なんてないもの。早くおじいちゃんの所に戻らないと。」
ハズキの言うおじいちゃんとは、眠る前の記憶で車を運転していたというおじいちゃんなのだろう。
「最後に会ったのは、その車に乗っていた時か?」
ハズキは静かに頷いた。
「…おじいちゃんどうしてるかな。ちゃんと家には帰れたのかな。」
ハズキは炎の一点を見つめていた。
「私に独断流拳法を教えてくれたのもおじいちゃんなの。厳しい事しか言われなかったからおじいちゃんの事いつか呪ってやるぅ!早く死んじゃえ!って心の中で思ってたけど、今では本当に感謝しているの。もし独断流拳法を教えてもらってなかったら、私今頃ここにはいないよ。」
「そうか。俺なんかよりずっと大人だよお前は。俺は母さんに何にもしてやれてないからな。母さんだけじゃない、あいつらにも…。」
俺の脳裏には母さんとイカリ、オオタルの顔が過ぎった。
ドガアァァァァァァァンンッッ!!!!!
「な、何!?」
突然近くの崖で爆発が起こった。崖は瓦礫となり、岩はどんどん奈落の底へと落ちていく。同時に先へと繋がる吊り橋も崩れ落ちてしまったのだ。
「ちょっとこれどうするのよ…」
「ハズキ、あいつの仕業らしい。」
俺は崩れた崖とは反対方向を見ていた。俺の言葉に続き、ハズキもその方向を振り向いた。そこには、全身緑色の格好をした大男が立っていた。格好を見る限り、恐らく忍者だ。しかし、全身の筋肉が大きすぎて、全く忍者には見えない。
「俺はァ!ここら一体を任されている、勘助というもんだァ!せいぎの話からして、貴様らが我々の邪魔をしている者だなァ!」
「俺達に何の用だ?」
俺は銃を取り出して構えながら問い掛けた。
しかし、緑の大男は俺の問掛けに高笑いで返した。
「安娜はこんな弱そうな奴らに負けたのかァ!情けないなァ!この勘助様が手本を見せてやるから、天国で後悔してなァ!」
そう言うと勘助は、俺達の元まで繋がる橋を両手で持った。そして、力技で吊り橋を外し、思い切り振り回した。次第に吊り橋は外れ、その吊り橋を俺達の元へと放り投げたのだ。
「マジかよ!」
「タケルっ!あっち!ていうか中濃起きなさいっ!」
ハズキが指した方向には、吊り橋はないが近めの崖があった。俺とハズキはほぼ同時にその崖へと飛び移った。しかし、中濃は全く目を覚まさなかった。
「中濃っ!起きろっ!」
「…タケルさん?ん?」
吊り橋は中濃へ直撃し、吊り橋は奈落の底へと落ちて行った。その衝撃で、崖にもヒビが入っていた。
「中濃っ!早くこっちに!」
中濃は目が回った状態で翼を広げ、こちらへと飛んできた。
「い、一体〜何が〜あったんですかぁ〜?頭がぐわんぐわんしますぅ〜。」
そう言うと中濃はその場で気絶した。
「…ここにまた橋を投げ込まれたら終わりだ。俺が向こうの崖に移動して、奴を誘導する。」
「タケル…あんた戦闘経験無いんでしょ?武闘なら私の方が…」
「何言ってんだ。安娜との闘いでまだ回復してないだろ。心配するな、俺にはこいつがある。」
俺は自信満々に銃を見せた。しかし、戦闘経験がほとんど無いのも事実だ。実質、この勘助という男と闘うのが初めてと言っても過言では無い。
震える手を押さえながら、俺は近い崖へ一つまた一つと飛び越えて言った。最終的にハズキとは距離を取り、勘助の真横の崖へと移動した。更にそこは吊り橋が繋がっている。
「勘助さんでしたっけ?俺で良ければ相手しますよ。」
「お前が?俺の相手?笑わせるなっ!」
勘助はやや怒りを顕にした。俺はその隙に額に銃を構え、発砲した。
パコォォォォンッ
俺の銃は俺仕様だ。発砲の音にまで拘って改造してある。
放たれた弾丸は、勘助の額に直撃した。
「やったっ!」
ハズキが喜んだのも束の間、弾丸は命中したが、勘助には効いていなかったのだ。
弾丸が潰された状態で勘助の足元へと落ちた。
「この程度の弾丸、俺の筋肉には撃ち込めないのさァ!」
「…それならっ!」
俺は走り出し吊り橋の上を渡った。勘助が吊り橋を持とうとした瞬間飛び上がり、勘助の背後へ回った。
「終わりだっ!」
俺は銃のフォルムを変え、ナイフへと変更した。そのまま勘助の背部にナイフを突き刺した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ…なんてなァッ!」
埋め込まれたナイフは、勘助の筋肉で真っ二つにされてしまった。当然、ナイフは皮膚にさえ刺さっていなかった。
俺は一世一代の賭けに負けたのだ。
力技で勘助に勝てるはずもなく、銃やナイフも効かない。
絶対絶命?いや、こういう時はこの言葉が正しい。
「…詰んだわ。」
そんな俺の心境など勘助にはどうでも良いことだ。勘助は両手を組み、思い切り上から振り下ろした。
「やめてえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
カキイィィィィィィンンンンッッ!!!
俺の耳には何か金属音のような音が響いた。
その音は物凄く美しい音色を奏でた。
所謂、残響音だ。
「な、何だ貴様ァッ!!!」
その男は緑色の袴のような服装で、羽衣を纏っていた。
中途半端に長い黒髪はかき分け、左側に流していた。
そして、両手に持つ二本の双剣、刀とは少し違う曲がった剣。男は双剣を手慣れたように使用し、勘助の右腕を斬ったのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!血が、俺の腕に傷がぁぁぁぁぁッ!!!」
俺の銃やナイフは効かなかった。この男の双剣には何か特別なものがあるのか。それとも、この男の実力なのか。それにこの男、どこかで見た事がある。
「通りすがりの者ですよ。探している人がいましてね、旅をしていたんですよ。そして今、漸くその人を見つけました。何やらピンチのようだったんで助太刀したに過ぎません。」
俺はこの男の声を聞いた瞬間、涙が溢れた。
そして、男は振り返って言った。
「…探したぞタケル。」
そして、俺は全力で男の名を泣き叫んだ。
「イカリィィィィィィィィィッッッ!!!!!」
次回もお楽しみに!




