二十日目 この世界と向き合うために
ハズキが安娜を倒し、俺達は再び吊り橋渡りを再開していた。
「いやぁ、それにしても。凄い闘いでしたね、映画みたいでした。」
中濃は拍手をしながら歩く。
「確かにな。決め台詞もかっこよかったよな。」
俺の言葉には反応せず、ハズキは無言で足を進める。
「何だよ、またキャラ変更ですか?ビビりからの関西人、今度は冷酷非情キャラですか?そもそも何、海原葉月って。カタカナ表記するなら、【ズ】じゃなくて【ヅ】でしょうが!」
「それは!違う世界に来たから…新しい自分に生まれ変わる的な?」
「アソパソマソ新しい顔よ!って感じか?」
俺はこの時、馬鹿にすることしか出来なかった。
「何よ?別に良いでしょ名前なんて、現実で会うわけでも無いんだし。ていうか私、あんたもワカバさんも本名知らないし。そもそも私達は異世界飛ばされた悲しい者同士ってだけでしょ。」
『素っ気ねぇ〜』
俺と中濃は脳内に同じ言葉が流れていた。
「そうだな、別に何でも良いよ。生きて帰れるならそれで。」
俺の言葉にハズキはどこか悲しそうな表情をしていたように感じた。
「ところで、タケルさんは元の世界で何をしていたんです?」
幾つもの吊り橋を渡りながら、同じ行動に飽きたのか中濃が俺へ質問を投げた。
「ついこないだ何でも屋を開業した。」
「へぇ凄いですね!」
「何も凄くねぇよ。依頼も一件しかやってないし、その一件だってふざけたもんでさ。仕事ねぇなって思って事務所行って寝てたら、気付いたらこんな所に来ていたんだからな。人生何あるか分からないよな。」
俺の話に何か引っかかったのか、ハズキが歩みを止めた。
「…寝ていたらこの世界に来た?」
ハズキの返答に俺は頷きで返した。
「ねぇあんた。この世界に来てから、何か変な事無かった?」
「毎日変な事ばかりでしたが。」
「そうじゃなくて、例えば知り合いがいたとか!」
俺はこの世界に来た時の事を思い返した。
「…あっ。」
俺はある事を思い出した。
「…そういえば、事務所の仲間に電話したら出たわ。それで普通に話した。」
ハズキは驚きの表情を見せた。そして、「それで?」と急かすように聞き返した。
「えっと確か、事務所の建物もおかしくて、俺の事務所がある階と下の階だけが無くなってて、四階と五階は隣のビルに刺さってるとか何とかって。」
「…まあそのビルが飛ばされたとか、突き刺さってるとかはどうでも良いんだけど。私はおじいちゃんの車に乗っていたの。眠ってしまって、気が付くとあの島にいたわ。」
この時点で俺達は、互いに眠りについた後にこの世界に来ている共通点が判明した。
「でもなんで俺は事務所の仲間と話せたんだ?」
「それに関しては、この世界が何なのかっていう点に繋がってくるでしょうし。少なくとも、ここは私達の知る世界では無いことは確かよ。」
「…てことは異世界なのか?」
謎は深まるまま。俺達は時々足を休めながらも、この世界について語り合った。
次回もお楽しみに!




