二日目 依頼から始まる恋ってあるかなぁ
アスマジ株式会社を開設して二週間が経過した。
客はまだ一人も来ていない。
「…はぁ、なぁんでこぉんな上手くいかんのかぁねぇ。」
あれから三人であらゆる手を使い、アスマジ株式会社を宣伝した。
しかし、客はまだ一人も来ていない。
「お前に無理矢理仕事辞めさせられたんだ。意地でも仕事は取ってきてもらうぞ。」
「君さ、この状況で凄く無茶な事言うよね。おちごとないっていってるでちょ!」
イカリが怒りを抱いている、ハハッ。
それも仕方の無い事だ。イカリとオオタルには無理言って仕事を辞めてもらった。
「起業するっていうし、とりあえず数ヶ月は大丈夫かなって思ったのにね。すんごい騙された気分だよ。ペテンだペテン。」
オオタルは笑顔で中指を立てている。
「…うぅ…心が…。」
イカリは溜息を吐き、オオタルに近寄った。
「まあ、こんなゴミクズを信じきった俺らにも責任はあるさ。協力し合って仕事探そうぜ…チッ。」
キコエテマース、イマシタウチシタヨネ。
ピコンッ
スマホの通知音が鳴り、画面を見ると【アスマジ株式会社様】とメールの通知が来ていた。
「来たあぁぁぁぁぁァァァァァッッ!!!」
スマホを高速で開くと、そこにはこう書かれていた。
【アスマジ株式会社へ】
お忙しい中、すみません。
私、市内に住む大垣という者です。
実は最近、元彼にストーカーされています。
警察に相談し注意をして貰ったのですが、現状何も変わらず困っています。
私としては、これ以上大事にはしたくありません。
そんな時、アスマジ様のホームページを拝見致しました。
まず直接お話だけでも聞いて頂けたら幸いです。
返信お待ちしています。
「良かったな、初仕事だ。早速へんし…っておいっ!」
俺は「これは…恋…?」とポロッと気色悪い台詞を吐いていた。
「…片手で口元を隠すな。気色悪さが増す。」
イカリに頭部を叩かれた後、依頼者の大垣さんという人に返信を送った。
翌日、廃ビル最上階のアスマジの事務所へ、大垣さんは足を運んだ。
「大垣です。この度は本当にありがとうございます。」
大垣さんは深く頭を下げた。
大垣さんは黒縁眼鏡をクイッと動かした。そしてマフラーを外すと、サラリと黒髪のロングヘアーが姿を見せた。それに小柄で細く、四肢なんか今にも折れてしまいそうだ。
それに引き換え、イカリはガタイがよくいかつい見た目だ。テレビでよく見る短髪で髭を生やした感じだ。その割に身体や心が弱い。
逆にオオタルは名は体を表すという言葉があるように、体型は太め…いや、はっきり言ってデブだ。それに眼鏡を掛けており、短髪の黒髪。見た目は完全に中年のオッサンだ。
こんな男たちに囲まれていては、彼女が尚更華奢に見えてしまう。
「あの…何か?」
おっと、ついジロジロと見てしまった。今の時代ハラスメントとか五月蝿いからな、気を付けないと。
俺は大垣さんをソファへと案内した。
話の内容はメールで頂いた内容の通りだった。
「今日は?」
「…今日は土曜日なので。彼、土日は仕事なんですよ。一応周りも見ましたけど、今日は居なかったです。」
「何かされたりはしたのか?」
イカリの容赦ない質問攻めに俺は頭を叩いた。
「警察かって。女性なんだから少し遠回しに聞けよ。」
「そうか、すまない……どこまでしたの?」
「話聞いてたぁァァ!?」
翌々日、俺とイカリは大垣さんの尾行を…いや、大垣さんを尾行している元彼の尾行を開始する事となった。
午後十八時半頃
大垣さんは、普段羽幌で仕事をしている。留萌駅から羽幌駅まで電車で通っているらしい。
留萌駅から出て来た大垣さんを尾行…
「…あれ?」
ふと見た大垣さんの肩には、なんと大男が乗っかっていた。
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇえええッ!?」
「そっち!?人間じゃねぇの!?何あれ、ピ〇チュウみたくなってんだけど!?」
すると大垣さんから一通のメールが届いた。
【件名 何か今日は肩に乗ってきました。】
「いやいやいやいやっ!そういう感じ?そういうノリ?」
そのメールが届いた頃、大垣さんと彼チュウは駅を出て行った。
「…あれ、もはややり直してるだろ。」
「やり直してるというか…旅してるというか…マ〇ラタウンというか…。」
依頼から始まる恋は…ないッ!
また次回お会いしましょう!




