十八日目 長蛇の橋!ハズキ対安娜(アンナ)
そして、翌日。
俺達は劣化した木製の階段を上がり、吊り橋へ足を掛けた。歩みを進める度、ギシギシと軋む音が聴こえる。
「こ、これ…渡って大丈夫なんでしょうね…」
「そ、そりゃあそうだろう!渡るなとは書いてないからな!」
「お二方、頑張ってくだされ。」
俺とハズキは今、恐らく同じ感情を抱いている。
お前が人を乗せて飛べたらこんな苦労してないんだよ…という顔を中濃に向けている。
中濃はそっぽを向いた。
一つ目の橋を渡りきると、次は二方向に吊り橋が分かれていた。
「…何で二個あるのよ。」
「まさに運命の分かれ道的な。」
「大丈夫です!私にお任せ下さい!」
そう言うと中濃は、吊り橋の下へと回った。
中濃は吊り橋の裏側を見ながら、待ち構えていた。
「お二方から見て右側は劣化の進行が確認できます。なので左の吊り橋を渡ってください。」
「本当だろうな!」
「本当です!仮に落ちても一人なら救えます!多分…」
「ねぇ!今多分って言った!?さり気なく小声で多分て言った!?」
しかし、迷っている時間は無い。ワカバの捜索も考えたら、早く吊り橋を抜けなればいけない。それに、こんな高い所で野宿など俺はごめんだ。
「よし、俺が渡る。」
俺は躊躇せず、左側の吊り橋を渡った。
ギシギシと音は立てるものの、無事に渡り切る事が出来た。
「よおぉぉぉしッ!!」
内心ビクビクしていた俺は、思わず声を荒らげた。
その後ハズキも覚悟を決め、ゆっくりと渡りきった。
それから幾つもの吊り橋を乗り越え、俺達は漸く中間地点へと差し掛かった。
辿り着いたその崖は一番高く、中間地点という看板も設置されていた。
「さて見下ろす感じ、もう二択は無いな。後は落ちないように渡れば問題ない。」
「お二方、お疲れ様でした。」
俺達は小休憩を挟み、再び歩みを進めようとしたその時だった。
ボオォォォォォォォンンッ!!!!!
渡ろうとしていた吊り橋の向こう岸、そこで盛大な音と共に桃色の煙が辺りを包み込んだのだ。
「ちょっと何これ!」
煙が薄くなると目線の先には、全身桃色の服装をした女性が現れた。パッと見、忍者のような格好をしている。口元は紺色の布で覆っている。しかし、目が行くのは、豊満に実った果実のみだ。
「我が名は遠距離恋愛と書いて、都会に出た彼が不安と読む。」
…あぁ…そういうタイプか…うわぁ…。
沈黙に耐え切れなかったのか、桃色忍者は狼狽えた。
「じょ、冗談キツいわね。」
「いやいや、お前がな?」
いや、まあね。こんな格好してくらいですから、そりゃ性格が不思議であってもおかしくねえよ?ねぇけどさ、もうちょっと何かあったと思うよマジで。もうさ、さっきの興奮を返してくれよ。大分萎えちゃったよ、萎えなのチソチソですわ。
「では、もう一度失礼して。我が名は恋愛ソングと書いて、西野カ…」
桃色忍者は、ハズキに一発食らった。
「ごめんなさい、危ない発言な気がしたので思わず手が。」
「いや、正解だったと思う。」
すると桃色忍者は、険しい表情で起き上がった。
「親にもぶたれたことないのにぃぃぃッ!」
険しすぎたァ〜
もう顔面原型無くなっちゃってるよ〜
好青年茶髪ブルーって感じですよ〜
「なるほど、では見せてもらおうか。貴様の真の力とやらを。」
ハズキは目元を隠す程の仮面を被り、全身赤い服装へと変わっていた。
「それこそ絶対やっちゃダメだろぉッ!!!」
「其方、名前を何という?」
「…安娜。」
「安娜…良い名だが、我々は敵対する同士。運命であっても闘わねばならない時がある。見せてみよ、この私ハズキに其方の力をッ!」
「…ハズキ。」
「…俺は何を見せられているんだろう。」
すると、互いに後方へと飛び距離を取り、ハズキは武道の構えをした。対する安娜は、鞭のようなものを取り出した。
「それがあんたの武器ってわけ?まるで茨の棘ね。」
「あんまり舐めては困ります。この茨の鞭で貴方をズタボロにするんですから。」
「おっけー、やれるものならやってみなさいよ!」
二人は劣化した吊り橋を同時に走り、振動で木のくずが舞っていた。
「ハズキッ!あんまり暴れると橋が落ちるぞッ!」
二人は空中へと飛び上がった。
「うるさいな。わかってるってば!」
ハズキの連撃に安娜は防ぎ切れず、思い切り橋へと落下した。
「そのまま橋と一緒に落ちなさいよっ!」
「そう簡単に落ちるものか!」
安娜は仰向けの状態で自在に鞭を操り、ハズキの額や四肢に茨の鞭を強くあてたのだ。
「ぐっ!」
ハズキは血を流しながら、再び吊り橋の中心付近へと降りる。
そして、再び振動が伝わり、吊り橋の寿命を更に進行させた。
舌を噛んだハズキは、血の味を感じて微笑んだ。
「この感じ、堪らないっ!」
目を輝かせたハズキは、安娜の目にはどう映っているのだろうか。少なくとも俺には、野生の虎のような脅威を感じた。
「さぁ、まだまだこれから!」
「フッ…望むところよ。」
ハズキの笑みに答えるように、安娜は苦笑いを浮かべた。
次回もお楽しみに!




