十七日目 いくら何でも遠すぎだろぉ!
北へ北へとただひたすら歩みを進めてどのくらい時間が経ったのだろうか。
一日の半分を移動に使っても、深い森が続くだけ。
景色が僅かに変わろうとも、見慣れた光景は変わらない。
「いくら何でも遠すぎだろぉ!」
俺の叫びは無情にも響き渡った。
この世界は時計が無い。その為、一日が終わったかどうかは太陽と月、そして気温などで判断するしかない。夜を安息とし、起床後動き出す。しかし、起床したのが何時なのか分からない。思ったよりも明朝かもしれない、実は昼だったりすることもある。一日の半分を歩くと言っても、果たして本当に半分なのか。気持ちでは半日、しかし実は六時間しか歩いていないなんて事もあるのかもしれない。
そして、今日。そんな日々を過ごして、七回目の起床を迎えた。
「…おい。黙って歩き続けて一週間だぞ。」
「…話し掛けないで。無駄な労力を使わせないで。」
エセ関西弁はどこに行ったのか、ハズキの発語には全く力が無い。
「…エセ関西弁はどうした。」
「…キャラが立つかなと思って言ってみたけど、普通に疲れるのよね。ほら小説だと、特徴を文字で表さないと誰が喋ってるか分からないじゃない?だから関西弁で頑張ってみたけどもう疲れたわ。思えば今はツッコミキャラと敬語動物しかいないから、別に私は普通に喋って良いんじゃね?的な。作者の言いなりにならなくて良くね?って思って。」
そういうのを無駄な労力と言うのでは?…そうツッコミたくなる思考を抑え、俺は心の中だけで思い切りツッコミを入れた。
「…おい、そこはツッコめよ。お前の存在価値が無くなるだろ。」
「…うるせぇよ。お前さ、数少ない女キャラなんだからもう少しお淑やかに出来んのかね。」
ハズキの額から『ピキッ』と音が聴こえた気がした。
今振り向くと、きっと額には怒りマークが付いているだろう。
チラッと顔を見ると、予想通り額に怒りマークが浮かんでいた。予想外だったのはそれが一つでは無かった事くらいだ。
「…多いんだよ…むしろキモいから。」
「…やる気ないなら帰って良いぞ。」
「…分かりました…還ります。」
「…土に還るなし。」
今更だが、何故俺達がこんなにバテているのか教えよう。
ずっと流れていると思っていた川は突如姿を消し、水分を摂らずに半日が経ったからだ。
それに足ももう限界に近い。仮に睡眠は取れていようと、眠気が無くなるだけで、痛みはなくならない。
「…クソ…コンビニくらい…置いとけ。」
俺達がグダグダ話していると、中濃が上空より舞い戻った。
「お二方、階段まであと一息です。」
その言葉に俺達は再び活気を取り戻した。
「「あと少しっ!」」
掛け声まで揃ったのは、少し気持ち悪かった。
そして、八日目の夕方。
「…うそぉん。」
北の橋まで辿り着いたのは良いが、長蛇の橋にも程があるだろ!ってツッコミたくなるくらいゴールが見えなかった。
「…明日ね明日。」
「…うわぁ…ニートだよこの人絶対。」
「今日はもう日が暮れますし、出発は明日にしましょう。」
中濃の言葉に俺とハズキは賛同した。
次回もお楽しみに!




