十六日目 奈落の底の迷い森
「これ遭難よね?お前の後を歩いたのが間違いやったわ。」
「うるせぇっ!エセ関西人は黙っとけっ!」
俺達は頬を摘んだり、髪の毛を引っ張ったり、子供のような喧嘩を繰り広げた。
一応女の子ですから、殴ったりはしません。
「お二方、喧嘩していても仕方ありません。ここは協力して、森を抜けましょう。」
喧嘩をしていると、近くから聞き覚えの無い低音ボイスが聞こえた。
「…あんたなんか言った?」
「…いや、言ってない。」
俺達は喧嘩を止め、周囲を警戒した。
俺は銃を抜き、ハズキは武道の構えをした。
「ハズキ、流派とかあるんだっけ?」
「おじいちゃんに習っているけど、何派とかはなかったね。まあ自分流に言うなら、海原流や!」
俺は少し揶揄うように笑った。
「なんだそれ…まあ、背中は任せた。」
「お前もな。」
互いに背中を預け、構えていると再び声が聞こえてきた。
「…あの…敵じゃないからそんなに警戒しないで。」
声の方向を向くと、そこには中濃がいる。
「中濃!そこ危ないで!」
「…だから…敵じゃなくて…」
「…喋ってんの中濃じゃね。」
俺達の緊張は無くなり、次第に戦闘態勢を解除した。
「紛らわしいねんッ!」
ハズキは、中濃の頬に一発入れた。
「…ご、ごめんよハズキ…何か急に喋れて…」
殴り飛ばされた中濃はダウンした。
中濃が言葉を話せるようになったのは謎だが、恐らく進化した影響だろうということで話はまとまった。
しかし、俺達が遭難したという事実は変わらず、闇雲に歩いても疲労が溜まるだけと、今はその場で待機している。
そして、言葉を話せるようになった中濃の案で、空を飛び周囲を見て来て貰う事となったのだ。
「…ワカバさん…生きとるかな…」
ハズキは暗い表情で呟いた。
「…あいつ頑丈だからな。意外と生きてるかもしれないぜ。」
「そうだよね!生きとるよね!うちらが信じなきゃ誰が信じんねん!」
「…吊り橋の所にいた時の名台詞はどちらへ?今度はマヨネーズにでもなって羽ばたいたのかね?」
ハズキはガン無視という奥義を繰り出した。
数分程経過しただろうか、中濃が空から舞い戻って来た。
「中濃、どうだった?」
「ここから北に進むと階段式の橋があったよ。それを登れば、崖の上に戻れると思う!ただ…」
突如自信なさげな声になった中濃に俺は、「ただ?」と聞き返した。
「…かなりの距離があると思われる。恐らく、数日では渡り切れないほどの…」
俺とハズキは驚いたが、どの道進む道は残されていない。
「かまわない。行こう。」
ハズキも頷き、俺達は中濃の案内の元、北へと足を進めた。
次回もお楽しみに!




