十三日目 ネクストステージ
ドーナツ村入口近くの草原で俺達は野宿をしていた。
野宿をしていて分かった事がある。
まず門兵は毎日交代で見張りをする。野宿していると交代のタイミングを見る事になるのだが、以前まで無愛想だった門兵も笑顔で手を振ってくれるようになった。
そして、門兵は全身薄茶色をしていた。
よく見るとあれはマントではなく、羽であったのだ。
よく見ているようで見ていない、それが人間なのだと悟った。
門兵が何の虫かなんて事はもはやこの際どうでも良い。
問題は、これから先どうするかだ。
「諸君、野宿して二日が経った。ハズキの救出も成功し、新たな仲間も加わった。そして、我々はドーナツ村出禁だ。村に入れないとなると、買い出しも出来ない。という訳でそろそろ旅立たなくてはならないんだが。」
「そうだな。すずめを何とかしたおかげで数日の食糧は手に入ったが、これももって数日だろう。」
「充分休めたし次行こう!門兵さーん!次に近い村はどこー?」
ハズキは手を振りながら門兵に尋ねた。
「ここから北西に進むと次の街があるが…」
「北西だって!行くべ!」
ハズキは仲間がいると強くなるタイプだ。
「おめぇら南から来たんだべ?」
「そうだが?」
「北西の吊り橋の国の話は聞いた事ないか?」
「吊り橋の国?」
門兵は語った。吊り橋の国とは、文字通り吊り橋が多い国の事。村の名をヤチネワカと言い、茶葉が有名な村があるそうだ。村人も優しく、皆穏やかに暮らしていたそうなんだが、突如盗賊が現れたと言う。その盗賊は、飛行船の様なもので空からやって来た。盗賊達はパラシュートで各地に散らばって落下したが、武器を振り回し、村を占領した。この話が回ってきてからまだ数ヶ月らしいが、村人の消息は不明。
「ヤチネワカは自然の綺麗な所だが、奴等が来てからはどうなったのか分からない。村人には申し訳ないが、盗賊と聞いてはこちらも手が出せない。皆、自身の村を守る事で必死だからな。」
「すずめにビビってる奴等に言われたくないですよね。」
俺の発言を聞いたワカバは思い切り頭部を叩いてきた。門兵と顔が引き攣り、苦笑い状態だった。
「ともかくヤチネワカに行くのは勝手だが、無闇に近付くのは危険だ。ヤチネワカを通り過ぎれば、あとは幾つか村があるが今の所大した問題はない。最北端にルルモっていう海の街があるからそこを目的に向かうといい。」
「ルルモだな、わかった!」
俺達は荷物をまとめ村を去ろうとすると、王様をはじめとしドーナツ村の村人が俺達の見送りに来てくれた。
「勇敢なる旅の者、健闘を祈るぞ。」
「何よ偉そうに…野宿させたくせに…」
ワカバは容赦なくハズキの頭を引っぱたいた。
「そうよそうよ。すずめごときで…」
ワカバは全力で俺を殴り飛ばした。
「すまない。聞かなかった事にしてくれ。世話になった。」
王様は白目をむいて苦い顔をしていた。
互いに手を振り合いながら、俺達は北へと向かった。
一方その頃、吊り橋のくにでは。
木製で出来たボロボロの吊り橋。風に揺れるだけで、ミシミシと音を立てる。そんな橋をタキシード姿の男が躊躇なく渡る。
この吊り橋は【夢幻吊橋】と呼ばれ、世界一危険な吊り橋と言われている。
そんな吊り橋の奥には、一つの空間があった。
その異様な空間は、まさに闇。
「…ほぉ。私の国を潰そうとする者が来ると?」
威圧的な態度を取る女性。その女性は王族の大きな椅子に腰を掛け、足を組んでいる。
「はい。公に口にはしていませんが、彼等の思考は同じようです。」
「おやおや、ウエノ。いつになく慎重じゃないか。この私が負けるとでも?」
「…いえ。自ら挑んで来る者はこれまで居なかったものですから。」
「そもそも、この吊り橋の国の最奥地まで辿り着けると思うのか?私達の目の前に広がるのは深い森と無数の吊り橋、そしてこの夢幻吊橋という名のデス・ブリッジぞよ。そう簡単にはいくまい。」
「仰る通りです。では、念の為各橋に見張りの者を配置しましょう。」
「よかろう。いくつ渡れるか楽しみじゃのぉ。」
甲高い声は、闇夜にまで響き渡っていた。
次回もお楽しみに!




