十二日目 そろそろ家に帰りたいんだが?
「あのーすいません!そろそろ家に帰してくれませんかね!お母さんがご飯作って待っているんです!」
俺の声は無情にも地下牢内にのみ響き渡る。その言葉に反応してくれる者は誰一人としていなかった。
「そんな理由で誰がここから出すんだよ。」
手足を縛られた状態でもワカバは冷静に言葉を投げ返してきた。
「なあハズキ、お前何かしたの?何で初対面の俺達が牢屋にぶち込まれなきゃいけないわけ?」
「分かんないよそんな事…私だって目が覚めたら真っ黒な男たちに囲まれてたんだから…。」
「真っ黒な男達ってなんだ?」
「え?ボディビルダー?っていうの?身体がゴツゴツしていて、色は黒というか茶色というか。オイルとか塗ってるみたいにツルツルで、腕が四本あって、触覚もあったっけ…」
ハズキは何の違和感も感じず話を続けていた。
「…ちょっと待って。ツルツルまではまだ分かる、その後なんて言った、」
「え?腕が四本あって、触覚も…」
「そこおぉぉぉッ!なんで!?なんで普通に語り続けてるの!?腕が四本で触覚あるって普通じゃねえからッ!」
ハズキは「ハッ!」と声を出し、何かを思い出したのか、顔が青ざめていた。
「そういえばそうよね…よく考えたらあの人達腕と足で六本もあったわ…もしかして…」
「どう考えても人型ゴキブリだろうよ。駄目だって、人型のゴキブリはもう有名だから。こんな作品で登場させれないから!」
「あ、それは大丈夫。めっちゃ笑顔だったから。」
「微笑み関係ねぇわッ!」
すると、ワカバが「静かに。」と間に入った。
微かに足音がこちらへと近付いて来ているのがわかった。
牢屋の前に姿を現したのは、初めて見る顔容だった。
黒髪の色黒だがパッと見は人間のようだ。王冠やマントを身に付けているところを見ると、この国の王と考えるのが無難だろうか。
「其方達に頼みがある。」
王様はその場に膝を付き、俺達へ頭を下げた。
「頼みも何も俺達は訳も分からずここへぶち込まれてるんだが?」
「手荒な真似をしてすまないと思っている。しかし、こうでもしないと其方達は逃亡してしまうと思ったのじゃ。これまで来た人達も全員この村から逃げてしまったものでな。」
「一先ず訳を聞こう。」
ワカバの言葉で王様は頭を上げ、笑顔で「ありがとう」と呟いた。そして、王冠が吹っ飛び、一本の立派な角が飛び出した。
「なんでだあぁぁぁぁぁぁぁッ!」
角は茶色で、先端は二つに分かれている。
「どう見てもカブトムシよね…。」
王様は焦ったように角を隠し、「申し訳ない」と謝っていた。
しかし、俺はその仕草が気になってしまった。
「何故隠そうとするのです?」
王様は諦めたのか、角を隠してた手を離し、こちらへと向き直した。
しかし、何故だろう。真剣なのは分かる。
だが、真顔で角の先端に王冠をプラプラさせるだけはやめて欲しい。
今すぐにでも吹き出してしまいそうだ。
こんな時に笑ったら気まづすぎて死ぬ。
というか、その角で一本取られるのではないだろうか。
王冠を取るか、真顔やめるかしてほしい。
すると、王様は王冠を取り、寂しげな表情で一点を見つめていた。
「…もう気付いてはいると思うが、この村はドーナツ村と言って、昆虫族の住む村なのじゃ。」
「まあ、見りゃあね…(笑)」
俺はププッと息が溢れながらも返答した。
しかし、ワカバに思い切り叩かれてしまった。
「人間にとって、虫は嫌がられる生き物です。そんな虫が人並みの大きさになったら、訪れる人々は逃げてしまいます。我々はただ、助けを求めたいだけなのに。」
王様は涙を流していた。
その涙は憎しみでは無い。悲しみと悔しさの涙だ。
「なるほど。それで俺達が逃げないようにこんな真似をしたって訳か。」
「本当に申し訳ないと思っている…」
「まあいいや、ここから出れるならこの村助けてやろうぜ。」
ワカバとハズキは、微笑みながら頷いた。
「てことで王様。俺達はあんたらに手を貸してやる。さぁ、何をして欲しいんだ?」
「本当か!感謝する!では…」
俺達は今、村の屋上にいる。正確には村を囲っている塀の上と言うべきだろうか。
上空を見上げると、そこには一羽の小さな鳥がぐるぐると回っていた。
「…あれだよな?」
「…あれだな。」
「…あれよね。」
王様や村人は、上空に滞在している鳥を何とかして欲しいと言うのだ。
見た限りドーナツ村の昆虫族でも対処出来そうな大きさだが…
「油断は出来ない。何せこの距離だ、近付いてきたら異常な大きさっていう可能性もある。」
ワカバの言葉も一理あるが、どう見てもそこら辺の空を飛んでいる鳥にしか見えないのだ。
「一先ず呼んでみよう」と、俺はそこら中に木の実を投げ、手笛で鳥を呼んだ。
すると鳥は、こちらへ急降下してきた。
「来るぞッ!」
ワカバの言葉で、俺とハズキも戦闘態勢に入った。
ちゅんちゅんっ♪
目の前に現れたのは、カラスサイズのすずめであった。確かに、すずめにしては異常な大きさだ。
「…まだ油断しない方がいい?」
「…いや、むしろ油断しろ。」
「…ワカバさん、油断しろって言葉は聞いた事無いですよ。」
しかし、すずめは俺達に危害を加えるどころか、何度も腕や肩に寄り添っていた。
「かぁわいいいぃぃぃッ!」
ハズキがすずめを抱き抱えた。
すずめも満更でも無い様子だ。
この後、絶対にあの台詞言うよ。だって桃色の眼がキラキラしてるもん。
「私、この子飼う!」
ほらね、言った。
「まあ、駄目な理由はないが。」
「飼う理由もない。」
俺はワカバに続き、それとなく飼う意思は無いと伝えた。
「なんで?こおぉんなに可愛いんだよ?飼うしかないでしょお!はい!きーまり!」
決まっちゃったよ。
おじさんまだ良いよなんて言ってないよ。
「…確かに可愛いな。」
おい、緑のおじさん。てめぇまでそっち側言ったら、必然的に飼う事になるだろうが。
「おじさん、飼ってもいい?」
「誰がおじさんだッ!てめぇもおじさんだろうがッ!」
そんなこんなで結局すずめは飼う事となり、俺達はドーナツ村の王や住人に感謝された。しかし、すずめを飼育する事となった為、村への出入りを禁止された。
そして、村の外で野宿をして、二日が経った。
次回もお楽しみに!




