十一日目 迷子は迷子センターに行かなきゃ駄目でしょッ!
俺達は今、ジャングルを抜けた。
変わらない草木を何度も通り抜けた先には、一つの村が存在した。
村の周りには花畑が広がっており、牛が放牧されている。
心地よい川の流れの音が静かに脳内へと響く。そんな川には、幾つか小さな橋が掛かっている。
今までのジャングルが嘘のようなロマンティックな景色がそこにはあった。
「…すげぇ。」
「云わばジャングルは罠とでも言うべきだろうか。村を脅かす者はジャングルの餌食となる。」
ワカバの言う通り、ここまでの道のりは酷であった。ただの森を抜けるだけでなく、獰猛な生物がそこら中にうじゃうじゃしている。つまりはいつでも命を狙われていると言っても過言ではない。
周囲を見渡すと、村は円形の森で囲われているようだ。
このジャングル自体が大きな円形で出来ており、その中心に存在しているのがこの村のようだ。
俺達は村の入口に立っている門兵の所へと向かった。
「なんだお前達は。」
「怪しい者ではない。人を探していてな。全体的に桃色の女を見なかったか?」
説明していなったが、ハズキはとにかく全身桃色なのだ。唯一の違う色は肌の色くらいだ。
「桃色?そんな報告は受けていない!」
どうやらこの門兵はご機嫌斜めらしい。
「まあそんなカリカリしなさんな。ちょっとさ、上の人に聞いてみてくれないかな?いないならすぐにこの場を去るからさ。」
門兵は苦い表情を浮かべたまま村の中へと姿を消した。
村の中を覗くと村は二階層となっており、居宅だけでなく店や宿屋などもある。街灯などはなく、宙に提灯のようなものが吊るされている。
「なんともまあ、ミステリアスな空気だな。」
「…タケル、見ろ。」
ワカバが顎で合図をした。その方向からは、先ほどの門兵がこちらへと向かって来ていた。
「着いて来い。」
門兵の不愛想な言葉と同時に俺たちは村の中へと入った。
村はやや薄暗く、どこからかともなく太鼓の音が響いていた。
ドンドコドンッドンドコドンドンドンッ!と一定のリズムで繰り返している。
俺達が足を進めていると、村人は不思議なものを見る目でこちらを見ていた。中にはヒソヒソと噂話をするような仕草をする者もいた。
しかし、目つきの悪いワカバがそちらを見るだけで目線は全く感じなくなる。
「目つき悪っるッ!」
「生まれつきでな。こればっかりはどうにもできない。」
「試しに笑ってみてよ。」
…ニタァッ
「…なんかすみません。」
更に不気味になったのであった。
暫くすると、門兵が足を止めた。
すると、固く結ばれた南京錠を解き始めた。徐々に緩くなる南京錠と鎖は次第に地面へと落ちた。
「入れ。」
無表情な門兵を横切り中に入ると、そこは無数に並ぶ監獄のようになっていた。しかし、穴の中に牢屋をそのままぶち込んだような雑な状態だ。壁には松明が掛けてあるが、十分な明かりとは言えない。
「一番奥の牢屋に桃色の女がいる。貴様らが探している者か確かめろ。」
門兵の言葉でゆっくりと奥へと足を進める。途中の牢屋には、何人か囚人が滞在している。俺たちが足を進めるだけでこちらを睨みつけてくる。
「物騒な所だな。こんな所の一番奥に何故彼女が?」
ワカバが首だけを後ろへと向け門兵に問い掛けるも、門兵は目線のみこちらへ向けて無言のままだった。
「はい、シカトゥ!」
俺がワカバを煽るも、ワカバは何かを警戒している様子だった。
気が付くと一番奥の牢屋へと辿り着き、牢屋の中を覗いた。」
牢屋の中には鼻水を啜り、体育座りで端っこにいる桃色の女の子がいた。
「…ハズキ?」
振り返った女の子は桃色の髪を二つにまとめ上げており、暗くても分かるほどに桃色であった。その瞬間、間違いなくハズキであると確信した。
「ハズキッ!」
「すみっ〇ぐらしですか?」
ワカバの響く声と俺が冗談を言うとほぼ同時に、ハズキは勢いよく立ち上がりこちらへと向かって来た。
「タケル!ワカバ!きっと来てくれるって信じてた!」
「全く、迷子は迷子センターに行かないとダメでしょッ!」
そんな事をぼやきながら涙ぐむハズキを見ると、全身が泥だらけであった。
「ハズキ、なんでそんな泥だらけなんだ?」
「わからない…起きたらこんな状態で…。」
決して暴力を受けた訳ではない、これはワカバに手を離されて飛ばされた際に付いた汚れなのだと悟った。そして、俺とワカバは何も知らないふりをした。
「感動の再会の所悪いが…」
バンッ!
気が付くと何故か足が崩れていった。ハズキが何度も俺たちの事を呼んでいるのが分かった。しかし、返事をしようとしても意識が遠のいていった。
「やはりな…何かあるとは思っていたんだ…」
辛うじて意識が残っていたワカバは、ぼやけた視界のまま門兵の方を向いていた。
しかし、何かの棒で思い切り頭部を殴られ、完全に意識を失った。
次回もお楽しみに!




