わたくし、貴方とはお付き合いしませんけど? 〜魔眼持ちの教師ですが、教師が生徒に手を出すなんて絶対許せないので断罪してやります! だから……生徒である貴方とも無理なんですってば!
「イザベラ・クライン! お前は自分の血のつながった妹に恐ろしい嫌がらせを繰り返していたそうだな! そんな女は王太子妃として相応しくない! よってお前との婚約は破棄する!」
「そんな! ラインハルト様! 私の話を聞いてください!」
金髪キラキラの王太子に縋るのは、クライン公爵家の令嬢のイザベラだ。
豊かな黒髪が縦ロールに巻かれ、キツめの顔立ちは美人だが中々人を寄せ付けない迫力がある。
まだ10代であの貫禄は凄い。
そして、金髪赤目のイケメン王太子に寄り添うのは、元々平民の娘だったというイザベラの腹違いの妹ローラだ。
母親が死んでから公爵家に引き取られたのだ。その理由は珍しい聖属性の魔法の使い手だったからだとかなんとか。
色を見れば一目瞭然の金色の瞳が、その国内でも珍しい属性の証。あと、髪の毛がピンク。
髪の毛が変な色の理由は謎。多分可愛いからとか? 彼女の両親もそんな色じゃないし、他にそこまでぶっ飛んだ色の髪の毛の人いないから本当に可愛いから以外理由なんて無いのかもね。
そして、その髪と瞳の色は、この世界の主人公の証でもある。
「うーん、本当にゲームの世界なのねぇ。婚約破棄イベントが本当に起きちゃうなんて」
わたしく、メディー・ロックフェロー。
この王立魔法学園の教師をやってます。担当は呪いと闇の魔法学。
ちょっとこの世界とわたくしについてお話ししましょうかね。
わたくし、実は前世の記憶がございますの。あ、お薬は足りてます。
日本生まれの日本育ち。単なる疲れたよくいるOLでしたが、気がついたらここにいました。
仕事から帰るところまでは記憶があるので、事故にでもあったのかしらね。
この世界の主人公はさっきも言ったけど、あのローラね。
今、彼女を囲んでいる男達が攻略対象で、なるほど揃いも揃ってイケメンばっかり。
王太子に宰相の息子に騎士団長の息子、金持ちの伯爵家の息子に、なんとなんと薬草学の教師まで。
実はこの世界が自分の知っているゲーム「魔法学園の花園 〜運命の行方」だと気がついたのは、あの頭ピンクちゃんが入学した時だった。
だって、メディーなんて女教師はゲームには出てこなかったんだもの。モブって事なんだけど、その割にはキャラ属性が強すぎるような?
そうそう、ローラはあのピンクと金色の取り合わせで一発でわかったわ。
そして、彼女も中身日本人なのもね。
なんで気がついたかって? そりゃ、わたくし魔眼持ちですもの。
今のわたくしの見た目は、黒い地味でタイトなドレスに黒に銀糸で複雑な模様が施された布で目を隠している、本当にモブらしく無い特徴ある姿なの。
わたくしの魔眼の能力は千里眼。それで彼女の魂がわたくしと同じ出自だと気がついたわ。
狙っているのはハーレムエンドかしらって思っていたけど、随分と調子に乗っていたのはもしかしてゲームの内容をよく知っているからでしょうね。
基本は嫌われる方がずっと難しいようなヌルゲーだったんだもの。でも、イラストはかなり美麗だったし、ストーリーも良かったから売れてたのよね。
アニメ化なんかの話もあったくらいだもの。
あ、そうそう。あと、もう一つ気がついたことがあったの。
あちらの断罪話も佳境のようね。
だから――そろそろ断罪して差し上げましょう。
わたくしは教師。前世はともかく今は矜持をもって仕事にあたっている。
そして、わたくしの仕事は生徒を守ること。
例えそれがどれほどの悪女だったとしてもね。
――さて、始めましょうか。断罪を。
「ローラのお腹には私の子が宿っているのだ! つまりお前は未来の王の――」
「いいえ! 違いますわ! その胎児の父親は殿下ではありません!」
わたくしは歩み出た。
「貴女は……メディー先生、何を言っているんですか?」
王太子が訝しげな顔をする。
隣のピンクの子を抱き寄せて、何一つ疑いを持っていない顔だ。
「その胎児の父親はそこにいるモルティーン先生です」
他人事みたいな顔をしている下衆にビシッと指を突き立てた。
「な、な、何を言っているんだ!」
あーあ、ゲームにハマっている時は一番の推しだったのにね。
大人びて落ち着きがある名家出身のイケメン。他の主人公のクラスメイト達には無い大人の色気が美声から漂っていたのに……なんなの今の裏返って情けない声は。
ローラの行動の変化でこんなにキャラの性格って変わっちゃうものなのね。
「ま、生まれたらわかるかもしれないけどね。王家の特徴が一切なかったらそれでおしまいよ」
メディーは肩をすくめる。
ローラはワナワナと震えてた。いけない。妊婦にあまりストレスは与えたくないわね。
「そ、そんなわけないわ! 嘘よ! それに必ず王家の特徴の赤い瞳が出るわけじゃないし!」
「本当なのか? ローラ嘘だと言ってくれ! おい! たとえ教師と言えど証拠もなしにそんな事を言って許されると思うのか!? 王族に対する侮辱と見做すぞ!」
あらあら、俺様イケメンもこうなっては単なるワガママ坊やね。
どうしてこんなお馬鹿な子にかつてはときめいてたのかしら? 今では全く思い出せないわ。
「ちょっと落ち着いて、ラインハルト。証拠なら示せるよ」
ラインハルト王太子の肩を宥めるようにポンポンと叩いたのは、宰相の息子にして王太子の幼馴染みのオスカーだ。
銀髪に青い瞳のどこかクールな見た目で、表面上は優しいけど、心に闇を抱えて〜みたいな感じだったはずなんだけど……なんかそんな感じしないのよね。ヒロインの性格変化の煽りかしら? 食えない性格になっちゃったのよねぇ。
「ね、メディー先生?」
メディーの共犯者はニコリと笑った。
そう、彼はわたくしの共犯者。
イザベラの妹へのイジメとやらが無実である証拠集めをしていた所、不審に思われて色々問い詰められたの。
あのピンクちゃんの取り巻きの一人だからと最初は警戒していたけれど、話をするうちにローラのことはあまりよく思っていない事がわかったから、色々相談してみて、こうして協力が得られる形になったの。
ローラがオスカーを攻略しちゃう前だったから良かったのかしら? でも、なんとなく今のローラじゃオスカーは気に入らない気もするのよね。
おっと、つらつら考えている場合じゃないわね。
わたくしはオスカーが事前に用意してくれていた妙に装飾が派手な水晶玉のような石の装置をカバンから取り出し掲げた。
「そうね。胎児であっても貴族の子であるならば親から魔力を受け継いでいる。こちらは王家で保管している魔力測定器よ。これでお腹の中の子が誰の子か一発でわかるわ。良かったわねローラさん、もし国王にお腹の子はあなたの孫なんですなんて謀って違うとバレたら……家ごと大変なことになっていたでしょうね」
これは言わばこの世界の遺伝子の検査装置みたいなものかしら? 精度はわからないけどその場でわかると言うのは優れものよね。
「そ、そんな……」
ローラはその場に膝をついた。
「おい! 俺を騙したのか!?」
王太子がローラ食ってかかる。
「お待ちください! 母体に触りがあります! 怒鳴ったりしないでください!」
わたくしは急いで間に入った。そう、こんな生徒でもわたくしは守る。胎児に罪はないし、彼女をなんとかするためにこれまで活動してきたんですもの。
「メディー先生はやっぱり面白いね」
「大人を揶揄わないで……」
オスカーがクツクツと楽しげに笑っている。
「俺は王族だぞ! どけ!」
「ラインハルト、学園の中では教師の方が上だよ。入学する前に散々言われたことでしょ」
「オスカー! お前だれの味方だよ!」
「僕? 僕は美人の味方かなぁ?」
「美人!? あの女が?」
王太子は布で顔の半分を覆われたわたくしをマジマジと見る。
予想外のことを言われて、つい怒りが一瞬どこかへ行ったようだ。おとなしくなったのは良かったけど複雑ね。
「くそっ! お前のせいで!」
おっと、未成年の女子に手を出した腐れ外道がわたくしに怒っているわ。
あんなに睨みつけられては照れるわね。
ブツブツと魔法の詠唱を始めたけど――遅い。
わたくしは目を覆う布を取り払った。
ロリコン教師としっかり目が合う。それでもうおしまい。
「な……石化の…………」
わたくしはすぐに目を再び布で覆う。わたくしよりも魔力の少ない方は、目が合うだけで石化の呪いに掛けられる厄介なもの。
千里眼と石化、魔眼二つ持ちはこの国の歴史でも初なのよ。ゲーム開発会社はなんでこんなモブ作ったのかしらね。
「確かに……美人だな」
「でしょ」
オスカーが王太子に何故か得意げに言うもんだから、わたくしとしては呆れ果てるばかり。
「だから僕は絶対メディー先生を手に入れるつもりなんだ」
「教師から生徒を守るのもまた教師としての勤めです。例え、その教師がわたくしであってもです。恋愛なんてありえないわ」
「ほら、美人で楽しい人なんだ。逃すつもりはないからね」
とりあえず、わたくし側の断罪は成功。
外道ロリコンのモルティーンはわたくしたちが集めた証拠が認められ次第、解呪してもらえるみたいだから安心ね。
彼はローラを利用して自分の子どもを王族にしようとしたんだもの。今後どうなるかは……わたくしの知ったことではないわね。
ローラは出産後は修道院に行くらしい。モルティーンに騙され、脅されていた……という事にしてそれ以上の騒動にはならないようオスカーも父親を利用して色々取り計らってくれたそう。
わたくしは彼女を守れたかしら。
イザベラと王太子は婚約破棄した。王太子側のスキャンダルは多くの人が知る事になったもの。無理もないわね。
もしかすると、王太子の座も第二王子に譲る事になるかもなんて噂を聞いたけど、どうなるのかしらね。
「本当、教師のくせに生徒に手を出すなんて……」
後処理に追われながらポツリと声を漏らすと、地獄耳のオスカーが「ん?」と顔を上げた。
「僕は別に手を出されても良いよ、先生」
「ダメです」
「ちぇっ! 卒業まで後半年も我慢できるかなぁ?」
「卒業したからって付き合うなんて言ってませんよ」
オスカーにちゃんと釘を刺す。
最近はさらに距離感が近くなってしまって良くないわね。
「でもさ……」
オスカーの手が伸びてくる。
顔を引いたが間に合わず、布が外されて青い瞳と直接目があった。
オスカーは嬉しそうに微笑む。
「侯爵令嬢でもある先生の魔眼が効かないほどの魔力持ちなんて、国内に何人もいないんだよ? 僕にしておきなよ」
わたくしは――その少年の真っ直ぐな瞳に射抜かれて、石化したようにしばらく動けませんでした。
彼から逃げ切れるかどうか……自信はありません。
読んでいただきありがとうございました!
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⭐︎スペシャルサンクス⭐︎
私に小説の書き方を色々と教えてくれている師匠にあたる方の代表作が完結を迎えました。
【461さんバズり録】〜ダンジョンオタクの無能力者、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまうw〜
https://ncode.syosetu.com/n7721iz/
カクヨムにもあります。
王道の友情努力勝利にプラスしてダークソ◯ルっぽさがある作品です!
私のエッセイの宣伝もします!レビュアーだけど語り足りないので語らせろ〜底辺レビュアー日記
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最後に、こんなに長いあとがきをしっかり読んでくれてありがとうございます!下の方で何か反応もらえると嬉しいです(*'▽'*)
早速の⭐︎ありがとうございます!読んでいただいてる人も!PV嬉しいです!ブクマしてくれた人まで!本当にありがとうございます(ㅅ´˘`)♡感謝!
皆様の応援のおかげで4月6日日間総合(短編)ランキングで81位になれました!すごく嬉しいです!ありがとうございます!
わぁー!今日も読んでくれてる人いる!ありがとう!本当にありがとう!愛してるよ!